その①
なるべく世界観が伝えられるようなプロローグにします
昨今の急速な情報技術の進化は、私達の想像を遥かに超えて、むしろ私達の非合理的かつ理想的な想像に寄り添った世界を実現させるに至った。
未来型ロボットは一世帯に一機と言われるまでに普及し、先進諸国の法規には必ずロボットに関する条文が埋め込まれているほどであった。
ありとあらゆるものが高度に代替されて分業化された社会による影響で自分の欲求でさえも直接にコミュニケーションすることはたとえ家族でも慎むべきだとする人が増えてきたとマスメディアは定期的に伝えていた。
そのような情報を見るたびにレイはひどくうんざりしていた。色々と思うところはあったが、自分で考えるのも面倒だった。ふとなんとなくSNSを見るといつものように自動翻訳された世界的オピニオンリーダーの言葉がちょうどこの問題について答えを示していた。
ようやく頭の中がスッキリしたレイは18時からコンビニバイトのシフトがあるとリマインドしてくれたマオのおかげで遅刻せずにすんだのだった。
コンビニに着いてもほとんど仕事はないが、それが人気の秘訣であり割のいいバイトだ。このためにレイは大学の合格通知が来てから、コンビニバイトをするために必要な免許である『丙種自動機械取扱者』の勉強をしていたほどであるし、その教習所に来ていた人はほとんど同じようなことを考えている学生ばかりであった。
仕事内容といえばコンビニの裏側にある重厚なポストボックスに品物が届けられているのかどうか確認したら会社から通達される暗証コードを入力することで自動品出しを実行させるくらいである。
いわばこのアルバイトはセキュリティー対策のエージェントとも言うべきだろうか。品物を発送する工程と到着した品物を整理する工程を完全に自動化して統一することで起こりうるセキュリティの脆弱性を懸念しているわけで、このように工程と工程の結び目にあえて人間を置くコンサバティブな企業が一定数存在しているのだ。
そのおかげでレイのような大学生は助かっているし、実際のところどちらがより強固なセキュリティと言えるのかは分からなかったが、このようなシステムが少なくとも大学を卒業するまでは絶滅してほしくないと多くの学生が思っていた。
あまり無いことなのだが、見たかぎり高齢の男性が商品の購入方法が分からないとレイを呼び出しにきた。高速道路の料金所を思い浮かべてもらえば、キャッシュレスの場合はETCのようにノンストップで決済が完了して現金決済の場合でも指定の場所に現金を投入するだけだという風に説明したが実際の彼の目的はただのおしゃべりであったらしい。
彼は饒舌で彼のここ数年の暮らしぶりを説明できそうなくらいに必要ない話を聞かされた。客との会話は原則的に禁止されているので何度かなんとなしに会話を中止しようと試みたが、彼の人生がレイにとってどうでもよかったようにこの老人には話す相手がいればそれだけでよかったので何を言ってもまるで聞こえていないようであった。
アルバイトは3時間単位か基本となっており、結局老人の長話以外は特にいつもと変わりなく暇をつぶしながら業務を終えた。
家への帰り道の途中でなんとなく彼の話の中でひとつ気になる話があったことを思い出す。
テレビではもっぱらの話題らしいが若者の間で自分の趣味嗜好性癖を満足させるようなロボットのクリエイトが浸透しており、それが希薄な人間関係や人間同士におけるコミュニケーション能力の低下に影響しているという。
レイ自身もロボットをクリエイトしていたが、それは別に若者だけというわけではなかったし、カスタムや自作は今の時代になると誰でもできるのだから身の回りのメカニカルなものはすべて持ち主の手が加わっていてもおかしくない。
むしろSNSのおかげでロボットを通じて色んな技術や知識を持つ人と出会って情報を交換をして交流することもある。自分のロボットにSNSを始めさせて人気のあるインフルエンサーにする人も多くいるし、SNSの運営側も区別がつくように登録情報を読み取ってアカウント名にそれぞれ人間用とロボット用の認証バッジを付けている。
ちなみにレイにそのようなセンスは無かった。ロボットにSNSを始めさせることもなくレイ自身が特にユーモアのあることも思いつくこともなく単調なことばかりを発言していた。(そういう人のほうが多いのだ)
そのせいか、あるときには運営側から『ロボットによる操作ではないことを確認してください』という通知が来たこともあった。結局2回ほど間違えてしまったがロボットではないことを証明できた。
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