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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
三章:はなせないもの
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102話

 地の四天王城に帰って、ギルヴァスは部屋で荷造りをしていた。

 着替えなど生活用品の他、簡単なものづくりの道具や武器も。

 ギルヴァスが最も得意とする戦い方は徒手空拳の単純なものだが、それを隠す為に剣や斧を使うこともある。

 旅人のふりをするならば、多少、武具を備えていてもいいだろう。ギルヴァスはそれなりに使い慣れた短剣を1振と、特に思い入れも無い斧槍を1振、持っていくことにした。

「……そういえばあづさには武器が無いな」

 そしてそこで初めて、あづさが身を守るための武器を持っていないことに気付く。

 何か希望があれば、倉庫にあるものなら何を与えてもいい。或いは、何か気に入るものが無いのならば新たに作ってやってもいい。

 何はともあれ、本人の希望を聞かない訳にはいかないだろう。ギルヴァスは早速、あづさの部屋を訪ねるべく、自室を後にした。




「あづさ、居るか?」

「はあい。入って」

 ギルヴァスが部屋の戸をノックすると、あづさはそこに居た。

 あづさもギルヴァス同様、荷造りの最中であった。尤も、あづさの場合、この城に置いてあるあづさ自身の荷物があまりにも少ない。精々、ラギトが寄越した服の類程度なもので、後はあづさがこの世界に持ち込んでしまった荷物一式のみ、ということになる。

 そしてあづさは荷造りをしながら、メモを書き連ねていた。

「これ、必要なもののメモ。ある程度は買わなきゃ駄目そうだわ」

「ああ、君の服は大体全部ドレスだもんなあ……」

「この世界に来てから、ドレスを着て生活するのに慣れちゃってるけどね」

 あづさが最近身に着けている衣類は、元々着ていた黒のセーラー服ではなく、ラギトが持って来たワンピースドレスの類である。ひらひらとして華やかなデザインのもので、決して動きにくくは無いのだが……何せ、目立つ。そして、旅装束としては、相応しくないだろう。よって、あづさは新たに服を買う必要がありそうだった。

「そうか。まあ、何にせよ食料の類は買わなきゃならんからなあ。必要なものが他にあったら言ってくれ。武器はどうだ?」

「武器?そうねえ、まあ、ナイフ1本ぐらいあってもいいかも。カッターナイフってあくまで文房具だから、武器として使うにはあんまりにも頼りないのよね」

 あづさは自分のポケットにずっと入れているらしいカッターナイフを取り出して眺める。あづさが魔王に傷を付けたり、はたまた自分の髪を切ったりするのに使ったカッターナイフだが、やはり、刃は薄く、頼りない。

「分かった。小ぶりで軽くてよく切れるナイフを1つ用意しよう。他は?」

「他?そうねえ、武器、って言っても、私、下手に武器を使うよりは魔法を使った方がいいと思うし。特に必要無いけど……」

 だが、ギルヴァスが更に聞いてみたところ、あづさからはそんな答えが返ってくる。

 もともと戦いとは縁遠い世界に居たあづさであるので、武器というものにはなじみが無いらしい。

「いや、何か目に見えるものを1つ持っていた方がいい。武器を持っているということは、戦える者だということを示すことになる。下手な輩に絡まれにくくなるぞ」

「ああ、そういう効果もあるのね」

 ギルヴァスのように体格の良い大男ならばまだしも、あづさのように見目麗しく華奢な少女が居たならば、妙な気を起こす輩も居るだろう。そして、その時にあづさが武器を持っていたならば、妙な気を引っ込める輩が居るかもしれない。そのためにも、ギルヴァスはあづさに武器を持たせておきたかった。

 だが。

「あ、そうだわ。私、鞭なら使えるかも」

「……むち」

「ええ。水の魔法を鞭の形にしたら、すごく相性良かったのよね。鞭なら軽いし、纏めちゃえばかさばらないし。必要無ければ荷物の中に入れておけるし。いいじゃない?」

 あづさは表情を輝かせてそう言うが。

「鞭、かあ……」

 ギルヴァスは困惑するしかない。

「な、何よ。何か問題ある?」

「いや、まあ、作れないことはないんだが……そうか、君が鞭か……」

 似合いすぎて怖いなあ、とギルヴァスは苦笑しつつ、しかし、あづさの頼みだ、断る理由も無い。

「最上級の鞭を1つ、作ってみよう。いい革が倉庫に在るんだ」

「へえ。じゃあ楽しみにしてるわね」

 あづさはにっこりと笑っているが……ギルヴァスの脳裏には、鞭を振り回して高笑いするあづさの姿が浮かぶのだった。

 やはり、似合いすぎる。




 それから2人は取り留めも無く雑談などをして時間を潰し……それからふと、ギルヴァスはあづさが荷造りをしていた机の上に目を留める。

 そこにあるのは、電子辞書と、スマートフォン。

「……ああ、ちょっと考えてたのよ。残ってた写真とか、メッセージとか、色々不可解だし……あ、これは置いていくわよ、流石に」

「そうだな。それがいい」

 ギルヴァスはそれらに目を留めて……それから、ふと、気になる事を思い出した。

「あづさ」

 改まって名を呼べば、あづさは「何?」と返事をしつつ、きちんとギルヴァスに向かい合うよう体の向きを変えた。

 ギルヴァスはあづさと向かい合って、そしてしばらく言い淀み……そこでようやく、口を開いた。

「君は『真弓』を生き返らせたいのか」




 あづさはまるでその言葉が聞こえていなかったかのように、表情を変えずに数度、瞬いた。

 だが、やがて作り物めいて表情らしくない笑顔を浮かべると、答える。

「そうね」

 その返答を聞いて、ギルヴァスは胸の奥を縄で縛りあげられるような、そんな気分になった。

「そういえばあなたにそんなこと、言ったかしら」

「……どんな魔法を使いたいのか聞いたら、人を生き返らせる魔法、と、言っていたと、思って。そして君は勇者マユミについて話している間、少し、その……様子がおかしかった」

 ギルヴァスは自分から尋ねたのに、まるで自分が詰問されているかのような奇妙な気分を味わいつつ、あづさの視線に晒される。

 あづさはじっとギルヴァスを見つめていたが……やがて、その表情をふと、緩めた。

「……真弓は、もう死んだわ」




「……そうか」

 重い空気に耐えかねて、ギルヴァスは視線を逸らす。自分から尋ねておいて身勝手な、と自分でも思うが、だが、どうにも、いつもと違うあづさの表情がギルヴァスを責め苛んだ。

「ああ、でも、変な心配はしないでね?真弓を生き返らせられるなんて、思ってないから。諦めはついてるの。もう真弓は死んだんだって、自分の中でちゃんと、整理はついてるのよ」

 あづさはそんなギルヴァスを気遣うようにそう言って見せる。それがまた、ギルヴァスには申し訳なく思えて仕方がなかった。

「だから、そんな顔しないで?」

「……すまん」

「いいわよ。あなたってそういう人だもの。人のことでも自分が傷ついちゃうのよね。なのに自分のことで他人が傷つくのは嫌なんでしょ?」

 あづさは少し揶揄うような表情を浮かべた。

「あなたのそういう優しい所、真弓にちょっと似てるわ」

 そして浮かべた微笑みが、不思議なほどに大人びて見えて、ギルヴァスははっとさせられる。

 だが一瞬の後には、あづさはいつも通りの勝気な笑顔を浮かべていた。

「そうね。あなたって、そういう人みたいだから……ちょっと、相談してみようかしら」

 あづさはそう言って少し考えてから、口を開いた。

「私が幼稚な嫌がらせ……まあ、いじめ、っていうのかしら。そういうのに遭ってた、って聞いたら、あなた、私の代わりに怒ってくれるでしょ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] むち、とギルヴァスの反応がかわいいです。ひらがな表記で繰り返すのが素敵。 鞭が似合いすぎるあずさをいじめるなんてなんて命知らずなんだ。ある意味勇者すぎますね。人食いザメがいる水槽に血が滴る指…
[良い点] 水の鞭の時にすごくいい笑顔で鞭振るってたんだろうなぁ…… ギルヴァス君がいけない道に走りそうw [一言] 暴力解禁されてたら多分日本でもいじめを返り討ちにしてたんだろうなぁ いや、この腹黒…
[一言] ギルヴァスならきっと…! 歩きやすいピンヒールも一緒に作ってくれるに違いない!!!
2019/12/30 00:05 退会済み
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