BLな世界で本気の恋愛をするお話
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このお話は「BLな世界でノンケががんばる話」の二次創作になります。
原作者様の許可はいただいております。
先に原作を読んでからお読みください。
以上を踏まえた上で楽しんでいただけたら嬉しいです。
「和樹、久しぶりだな」
なるべく自然に、気負わず、友人の距離で。狩野真は震える手を抑え込んで槇原和樹に声をかけた。
「ああ、真か。お前は変わったなぁ」
変わったといって笑いながら、それでも出会ったころのように柔らかく言葉を紡ぐ存在に真は意識のすべてを持っていかれる。そして『会いたかった』という言葉をかろうじて飲み込むと、離れていた中学時代の時間を埋めるように距離を詰めて再び彼の隣に立つことができた。
それが高校の入学式での出来事。
自分の正体とこれから起こるであろう出来事に絶望して和樹から離れ、荒れた性格と容姿を形作った中学時代からようやく立ち直った俺に与えられた福音。同じ仲間たちとは一線を画した大切な人は、幼い頃と変わらずに狩野真へと信頼を向けてくれた。
ただそれだけのことがどれだけ俺を救っているか、和樹は思いもよらないだろう。
出会ったころから抱えていた友愛は、今は形を変えて俺の胸の内にある。けれどそれを和樹に告げるつもりはない。和樹が俺を親友だというのなら、俺はその役割を喜んで演じよう。和樹の幸せが俺以外にあるというなら、俺は遠くから見守るだけでも構わない。
だからどれだけ和樹のそばにいることができるかは判らないが、今、この時に出会えた奇跡を大切にしようと思った。
見た目は金髪に着崩した制服、鋭い目つきによく通る低い声。面倒な仕事をこなしているうちに身長も伸びて筋肉がつき、体格に厚みもでてきた。
この世界での狩野真は男らしい男だ。自分が人ではないと判った時も、和樹が異性愛者だと知った時も同じくらいの衝撃を受けたのは覚えているが、それでも自分は何も変わらなかったのだが。
「なぁ、真。質問、いいか?」
高校での再会から昼食を一緒に取るようになった和樹が眼鏡の奥に好奇心をのぞかせて笑った。真は最近はまっている濃い目な乳酸飲料を飲みながら釣られて笑う。
「なんだよ? 急に改まって」
食堂のテーブルで向かい合って座っていた二人の前にはあらかた片づけられた食器が置いてあり、なぜか和樹はそれらを横に除けてから顔を近づけて小声でささやいた。
「お前、下の毛も金色なの?」
「ぶほっ、ごふっ、げほっ」
タイミング悪く飲み物を口に含んでいた真は、あまりの衝撃に咳き込んで正面の和樹の顔に吹き出してしまう。それほど量が多くなかったとはいえ、至近距離にあった眼鏡や頬に飛沫が飛んで白く濁った液体があごまで滴った。
「っ、悪い! 和樹!」
慌てて立ち上がり、驚いて離れてしまった和樹の顔をポケットから取り出したハンカチで優しく拭う。
「いや、俺も変なこと聞いて悪かったよ」
伊達メガネを外してティッシュで拭いながら苦笑いを浮かべた和樹だが、糖分過多なソレはふき取り切れずにレンズを濁らせてしまった。
「うわ、ベタベタする。水で洗わないと駄目だな」
少し湿った前髪をかき上げて額を出し、伏せられた長いまつ毛の奥には縁が薄く緑がかった茶色の目がある。唇は薄いがピンク色でシャープな顎から白い喉仏まで見えて、真は思わず唾を飲み込んだ。
「ちょっと流してくるよ。お前は大丈夫か?」
「大丈夫だ……本当に悪い」
邪な考えなど一切なく純粋に自分を心配する言葉に、真はテーブルに額を付けて謝罪する。否、顔を伏せて質問に答えたのではなく、立っていることができなかったのだ。
「気にすんなよ。すぐ戻るから」
和樹の気配が遠のいても真は混乱で動けない。というか――勃った。下半身が、完全に。
脳内では先ほど見た驚いた和樹の顔が、あごから滴った白い液体が、普段は眼鏡に隠れている綺麗な目が、『ベタベタする』と唇を舐める赤い舌が、ゴクリと何かを飲み込んで動く喉仏が何度も再生されていた。一部、事実にない妄想が混じっているが、今の真にそこまで気が付く余裕はない。
「あー、マジかー」
種族的にも真自身もそういった欲求は薄いほうだと思っていたが、どうやらそんなことはなかったらしい。
肉体に精神が引きずられているのか、和樹が特別なのかと自問していたが、答えを出すより先に今はどうにかして下半身を鎮めなければならない。仕方なく学校にいる同族の顔を思い浮かべればあっけないほどすんなりと落ち着いた。
「不毛だよなぁ」
真はようやく赤みの引いてきた顔を上げ、先ほど噴出した中身の入ったペットボトルを極力目に入れないようにしながら自嘲気味に小さく笑う。
恋を自覚したと同時に自分が人間ではなかった現実を知り。性欲を覚えたところで相手は異性愛者で。
胸の奥が痛みに軋み、真は拳を握り歯を食いしばって耐える。やせ我慢でも自己暗示でもなんでもいい。今は任務に支障のない範囲で和樹を親友として守ることだけ考えろ。
あふれ出そうな感情は心の奥底に鎮めて、その上を使命や理性で幾重にも覆い隠すと何もなかったかのように和樹を出迎えた。
巻き込むまいと思っていた自分たちの事情に彼が入り込んでくるのはもうすぐ。
そして悪魔の触手に捕らわれ引きずり込まれる姿を見て、心を縛っていた枷が粉々に砕けるのはもう少し後の話。
那智さんには二次創作掲載の許可を快く下さりありがとうございました。
書いていてとても楽しかったです。また機会がありましたらよろしくお願いしますね!(←また書く気満々です)