1ー2 悪神(アンリ・マンユ)
僕こと 大神カズヤはごくごく普通の高校生だ。
そんなある日、引っ越しのアルバイトで来ていたオンボロアパートの一室で、突然わけのわからない空間に迷いこんでしまった。
(夢か、幻覚か)
そんな僕の前に現れた一人の銀髪の少女
悪神
この日、この出会いが僕の運命を大きく変えたー
『なんじゃ、オヌシ。迷い子かえ?』
目の前でフワフワと浮かんでいる銀髪の少女は、こちらを興味深く観察するような目を向けながら、喋りかけてくる。
『入口の方から妙な力を感じたから、来てみれば、人族の童が一匹おるだけ。。しかしあの力は確かに。。』
ギロリとその美少女がこちらを睨むと目が合った。
その目はまるで深淵の…底の見えない深い深い穴のようだ。
『妾を見よ』
「………っ!!」
その言葉を聞いた瞬間、少女から目が離せなくなると同時に身体が感じたことのない感覚に襲われた。
「……あ…あが…」
震えが身体を襲い、上手く呼吸も出来ない。
(ーあの目だ、、あ、あの目を見るな……!)
細胞が身体に、脳に、信号を送る、目を反らせとー
(間違いない……っこれは…)
(昔、一度だけ感じたことのある、家族を奪ったあの事故の時……
幼かったあの時、僕はこの感覚に襲われたことがある)
(これはー、純粋な 【恐怖】 だ。)
『…ふふ、なんと、まぁ。』
その姿を見ていた少女がにこりと笑みを浮かべた。
(ーかは…っ!!)
それと同時に、僕の身体を押さえつけて締め付けていた【恐怖】が嘘の様に無くなった。
今まで酸素ボンベも持たず、暗い深海に潜らされていたような、そんな恐ろしい不安と恐怖の感覚がスッと無くなったのだ。
「…っハーッ!ハーッ!」
状況が理解できない。今はただ息大きくをすいこんで呼吸することだけを考えた。
ほんの数秒だったのだろうが、僕の体感では1時間にも2時間にも感じた。
『なかなかにて、面白いの、童よ。』
僕をみて、少女は呟く。
『か弱き人族が我の【深緑の魔眼】に耐えうるとは。。』
まるで不思議な光景を見たような顔をする。
『中身を壊して繰り人形にしてやろうと思ったのじゃがのぉ、経験ある聖者か、余程の阿呆か…』
そう言いながら、こちらを見つめるその眼は、先ほどの身体を締めつける恐怖はないが、とてつもない悪意に満ちた光を出していた。
『しかし、今の魔眼は人族が耐えゆる代物ではないはずなのじゃがー…はて…』
先ほどの恐怖から解放されて、荒い息をととのえる僕を余所に少女は、どこかあどけなさを残した顔で不思議そうに会話を続ける。
(この子は…人間じゃ…ない…)
そんなあどけなさの残る顔にカズヤは底知れぬ恐怖を感じた。
『ヌシは人族で無いのかえ?……もしくは勇者…いや…
そんなはずない、勇者はデピラに生み堕ちて数年、まだこの場所に来るには時期尚早、こんな童が賢者のわけはないし……。』
一人で呟く少女に対し、僕は質問する。
「…君こそ何者なんだ…一体なんなんだ!」
あの時の感覚が身体に残っているせいか、言葉が震える。
『妾かえ?』
こちら見てうっすらと笑みを浮かべ少女は答える。
『妾は命あるもの、すべての悪意の根源、絶対悪。』
悪い連なる神じゃ
『悪……神……』
普段なら当然信じないだろ、なにが悪意だ。
絶対悪だ、悪神なんだと。
しかし今は違う。
カズヤは、この数分で常識を破壊されたのだ。
身体が理解せずとも、心が理解する。
(目の前にいる少女は、間違いなく人間ではないと。)
呆然となる僕を余所に少女
は嬉しそうに言う。
『童。ここで逢たのも何かの縁じゃ。妾の眷属としてオヌシを飼うてやる』
嬉しそうにニコリと笑う少女を前に、
カズヤは思った。
(やっぱり、このアルバイトは間違いだった)
と。