1ー7 異世界カルデリィウス
…コォー…ン コォー…ン
遥か遠方で響く乾いた何かを叩く音、それにすぐ近くで水の流れる音や、鳥のさえずりが聞こえてくる。
「ん……?」
カズヤは重い瞼を持ち上げる。
ついさっきまで暖かい場所にいたはずが、今は少し肌寒い。
そこは深い森、高い木々が生え、見た事のない植物が辺り一帯を覆っている。
まるで原生林だ。
「ここは…カルデリィウス、異世界についた……?」
空まで届きそうな高い木々を見てカズヤは思わず呟く。
(そういえば……そうだ!呪いはどうなったんだ…)
ふと我にかえったように、カズヤは自分の体を、
まるで触診するかのように触れてみる。
そんなカズヤが体を動かすたびに首輪がカチャカチャと音を出している。
「たしか、途中で女性に出会って、それで…」
途切れ途切れの記憶を何とか思い出そうとするが、どうも記憶があいまいだ。
「それで…どうなったんだ?途中から全然思い出せない…」
確かに女性と話したはず、しかしそれすらも今は疑心暗鬼になる、まるで一部の記憶を奪われたようだ。
記憶喪失を体験したとすれば、こういう感覚なのだろうか、カズヤはそんなことを考える。
「そうだ、そうだよ、ここが異世界なんだとしたら」
一瞬カズヤ閃いたように手をたたくと、続けて叫んだ。
「ステータスオープン!」
その言葉に反応し、カズヤの目前に画面が現れた。
オオガミ カズヤ
神人族
17歳
Lv3
力120(+3480)
体120(+3480)
早120(+3480)
知120(+3480)
運120(+3480)
スキル
【精霊魔法 エレメントソーサリー】
【言語 万能】
【苦痛耐性 中】
【完全切断】
【マギナ】
【全ステータス増加30倍】
【経験値取得30倍】
【限界突破】
【戦術(破壊・格闘)】
【錬金】
【索敵】
【黄金比率】
【悪の聖典】
【永遠之久遠】
【天照大御神の寵愛 神格級スキル】
詳細情報▼
(なんだこれは、能力値が異常だ…)
「それに。。」
カズヤは開かれた画面の隅々にまで目を通すが、あの悪神に関するスキルは見当たらない。
「やっぱりどこにもない、…」
そう呟くとカズヤは一つ気になるスキルに目を向ける。
【異世界神の寵愛 神格級スキル】
断片的だが、思い出したことがある。
誰かにこのスキルを与えられた最中に身体が楽になった。
悪神とは違う、とても優しく温かい誰かに。
「この能力の持ち主か…」
そんなことを考えていると、
後ろから何かが近づいてくる気配がした。
(なんだこの感じ?嫌な予感がする)
すぐさま後ろに振り向くが、生い茂った草木があるだけで何もない。
(勘違いか…いや、違う)
頭の中に声が響いた
【危険察知能力が発動されました】
「何かくる…!」
カズヤは身構え、集中力を高める。
今まで聞こえた鳥の鳴き声や、
水の流れる音が聞こえなくなった。
シンっと静まりかえった森で目の前に全神経を集中させる。
ガサガサ…
前の草木が音をたてる。
ガサガサガサガサガサガサ…
音がどんどん近づいてくる。
「バオオーーーっ!!」
怒声とともに草を掻き分けて大きな獣が姿を表した。
それは象と猪を足した様な姿をしているが、
とても長い足が6本あり、フォルムは虫を連想させられる。
体長はゆうに6メートルはあるだろうか。
「うわぁぁ!」
ドタドタと6本の足で地面を踏みつけながら、その獣は突進してきたが、硬直する身体をどうにか奮い立たし、ぶつかる寸前でカズヤはなんとか避けた。
獣も足を器用に動かしながら、減速しこっちに向きなおす。
「ブウーーブウブウー」
荒い鼻息をだしながら、カズヤを威嚇している。
(なんだ、なんで怒ってる!?)
「ん、この光は?」
カズヤ胸元に薄明るい光が見える。
そういえば、あの獣が突進してくるときにその前に光の玉が
フワフワと飛んでいた。
その光はカズヤの胸ポケットにスッと入るとまるで
隠れるように光を消した。
チラリと獣の方を見る。
獣は長い足で地面を蹴りながら威嚇はしているが、
まだ襲ってくる気配はない。
それならばと、獣の方から視線を外し、恐る恐る胸元のポケットに指を入れてみる。
軽く当たるのは、紙…レシート?あとはバイクの鍵か?
それと…ムニュっと柔らかい物?に指が当たる。
「キャ!どこ触ってんだよ!」
咄嗟に指を引き抜くと一緒に黒い物体がポケットから飛び出した。
ポケットから飛び出したソイツは空中でくるりと旋回するとこっちを睨みつけながら、ガミガミと喋りだした。
「いきなり、私の体に触るなんてどういうつもりだ!」
綺麗な銀髪、4枚の羽、空を飛び回りながら、キラキラと光をとばす手の平程の小さな少女。その姿はまるで。
「ー妖精?」
思わず口に出てしまう。
「妖精じゃねー、私は高位魔精のアリアだ!ん!?
お前、人間か?」
カズヤは一瞬驚きはしたがすぐさま冷静を取り戻した。
「高位魔精?まずは状況を説明してほしい」
カズヤは知力の赴くまま、現状を整理することに重点を置いた。
(これもステータス、能力の向上によるものか?やはり感情より先に言葉が出る。)
「へ!?あぁそれは!その、あの」
魔精はカズヤの対応の早さに、少し遅れなからも慌てて答える。
「ルナガスの森に探し物をしに来たんだ、そしたら、この獣の縄張りに入っちゃって…」
アリアは空を飛び回りながら、ジェスチャーを交えて必死に答える。
空を駆け回り必死のアリアの姿はカルデリィウスで、ピリピリとしていたカズヤを安堵させるには十分だった。
むしろ、可愛いとさえ思ってしまう、こんな状況で笑いが思わずこぼれた。
「とりあえず、人間?アンタじゃ到底勝てない!」
そういうとアリアはカズヤの左肩にピタリと止まり、獣を睨みつける、
「人間!あんたはスキル持ち?もしかしたら、討伐隊?それとも冒険者!?仲間はいるの!?」
まるで小うるさいインコのように、ガミガミど喋りかけてくる。
そんなアリアに肩を貸しつつ、カズヤは獣に目線を向けて質問に丁寧に答える。
「元人間だ、スキルはあるが使い方は知らない、討伐隊の意味はわからないが、所属はない、冒険者でもなくて仲間なんていなやしないよ、今まさに一人だ。」
カズヤが答えている間、獣もカズヤと目を合わせる。
特に襲うそぶりもなく、警戒しているように一定の距離を保ちながらカズヤの回りゆっくりと歩いている。
「ブウブウーブウーー」
鼻息だけが、森に響きわたる。
「元!?ん、どういう意味よ!スキルの使い方を知らない!?ん!どういう意味よ!」
「そのままの意味だ、使い方は知らないよ。」
その問いにアリアはすぐに答える。
「スキルの使い方なんて、覚えた時点で使えるじゃない!
アンタまさか小鬼なわけ!?意味わかんないわよ!!へんなやつね!」
ゴブリンとはまるでファンタジーな言葉だ。
しかし、バカにされたのだろう。
カズヤは直感的に感じとる。
(いや、これは知力がなくても理解できる、バカにされたな。)
そんなことを考えつつも獣をジッと見る。まるでみたことのないフォルムに、虫を連想させる異形だ。
しかし、不思議と恐怖はない。
(普通の、そう。熊よりは2倍近くあるのに、まるで怖くない。)
「はは、そりゃそうか、少女に比べたら」
そんなことを考えてクスリと笑うカズヤをみて、アリアが右肩でわめき声をあげている。
「バカバカバカバカ!!」
「何がおかしいのよっ!アンタ本当に小鬼なの!バカ頭なの!
スパイラスが今にも襲ってきそうなのよ!
まさかスパイラスを知らないの?あの獣は肉食で獰猛で縄張りに入った生物を地の果てまで追いかけて喰べちゃう恐ろしい生物なんだから!」
カズヤは、わめき散らすアリアの口元にソッと人差し指を当てる。
「まるでファンタジーだな。
でも大丈夫だよ、だって僕は、たぶんだけど」
その言葉にキョトンとするアリアを横目に獣は雄叫びをあげ、カズヤに突進してきた。
その刹那、アリアは確かにきいた。カズヤの言葉を。
「悪神様いわく」
「世界最強らしい」
ー世界最強だから。」
バキバキバキバキーードゴォーーーン!
同時に獣の突進音と木々をなぎ倒す炸裂音が辺りに響き渡った。




