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夜空に部屋を浮かべて

作者: コウタニ
掲載日:2017/06/28

 今日は蒸し暑い夜だった。

 でもハシリイカは涼しげな顔をして僕の前を通り過ぎて行く。

 夜空がいつもより濃くて深い感じがする。

 星の輝き方もいつもよりちょっと強い感じがするし、耳を澄ますと星がパチパチと鳴る音も聞こえる。

 眺めていると吸い込まれそうになって僕はちょっとふらついた。

 前を見るとマモルが歩いているのが見えた。

 僕はピョンピョンとハシリイカの頭を跳び越しマモルの横に並ぶ。

「やあ、マモル」

「やあ、ユキオ」

 僕はちょっと緊張していたけど、いつも通り何でもないふりをしてマモルに話しかけた。

「なぁマモル、先生の家に行く前に提灯ガエル捕まえないか?」

「ああ、いいよ」

 僕たちは草むらに入り、地面のいろんな場所をドンドンと強く蹴った。

 しばらくそんな感じで地面を蹴っていると光が漏れてくる場所を発見した。

「マモル、見つけたぞ」

 僕は光が漏れてくる地面の穴に手を突っ込んで、提灯ガエルを捕まえた。


 先生の家は5階建てのアパートの最上階だ。

 アパートはその全体を植物に覆われている。

 僕はアカミツの実を2つもぎ取り1つをマモルに渡した。

 予想通りもぎ取ったアカミツはとても甘くおいしかった。

 僕は前においしいアカミツの見分け方を先生から教わっていたんだ。

 玄関の扉を開けアパートの中へ入る。

 アパートの中もこれまた植物で覆われている。

 僕がいつも通り階段で上って行こうとするとマモルが「今日はエレベーターに乗っていこう」と言った。

 僕はちょっと驚いた。

 何故かっていうと、マモルはいつもエレベーターに乗りたがらなかったからだ。

 それでしかたなく階段で5階まで行ってたんだ。

「よし」と言って僕はエレベーターの前へ行き、ボタンを押した。

 エレベーターの扉はすぐに開いた。

「こんばんは」

「はい、こんばんは」

 僕たちはエレベーターの住人に挨拶をして中に乗り込んだ。

 エレベーターの住人はいったい何時からここにいるんだろう?

 僕の考えでは恐らく僕らが生まれる前からここにいるんじゃないかと思う。

 だってエレベーターの住人の体はほとんど壁と同化してしまっているんだから。

 マモルはちょっと背伸びをして5階のボタンを押した。

 扉が閉まりエレベーターが動き出す。

「今日は蒸し暑いですね」

 僕はエレベーターの住人に話しかけてみた。

「ほんとにねぇ」

「窓も何にもないから暑くて大変じゃないですか?」

「いいや、私は暑くてジメジメしている所が大好きなんだよ」

「はぁ、そーですか」

 階数の表示ランプは3階の所で光っている。

「ところで、その提灯ガエル、おいしそうだね」

「これ食べる用じゃないんです」

「ああ、そうなんだ。こりゃ失敬」

 昔は提灯ガエルを食べていたって聞いたことがあるけど、今提灯ガエルを食べる人なんていない。

 エレベーターが5階に着き扉が開いた。

「それじゃ失礼します」

 僕たちはエレベーターの住人に挨拶をしてエレベーターを降りた。


 アパートの5階は先生だけの部屋になっている。

 マモルがチャイムを押すと「入ってこーい」と中から先生の声がした。

 玄関の扉を開けるとそこはホンワリとした光で溢れていた。

 部屋の中を照らしている光はすべて植物や動物、魚なんかの光だ。

「こんばんは」

 そう言って僕は先生に提灯ガエルを渡した。

「おう、青色提灯ガエルだな」

 先生は提灯ガエルを受け取ると、机の上にいる赤色提灯ガエルの横に並べて置いた。

 提灯ガエルは体を膨らませると赤色と青色の光を交互に光らせ始めた。

 僕たちは部屋の中をぐるりと見渡す。

 本当にいろんな光がある。

 3つある大きな水槽には光る魚やクラゲなんかが入っていてゆっくりと泳いでいる。

 部屋中いたるところに光る植物が置かれている。

 そして部屋の奥ではトサカとクチバシを光らせたアンドンチョウが電気スタンドみたいな感じでジ~として立っている。

「お前ら汗だくだな、ちょっと待っとれ」

 そう言って先生はタオルを持ってきて僕とマモルの顔をゴシゴシと拭いた。

 それから台所へ行き冷蔵庫からジュースを取り出すとコップに注ぎ僕たちの所に持ってきてくれた。

 びっくりしたことにジュースまでほんのりと光っている。

「ありがとうございます」

 お礼を言って僕たちはジュースを一気に飲み干した。

「先生、幸せマシーンのほうはどうですか?」

 僕は尋ねた。

 幸せマシーンとは先生が作っている大きな機械で、これを使えば世界中の人が幸せになるという代物だ。

「うーん、あと少しといったところだな」

「だってさ」

 僕はマモルを見たが、マモルは静かに微笑んでるだけだ。

「お菓子もあるぞ、そこのテーブルに座って待ってろ」

 先生はまた台所へ行き、手作りのお菓子を持ってきてくれた。

 先生の作るお菓子はどれも美味しい。

 その中でもチョコレートクッキーが1番美味しいと思う。

 僕たちはお菓子を食べながら学校でおきた出来事を話したり、先生が研究していることなんかを教えてもらったりした。

「それにしても今日は暑いですね」

 僕がジュースを飲みながらそう言うと

「そうか? それじゃちょっと涼みに行くか」

 と言って先生は手を大きく1回”パンッ”と叩いた。

 急に先生が変なことをしたので意味が分からず、僕とマモルは思わず顔を見合わせた。

 先生は手を叩いたっきり、何かを待つように動かない。

 全然動かないんで、僕たちは可笑しくなってクスクスと笑った。

「どうだ、段々涼しくなってきたんじゃないか?」

 1、2分して先生が喋った。

 確かに涼しくなった気がする。

「ちょっと来てみぃ」

 先生は立ち上がり、窓の所まで歩いて行く。

 僕たちも窓の所へ行き、そして外を見て驚いた。

 夜空に部屋が浮かんでいたんだ。

 上を見れば星が輝いているし、下を見ても町が星のように輝いている。

 僕はまた星空に吸い込まれそうになって頭がクラクラしたけど、窓から入って来る風がとても気持ち良くてすぐにシャッキリとした。

 部屋が夜空にふわふわと浮かんでいる。

 僕はこの部屋から見える景色を忘れないでおこうと思った。

 何か嫌なことや腹が立つことがあったとき、この景色を思い出せば気持ちをスーッと落ち着かせることが出来ると思ったからだ。

「マモル、町が星みたいに光ってるぞ」

「うん、綺麗だね・・・・・・綺麗だけど・・・」

 僕はドキリとした。

 何を言うかは分からないけれど、とにかくマモルが次に言う言葉を僕は聞きたくないと思った。

 そしてマモルもそれ以上何も言うことはなかった。

 それから僕たちは先生が作った不思議なカードゲームで遊んだ。

 どれくらい時間が経ったんだろう?

 先生が「そろそろだな」と言ってゆっくりと立ち上がった。

 僕とマモルは何も言わずただじっと座っている。

 先生は窓のところへ行き外を見る。

 マモルも立ち上がり先生の横へ行って外を見る。

 僕も2人の横へ行き外を見た。

 先生が見ている方向を見ても、そこには星しかない。

 僕もマモルも先生も何も言わず、ただただ外を眺めていた。

 しばらくして僕は「あっ」と声を上げた。

 1つ動いている星を見つけたからだ。

 その星がこっちに向かってくる。

 だんだん近づいてくると、それは星ではなくバスのヘッドライトだということが分かった。

 バスは部屋の玄関の前まで来ると、静かに停車した。

「じゃあ行くね」

 マモルがそう言って歩き出す。

 僕は何を言っていいのか分からず、ただ黙ってマモルが出て行くのを見ているだけだ。

 マモルはバスに乗ると後の方の席に座り、窓を開けた。

「じゃあね、ユキオ。さようなら、先生」

 扉が閉まり、バスがゆっくりと動き出す。

 バスが離れて行くと、その距離の分だけ僕の胸の痛みも強くなってくる。

「マモルー!」

 僕は力いっぱい叫んだ。

 マモルは窓から体を出し、僕たちに向かって手を振った。

 僕も大きく手を振った。

 バスが星空に向かって走って行く。

 僕と先生はバスが見えなくなるまでずっと見送っていた。


 朝7時、目覚まし時計の音で俺は目を覚ました。

 何か夢を見ていたはずだが、まったく思い出せない。

 ただ悲しい夢だったということだけは覚えている。

 朝からなんだか暗い気分だ。

 でも会社へ行き忙しく働いていれば、すぐに気分は晴れるだろう。

 このところ熱帯夜が続いていて汗でパジャマがベトベトだ。

 カーテンを開け服を着替える。

 今日も暑い1日になりそうだ。

 今夜も熱帯夜になるようだったら、夜空に部屋を浮かべてみよう。


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