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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
四章:無謀に鬼謀、謀れよ乙女
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107話

「ン!なんかあづさが面倒ごとに巻き込まれてる気がするぜ!」

「それは一体何の魔法だ?探知したのか?」

「いや、勘だけどよォ」

「そ、そうか……外れているといいなあ、その勘は……」

 一夜明けて野営を続けている3人は、ひたすらに待ちぼうけであった。

「やっぱり俺もついてった方が良かったンじゃねェかなあ……」

「お前がついていくと余計な面倒が増えそうだが……だが確かに、回避できる面倒もあったか」

 あづさもミラリアも、女性である。それも、美貌の持ち主とくれば、そのせいで何かと面倒に巻き込まれやすいであろうことは想像に難くない。そこに1人、男が同行しているだけで防げる面倒もあっただろうが……。

「ミラリアはその手の対処にも長けている。心配には及ばない。人の心を操ることに関しては、オデッティア様と肩を並べる程の腕前だ」

「そう言ってる割にはよォ、お前、落ち着かねえ顔してるじゃねェかよォ」

 ラギトに指摘されて、ルカは言葉に詰まる。頭では分かっていても心が納得しない、ということは往々にしてある。今のルカはまさにそれだった。

「ところで、もしあづさ達に何かあったら、どうすんだ?」

「俺達も町に入るしかないな、その時は。……最悪の場合は俺が竜になって町を焼くが、それをやったら大問題だからなあ」

「案外、箍の外れたこともお考えになるのだな……」

「ま、いざとなったらそれだな!その時は俺も加勢してやるぜ!ラギト様の恐ろしさを人間共に教えてやる!」

 3人はそれから取り留めもなく、『町を焼かずにあづさとミラリアを救出する方法』について話し合うのだが……恐らくはこの話し合いが無駄になるということも、分かっていた。

 何せ、あの2人が失敗するとは思えないので。




 あづさとミラリアの元に店主が戻ってきて金貨の袋を渡す。これでひとまず、言い寄ってくる男から逃れることができたか、と思えば、男は全く動じることもなくあづさとミラリアの傍らに立つ。更に、店の出入り口には男の従者と思しき人間が数名居り、店をさりげなく出る、ということもできそうにない。

 仕方がないからもう無視して強行突破で店を出るか、とあづさとミラリアが目配せしていると、男はふと、店の中にあった髪飾りを手に取って、それをあづさの髪に飾った。

「ちょ、ちょっと!何すんのよ!」

「いや、申し訳ない。きっとあなたに似合うと思って。ああ、そうだ。この髪飾りはきっとあなたの髪を飾るために生み出されたものだ。よく似合ってる!」

 全く読めない男の行動にあづさが慄いていると、男は懐から白く輝く貨幣を出して店主に渡した。

「この髪飾りを頂こう。それから、こちらの指輪も」

 男は今度は指輪を棚から取ると、ミラリアの手を取って指輪を嵌めようとする。

「な、なにをするんですか!やめなさい!」

「おや、失礼。しかしこの指輪、きっとあなたに似合いますよ。それにもう買ってしまったものだ。僕が持っていてもしょうがない。是非、あなたに贈らせてください」

「知らない方から指輪を贈られても困ります」

 ミラリアは至極まっとうなことを言うのだが、男はまるで退く気配が無い。

「僕は似合う人の元に似合う宝飾品が行き届いてほしいだけなのですよ。どうぞお気になさらず。しかしもしどうしても気になる、というのでしたら……是非、お茶にご一緒していただけませんか?ほんの1時間程度、付き合っていただければそれで満足です。損はさせませんよ」

 ……男の言葉を聞いて、あづさとミラリアは顔を見合わせる。

 これはとんでもない厄介ごとであったが……同時に、チャンスでもある。

「……なら、たまにはこういうのも、いいかもしれないわね。どうかしら、レイス」

 ミラリアの目が、言っている。

『この指輪と髪飾りを売ってまた旅費にしましょう』と。

 なのであづさもにっこりと笑って、答えた。

「分かったわ、マリーお姉様。この人のお話を聞くのも、無駄じゃないかもしれないものね」

 あづさは『勇者の情報をこの馬鹿そうな奴から聞き出せるかもしれない』と目で語った。

 そして万一、これが誰かの謀略の一端であったなら……自ら飛び込み情報を攫うのもまた、一興、と。




 男が2人を連れていった先は、小洒落た喫茶店だった。男の言葉通り、そこで出される茶は花の香が素晴らしく、確かに損ではなかったか、などとあづさは思う。

「僕は幸運だ!こんなに美しいお嬢さん方とご一緒できるとは!」

 そして男はこの様子であった。

「ところで美しいお嬢さん達。僕としたことが、お名前を伺っていなかった。僕はシャナン・イーダ。あなた方のお名前を教えて頂いても?」

 シャナン・イーダと名乗った男はそう言ってあづさ達を見る。

「私はレイス・アイリス。こちらはマリーお姉様よ」

「ほう。マリー嬢に、レイス嬢、ですか。名前まで美しいとは!」

 シャナンはそう言って驚いて見せつつ……ふと、声を潜めた。

「マリー嬢とレイス嬢。お2人は本当に人間なのですか?」

「え?」

 まさか、と、あづさもミラリアも思いつつ、しかし、最後までしらを切り通すつもりで首を傾げる。するとシャナンはにっこりと笑って、言うのである。

「人間の町の様子を見に来た妖精か、それとも、お忍びで地上にやってきた天使様か。どちらにせよ、これだけ美しい人が居るなんて信じられない!」

 ああそういうこと、とあづさは内心で安堵した。この手の人間と話すのはどうにも得意ではない。だが、相手はこちらに好意的、少なくとも好意的な『ふり』をする気はあるらしい。ならば、それに乗って情報を得ることもまた、可能であるはずだ。

「シャナンさんは何を話したくて私達をお茶に誘ったの?目的は?聞きたいことがあったんじゃないのかしら?」

 なので早速、あづさはそう切り出した。勇猛果敢にもシャナンを睨むようにしてそう言えば、シャナンはきょとん、とした後楽しそうに笑いだす。

「ははは!何、目的があったならば、今この状態が既に目的を達した状況ですね!私の目的はただ、美しいお嬢さん方とお近づきになり、お茶の席にご一緒させて頂くことでしたから!」

 目的を明かす気は無いのか、はたまた、本当に単なる軟派な男なのか。よく分からないが、何にせよ、これが初めての『よく喋りそうな人間』であることには変わりがない。

 あづさは何を問おうか質問を考えつつじっとして……その間にミラリアが質問を挟む。

「ところでシャナンさんは、『イーダ』という家の出でらっしゃるのですね?」

 ミラリアの視線は、雑談にしては少々鋭い。そしてミラリアは、尋ねるのだ。

「あなたは伝説の勇者の末裔ですか?」




「ええ。私は勇者の家系の者ですね」

 あっさりと答えたシャナンは、少々誇らしげに笑みを浮かべる。

「やはり……イーダ、というのは、200年前の勇者の名前、ですね?」

「ええ。その通りです。勇者イーダは200年前、魔物に支配されていた多くの地を解放し、取り戻したとされています」

 シャナンの説明を聞いて、ミラリアは神妙な顔をする。

 200年前、というと、ギルヴァスが100歳になった頃のことである。ということは、ギルヴァスも勇者イーダとやらのことは知っているのだろう。

「勇者イーダがあってこそ、人間は領地を大きく取り戻した。今、我々が居るこの土地も、勇者イーダによって取り戻されたものなのです」

「成程……」

 恐らくミラリアも、知っているのだろう。興味深そうに聞いているものの、その表情の裏には少々の悔恨と憎悪が滲んでいる。

「じゃあ、シャナンさん。あなたも勇者なのかしら?その血筋なのよね?」

 すかさずあづさは口を挟んだ。勇者について更に聞きたいが、今はミラリアが平常心を取り戻す時間が欲しい。

「いいえ。現在のイーダ家は商いを営んでおりますね」

「ふーん。じゃあ、先程の宝石店にはお仕事の関係でいらっしゃっていたのかしら?」

「普段はあの時間に宝石店に立ち寄ることなどしないのですが。今日は何か……そうですね、自分でもよく分からないのですが、呼ばれたような気がして」

 あづさが頷きつつ話を聞いていると、ミラリアも自らの精神を律し直したらしい。柔らかな微笑みを浮かべて、鉄壁の精神を用意しているらしいことが分かった。

「不思議なものですが、もしかしたら勇者イーダのお導きなのかもしれない。この宝石店に美しいお嬢さんが居るぞ、ってね」

「勇者様のお導きに私達が釣り合うかどうかは分かりませんが、お話をお伺いできて光栄です」

 ミラリアはそう言って微笑む。

 妖艶ながら清楚、そして理知的であるその微笑みは、シャナンの心を揺れ動かさせるには十分だったらしい。

「い、いえ。釣り合わないなど、とんでもない!僕の方こそ、このようにお時間を頂いてしまって……光栄だというなら、僕の方ですね」

 照れたようにそう言って、シャナンは茶のカップを忙しなく傾けた。

 ……これは、落ちたわね。

 あづさは内心でそう思ってにっこり笑い、そして『落とした』ミラリアもまた、にっこりと笑うのだった。




「ところで、お嬢さん方はどうしてこの町に?見たところ、旅のご様子ですが……従者は?」

 シャナンの話が一区切りしたなら、次はこちらの番、ということらしい。あづさとミラリアは顔を見合わせ……そして、あづさが口を開くことにした。

「実は私達、こっそり人を探しているの。……勇者マユミの子孫のこと、知らない?」


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