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アーシェとクロスディアは森を抜けて、平野に出た。
その平野でコートマシンから降りると、互いに面と向かいあった。そしてアーシェは疲れた顔を浮かべ、クロスディアはいきいきとした表情を浮かべた。
「この平野はアリス平野というらしいね。いい名前だと思うよ。君の名前はなんというのかね、教えてくれ」
「アーシェ」
「私はクロスディアだ。本名ではない。さあ、チームを私と組もう」
「いきなりチームを組もうって、お互いの目的もわからないのに」
「わかるさ。プレイヤーの九割は億万長者を夢見ているものだ」
「そうだね。だけど、チームを組むにはあと一人、必要なんじゃないのかな」
「それは後々なんとでもなる。とりあえず二人で戦ってみればいい」
「私をなんでそんな買ってるの」
「単純さ。馬鹿だからさ」
「え……」
「ごめんいまのはうそ」
明らかに嘘ではなかったが、気にはしなかった。アーシェは細かいことは気にしないようにしてきた。これからもきっとそうするだろう。
二人でのチーム。つまり、魔法と銃ということは、近距離職がほしくなるところだった。剣、盾、魔法、銃、斧。その五種を選べる。剣か斧がほしいところだろう。チームはとにかく三人が最高だ。その分億万長者になるための財産を分配しなくてはならないが、はっきりいってそれは仕方がない。勝利というか、とにかくお金を手に入れるには、仲間は必須だろう。
一人では、おそらく他の者に先を越される。
三人目を見つけて、その三人でコートマシンを強化して、ニルス・オーラヴのいろいろなことをクリアして、なんとかして億万長者に!
大切なことだ。重要なことだ。必須だ!
とにかく、勝たなければならない。
アーシェはそのオッドアイを輝かせて言った。
「剣か斧を仲間にするって約束しようよ」
クロスディアは笑った。
「君とはどこかが通じ合っている気がする。いいチームになれるさ。約束しよう、次の仲間は近距離職だ!」
アーシェは、ちょっと気持ち悪いな、と思った。
コートマシンの名前を決めた。
『鉄男』だ。
クロスディアもコートマシンに名前を決めたらしかったが、その名前は教えてもらえなかった。本人だけの秘密だということで、やっぱりなんだかこの女はおかしいのではないかと、アーシェは怪しんだ。
街を見つけた。アリス平野を抜けて山を一つ抜けた先にあった街だ。
なかなか都会だという様相だった。マーズという名前らしい。マーズで二人はコートマシンの燃料を買わなくてはならなかった。燃料といってもガソリンんみたいなもので、細かい設定はされていないらしく、補充自体もさほど難しい話ではない。安いのだ。
鉄男の銃も買ってあげた。二丁なので少し高かったが、クロスディアが金を持っていたため、なんとか支払えた。チームだから所持金も折半ということになるので、クロスディアの持っていた金の半分で、だいたいの必要なものは買えた。
鉄男に新しいコートを着せてやりたかったが、さすがに金が足りなかった。コートは高いのだ。
「鉄男ー、どんどん最強にしてあげるからねー」
アーシェはそんなことを言いながら鉄男の右手と左手を動かして、銃をくるりと回した。スナイプタイプとアサルトタイプの二種類を持たせることになったが、狙撃の腕にはさほど自信がないのは問題だった。ニルス・オーラヴではこれからも厳しい戦いが予想されるだろう。同じプレイヤーたちの襲撃の可能性もあるし、NPCからの攻撃もあるかもしれない。
油断は禁物だ。
そもそも街の中が安心なんて誰が決めただろうか。
彼女らは襲撃される。
相手は、コートマシンに乗っている、三人だった。
また数で不利じゃないか、とクロスディアは悪態をついた。
でも戦うしかない。
「戦うしかない」
アーシェは鉄男のライフルを構えた。そもそもスナイプとアサルトを一丁ずつというのは無理な持ち方ではあったのだが、彼女はまだ気が付いていない。銃にもできることとできないことがある。其処らへんが甘かったという感じだ。
アーシェは撃つ。
クロスディアは唱える。
まずうまくいった。アーシェには天才的な才覚があるのかもしれなかった。片手でスナイプし、片手でアサルトした。どちらの銃弾も敵に浴びせることに成功したのだ。そこで足止めをしたところに、クロスディアの強力な魔法による雷と氷だ。右手から雷を。左手から氷を。そうやって浴びせた銃弾と魔法のおかげで、敵はたしかにひるんだが、敵もおとなしくひきさがるわけではなかった。
「俺の名を教えてやる。ガルメンだ。忘れず覚えておけ。ガルメンという者の存在を、お前らに教えてやる」
ガルメンと名乗ったコートマシンはしかし盾装備なので、味方を守ることが役割だった。なんというか、近距離職っぽいなあと思っていたアーシェは予想外の盾に少し面食らった。だが、ガルメンは強かった。
すべての攻撃をその身に受けて、仁王立ちのまま立ちふさがった。
「ガルメン、邪魔!」
アーシェはそう叫んでから、また背後の方を狙い撃ちしたが、背後の二人は剣装備らしく、素早く左右に動きながら、こちらへの太刀筋をうかがっているようだった。だからアーシェは思った。
(太刀筋が盾のせいで見づらい。このままだと、まずいのでは)
予想通りの結末となった。剣が二本、するどく突きとなって繰り出された。鉄男がその一撃を食らい、もう一撃をクロスディアのコートマシンが食らったことで、一気 に形勢が逆転となった。
(遠距離職だけじゃきついゲームだこれ)
そう気づいたがわずかに遅かったかもしれない。またも剣が放たれて、二機は地面にひれ伏す。
「くそ! そう簡単に負けられない」
「わかってはいるが、クライスチェルビーが限界だ」
「クラ……チェ……って、なに」
「クライスチェルビーだ!」
「鉄男みたいなものかな」
「そうだ。それよりもこんなところでゲームオーバーになってしまうというのか」
「嫌だ」
「私も嫌だな」
「でも動けないよ」
二機は動けなくなってしまった。そこで、ガルメンが突っ込んできた。
『盾だって攻撃できるのだ!』
そんなことをいいながら突っ込んできたガルメンを、誰が受け止められるだろうか。
いたのだ。そんなやつが。
クレイジーな新たな機影が一機、現れた。
「あなたたち、辛そう。助けてあげる」
それは巨大な斧を担いでいて……。一撃で、斧が盾をひるませた。
ガルメンは喚いた。
『ぬぅ、この重圧! やるではないかお主』
『私は温くないよ』
『かかってこい!』
『全員、邪魔』
そのコートマシンが斧を振り回し、三機の中心で回転した。その回転だけで三機が吹き飛ばされて、体勢が崩れたところがチャンスだった。
『今』
その女の声に合わせて、遠距離職の二人が本領を発揮する。
銃撃と魔法の乱撃。
三機とも、戦闘不能になった。
『そんなバカなあああああ。私の盾が、こんな女三人などにいいいいいい」
『よゆうだね』
その少女は小さく笑った。小さく、小さく。
そして名を名乗る。
『リルカ』
小さな少女の、大きな斧が、振り回されて地面を揺らした。
助けてもらった礼もかねて、二人はリルカにおごろうかと思ったが、金がなかった。
だがガルメンと仲間の二人が持っていたお金を使って、三人ともいろいろと買い物をした。
食べ物も食べてみると、おいしかった。
ニルス・オーラヴが架空の世界だということを忘れてしまうほどに、美味だったのである。