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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
四章:無謀に鬼謀、謀れよ乙女
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118話

 一行は、食堂を出て町へ向かう。それは武具以外の必要なものを買い揃えるためであり、また、共に行ってくれそうな仲間を探すためだった。

「よ、良かったのですか、レイス嬢」

 部屋を出てすぐ、シャナンはあづさにそう問う。

「だって、仕方ないわ。どっちにしろ私がやらなきゃ、魔王が人間の国に悪さをするかもしれないし。ああ言った以上、魔王は私が行くまでは待っててくれるでしょうし」

 あづさは肩を竦めて答えつつ、笑った。

「大丈夫よ。なんとかなるわ。きっと」

「そうは言っても……レイス、あなた、本当にやる気なの?」

「ええ、勿論よ。お姉様。そのためにもまずは町で人を探さなきゃね。一緒に行ってくれる人、居るといいんだけど」

 あづさがそう言うと、ミラリアはあづさの両手を握りしめてあづさを見つめた。

「私は一緒に行きますよ、レイス。ここまで一緒に来たんだもの。例え魔物の国にだって、一緒に行くわ」

「お姉様……」

 あづさとミラリアは見つめ合って微笑みあい、そして抱きしめ合った。美しき姉妹愛である。

「じゃあ俺もついてってやるぜ!」

 そしてそこにラギトも抱き着いた。あづさもミラリアもラギトにまとめて抱きしめられるような形になり、びっくりするしかない。

「な、何をしているんだお前は!女性に抱き着くなんて!」

「何言ってンだお前は!綺麗な女に抱き着かねェ方がどうかしてる!お前、馬鹿なのか?」

 そこでラギトはラギトを引きはがそうとしたシャナンを振り払うと、より強くあづさとミラリアをぎゅうと抱きしめた。

「大体!お前は付いてこないんだろ!?だったらもうカンケーねェ!黙ってろ!」

「何だと!?」

 シャナンは激高しかけ……しかし、ラギトの言うことも尤もだと思ったらしい。そこで黙ると、じっと考え込んだ。

「あの、シャナンさん?」

 あづさはそんなシャナンの顔を覗き込んで、申し訳なさそうに笑った。

「気を遣ってくれなくても大丈夫よ。魔王のところへ行くって決めたのは私だし、シャナンさんまで巻き込みたくないの。きっと危険なこともあると思うし……その……恩を仇で返す様な真似、したくないの……」

 シャナンはあづさの言葉を聞いて、そうですね、と小さく呟いた。

 そして。

「分かりました。ならば僕も腹を括りましょう」

 シャナンは、あづさが予想していたのとは真逆の返事をしたのである。

「僕も、同行させてください」


「ねえ、本当にいいの?」

 あづさはそう、シャナンに問う。

「ええ、勿論!あなた達のように美しい姉妹を放ってはおけませんよ。それに、商人として、王の武具庫には興味があります」

 あづさの問いに、シャナンは笑って答えた。

 彼の勇者の血がそうさせたのか、はたまた女好き故か、或いはミラリアに余程惚れこんでしまったのか。あづさには分からなかったが、彼は今後も協力者で居たいらしい。

「そういうことなら、いいけど……無理は、しないでね?」

「ええ。勿論。お気遣いくださりありがとう。しかし決めたことです。僕は勇者の子孫。勇者イーダの名に恥じぬよう、せめてあなた達の前では勇敢でありたい」

 勇者の子孫、ということが、彼の勇気を奮い立たせているらしい。恐らく、シャナン自身は大して戦えるわけでもないのだろうが……しかし、ここまで付いてきたがるなら、断るわけにもいかない。もしどうしようもなく重荷になったら、途中で置いていく術は幾らでもある。

 あづさはシャナンの同行を許可し、ラギトが「お前も来るのか!よろしくな!」とシャナンに抱き着くのを見て苦笑しつつ……さて、この後どうするか、と考える。




 一行が今後の方針を話し合うべく、中庭に出てベンチに腰掛けた時だった。

「お前達が勇者の一行ですか?」

 そう、優美な声が話しかけてくる。

 あづさ達が振り向けば、そこには美しい女が立っていた。

 ……昼の日光の下よりも、夜の月明かりの下に居る方が似合うような、そんな雰囲気の女だった。少々年かさなようには見えるが、具体的な年齢はよく分からない。そして何より、美しい。

「はい。レイス・アイリスです」

 あづさがさらりと偽名を名乗ると、女はゆったりした動作で近づいてきて、特に断ることもなくあづさの隣に腰かけた。

「お前のようなまだ幼い少女が戦いにやられるなんて、運命とはなんと残酷なものか」

 そして女はあづさの手を取ってそう嘆く。少々芝居がかった言い回しではあったが、不思議とそれが馴染んで見えた。

「あの、あなたは?」

 そこであづさが尋ねると、女は妖艶に微笑んで、答える。

「ダニエラ・アーリエス。先王の妃よ」




 ダニエラ。

 その名を聞いて、あづさとミラリアは緊張する。つまり彼女こそが、応接間の花瓶の盗聴の魔法を使っていた人物、ということになるのだろうから。

「お、お妃様、ですか!」

 だが、その緊張を相手の身分故のものと誤魔化して、あづさは体を竦める。ダニエラはそれを見てくすくすと笑うと、「緊張せずに聞きなさい」とやはり優美な声で言う。

「これからお前達は魔王の元へ行くのですね?しかし、この人数では心細いでしょう」

「え、ええ」

 あづさが頷くと、ダニエラはゆったりと頷いて、そしてあづさの目を覗き込んで、笑った。

「ならば、私の懐刀を貸してやりましょう」


「フォグ、来なさい」

 ダニエラがそう言うと、どこからともなく突然、男が1人現れた。

 あづさ達が驚いていると、ダニエラはより一層笑みを深めて、その男を示す。

「彼は私の懐刀。戦いの腕は相当なもの。きっとお前達の助けになるでしょう。フォグ。お前は勇者に同行し、魔王を殺す手伝いをするのです。よいですね」

 フォグ、と呼ばれた男はダニエラの言葉に黙って頷くと、あづさの前に立った。

 あづさは彼を見上げるようにしつつ、突然のことに只々戸惑う。……だが。

「……お前達に同行する。俺のことはフォグと呼べ」

 目の前の男がそういうので、はあ、と、曖昧な返事をするしかないのだった。




 あづさ達が町に出ると、フォグもついてきた。

 ……非常にやりづらくはある。どう考えても彼は、スパイだ。

 ダニエラの狙いが読めないが、間違いなく、フォグはあづさ達の監視のためにつけられている。となると、あづさ達は彼の扱いに戸惑うしかなく……。

「お前も一緒に来るのか!よろしくな!俺はラギト・レラだ!よろしくしてやるぜ!」

 ……だが、当然のようにラギトは変わらなかった。それを見てあづさは思わず笑う。

 少し、気を張りすぎたかもしれない。もっと力を抜いていい。だって自分は『何もかもがよく分からないまま急に勇者にされてしまった少女』なのだから。

 だから、今はフォグを疑うこともしなくていい。今後のことは考えなくてはならないにしろ、今から迷うべきことではない。

 ラギトを見ていると、迷いが晴れた。何も考えない、ということは最強である。そんなようにすら思えてしまった。

「ええと、フォグさん、よね?」

 あづさはおずおずと、それでいてきちんと相手との距離を縮めようという意思を持って、フォグの顔を覗き込む。

 霧がかかった湖のような、くすんだ薄い青緑色の目があづさを見下ろす。

「私、レイス・アイリス。これからよろしくね」

「ああ」

 フォグは特に大きな反応はしなかったが、あづさはそれでもいいわ、と割り切る。

 彼をどうするかはおいておくとして、今は別件が優先である。

 即ち、旅に必要なものの購入と……更なる人員の確保。





「えーと、じゃあ、必要なもの、揃えなきゃね。それから、他にも仲間がいた方がいい、わよね……戦えるのがラギトとフォグさんだけなのってやっぱり心細いし……でもどこに行ったら仲間って見つかるのかしら?」

 町を見回して、あづさは困惑気味にそう言う。何せ、勝手の分からない町だ。こういった反応をするのは、何もおかしいことではない。……無論、計算された反応であったが。

「おや。お忘れですか、レイス嬢。私の職業はなんだったでしょう?」

 そこへシャナンは、あづさの予想通り、笑みを浮かべてそう言った。そしてシャナンはウインクをあづさとミラリアに飛ばしつつ、得意げに胸を張る。

「さて。では早速、商人の腕前をご覧に入れましょう」




 それから、シャナンは店を巡り、交渉に交渉を重ねることになった。

 商人であるというのは本当らしい。あらゆる品を目利きし、値切り、時には自分の持ちうる人脈を存分に生かして立ち振る舞い、あづさやミラリアをダシにして、格安で必要な品物を揃えていった。

 食料や寝具、旅装や魔よけの道具など、購入したものは全て、王城へ送らせた。王は少々困るかもしれないが、あづさの知ったことではない。

 ……また、シャナンはそうしつつ、情報収集にも勤しんだ。

 つまり、優秀な傭兵は居ないか、というようなことをあちこちで聞いて回ったのだ。そして数人分、傭兵の情報を得ることができたのだった。


「まさかこんなに早く話が進むなんて思わなかったわ……」

 あづさが只々驚嘆していると、シャナンは誇らしげに笑みを浮かべた。

「さて。どうしましょうか。彼らに早速会いに行きますか?」

「そうですね。できるだけ早い方がいいでしょうから」

 そしてミラリアも話に乗り、一行はすぐ、傭兵達を紹介する店へと向かう。




 そして数十分の後。

 あづさ達の『一団』は、王城へ向かって行進していた。

 町の人々は一体何事か、とざわめくが、あづさはいっそ意気揚々と、王城へ向かっている。

 ……あづさの後ろに続くのは、多くの傭兵達であった。

『魔王』の名を出さず、ただ『とても危険な旅になるがそれでもいいなら』という条件で雇った傭兵達である。

 戦闘力については、吟味していない。とにかく人数を、ということであづさとミラリアは動いた。

 人を動かすことはあづさとミラリアの得意とするところである。ミラリアが誘惑の魔法を使って傭兵達の心を揺さぶり、あづさが言葉巧みに傭兵達の心を決めさせた。

 ここにあるのはそうして生まれた、総勢30名を超える軍団である。

「王様にお目通り願いたいわ」

 あづさは笑顔で門番に言った。

「武具庫に案内して頂きたくて!」


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