1ー4 神人族(ゴッズヒューマン)
『オオガミカズヤよ、己が身を贄とし、世界を焼きつくそうぞ』
少女はそう言うと、カズヤの方に数歩近づき、銀髪をなびかせながら、指を向けた。
『まずは器(身体)を改変せねばな、人族では妾の力に耐えれぬゆえ。安心せよ、苦痛は一瞬じゃ。』
そう言ってニヤリと笑った少女の指先から黒い霧が現れる。
ー〈神格スキル【眷属化 神】が発動されました。〉
頭の中にまたもやあの声が流れる。
「やめ…」
カズヤが叫ぶのを待たず霧はカズヤを包み込む。
その瞬間、経験した事のない激痛がカズヤを襲った。
「!??がああぁー!!」
「ーや、やめ、痛い、止めてくれーーー!」
霧はカズヤの意思を無視して、身体に吸い込まれるように、ズルズルと音をたてて侵入いく。
それはまるで意思を持った生物のようだ。
黒い霧は身体を駆け巡り、這い回った。
内側から刃物でズタズタにされるような、そんな激痛がカズヤを襲う。
「あがぁあ…あ――痛いい!ぎぃあが…」
「あああああ――――っ」
カズヤの叫び声と共に口から血渋きが舞った。
血はキラキラと真っ白な世界を赤く色づける。
『ふわぁぁ…』
カズヤが激痛にのたうちまわる姿を見て少女は恍惚に満ちた表情をみせる。
口と目からはドロドロと血が流れ、あまりの痛みにカズヤは崩れるように膝をつく。
目から、口から、鼻から、手から、足から、ありとあらゆる所から、赤い血が流れでて、真っ白な地面を赤く染めあげていく。
内臓までも溶かされて、身体の外に流れてしまったみたいだ。
黒い霧は身体の中身を置き換えるように、何もかもを身体の外側に排出する。
「あ…あ」
(痛みもだんだんなくなってきた、寒い。このまま死ぬのか?)
口を動かす度に、壊れた蛇口の様に血が噴き出し、口一杯に熱い液体と鉄の味がひろがる。
(体が重い…まるで重油の沼に沈んでいく感覚だ…
これが死ぬってことなのか…)
薄れゆく意識の中でカズヤは昔を、…子供の頃を思い出す、
親を亡くした飛行機事故だ、あの時もこんな感覚だった。
あの時は…
走馬灯の様に事故の事を思い出しながら、力ない虚ろな目を少女に向けると目があった。
銀髪の少女は無垢な顔でこちらを見ながら、この状況を気にするそぶりもみせない。
『そろそろかの?』
少女の軽い口調と同時に今までの痛みが嘘の様にスッとなくなった。
「!?」
(なんだ、体が…)
今まで力の入らなかった手足にも力がはいる。
カズヤは恐る恐るその場から立ち上がると、動きを確認するように2、3歩足を前に進める。
足下に溜まる血は、確かに自分の身体から噴き出したもので、見れば致死量なのは明らかだ。
「何がどうなった、いったい何をしたんだ?」
驚くカズヤに目を向ける事もなく、少女はステータス画面を睨み付けている。
『成功じゃ!』
ステータス画面の薄青い光を出す文字をなぞりながら少女は嬉しそうに声をあげる。
オオガミ カズヤ
神人族
17歳
Lv3
力120
体120
早120
知120
運120
スキル
【精霊魔法 エレメントソーサリー】
【言語 万能】
【苦痛耐性 中】
【悪神の加護】
詳細情報▼
「これは…」
(ステータスの能力値が急激に上がってるのか?それに神人族って……)
少女が口をひらく。
『カズヤ、そなたは妾の眷属となった、生きながらにして生まれ変わりを体験したのじゃ。』
こちらの困惑した状況を理解してか、どこか説明するような口調だ。
「ー状況が完全に理解できない、神人族とは何だ?」
不思議な感覚だ、言葉が、思考が瞬間で纏まる。
まるで、今までかかっていた靄が無くなったように、頭の中がクリアになっている。
バラバラだった、パズルの答え合わせをするように、カズヤは続けて質問をぶつける。
「アンリ・マンユ……貴女は僕に何をした?それにこの感覚……まるで今までの自分じゃないような感じだ。これは君の能力によるものなのか、その画面…能力値の変化によるものなのか?」
『様をつけよ、アンリ・マンユ様じゃ。
知力が高くなった分か、なかなか生意気に口を聞きよる。』
少女は冷たい眼でこちらを見る。
『神人とは神至る者じゃ。ヌシは人ゆえに神人となるが、神の力を授けられたものだけが生れる。』
『ヌシの世界で例をあげるなら「聖人」と呼ばれた一部の人間か、それ遠くなく、まぁ似た存在じゃな。』
その言葉に続くように悪神が指で空をなぞると画面が現れ、その中に歴史の教科書でみた人物の顔が浮かびあがった。
(戦争なり、宗教なりで影響を与えた人物は皆、聖人?神人にななったのか?)
その映像をみてカズヤは続け様に考えた、
一番重要なことだ。
(この聖人達は歴史に、人類に、地球で影響を与えたんだ、
これと同じ状況の後で……?)
(ここから…元の場所に帰る…方法があるのか?)
希望がわいた瞬間、嬉しさのあまり飛び上がりそうになる衝動を拳に集中させた。
悪神に気づかれたら、良くない結果になりかねない、そう考えたのだ。
そんなカズヤを気にすることもなく、観察するように、悪神はカズヤを中心に周りをグルグル回りながら口をひらく。
『まぁ近いといってもトカゲと竜。今のカズヤとではステータスは天と地の差じゃがな』
『ヌシの世界の聖人など、所詮はどこぞの、名もなき神の言葉を受けただけ、スキル、ステータスはさほど人と変わらん。
まぁ、あっても【真言】程度の催眠レベルのスキルで、人族へ少々の影響を与えるのみ。』
『しかし、カズヤ。ヌシは違う。』
そう言うとアンリ・マンユは足を止めこちらに近づき、
カズヤの胸に手を当てた。
まるでカズヤの内にある心臓を愛しそうに撫でるようだ。
なんとも言えぬ感覚にゾクリとする。
『ヌシは妾が直接力を与えるのじゃから。』
少女はそう言うと嬉しそうに目を細目て瞳を輝かせる。
その顔はあまりにも美しく、綺麗で、カズヤは感情に反して一瞬、心臓高鳴るのを感じた。
『ヌシは神人、妾の眷属。「至る者」へと昇華したのじゃ。
わかるじゃろ?感じるはずじゃ。血が、臓物が、中身の全てが
変わったのを。』
『ヌシは人という虫でなくなった。妾の可愛い子、竜の子じゃ。
』
少女はまるで飼い犬を愛でるような瞳でカズヤをみる。
その瞳はさっきまでの好奇心だけを向けた眼でなく、少しばかり愛情のような感情を滲ませている眼をしている。
しかし、瞳の奥は今まで以上に、どす黒い何かが渦巻いていた。
「竜の子…?人では………なくなった?」
高い知力が望まない答え、真実を理解させた瞬間にまるでカーテンがかかったように目の前が真っ暗になった。
カズヤは少女が言った、生まれ変わりの意味を理解した。
あの時。
むごたらしく血を噴き出した時、
人としての大神カズヤは死んだのだと。