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シンパシー

 


「おーい、洸ちゃん」


 振り返ると長身のイケメンが人懐っこい笑顔を向けている。


「お、翔也か、おはよう」


 彼は東翔也(ひがししょうや)。中学ではサッカーを一緒にやっていてチームで一番仲が良かった。ピッチでも教室でも明るくてムードメーカーのような存在だ。高校も同じだと知った時は本当に嬉しかった。


「一緒に行こうや」


「ああ」


「昨日は何してたん、また妹か?」


 さすがは翔也。付き合いの長さもあってか素早く察してくれる。


「んー、まぁそんな感じかな」


「ほどほどにしとけよ、莉奈ちゃんも小さい子供ちゃうんやから」

 心配そうな顔付きで諭すように言われる。


「そういう問題じゃないんだよ」


 ついつい少し強い口調になってしまった。


「あーはいはい、そういえば俺たち同じクラスやったぜ」


「本当に? それは心強いよ」


 人気者の翔也がいるならうまくクラスに入っていけそうだ。初日休んだけど。

 なんとなく楽しい学校生活になりそうな気がする。


「それでなぁ、うちのクラスにすっごい美人がおったで」


「どんな人?」


「さすがのお前でも知ってると思うわ、まぁ見てのお楽しみやな」


 翔也は楽しげな表情を浮かべる。

 見たらわかるって言われてもなあ。 気になるけどあんまり考えたくないし答えをすぐに教えて欲しかったが翔也は口を割らなかった。




 昨日の朝は車に当たられ、気を失ったみたいだがなぜか無傷で済み、今日は元気に学校へ向かっている。

 おそらく愛だろう。愛。莉奈への想いは自分でも計り知れない。


 莉奈は病院に付き添って行ってくれたみたいだが目覚めたときには既にそこにはいなくて、家に帰ってきても目も合わさずに部屋に戻り、一言も話そうとしなかった。


 今朝も起きたらもう既に家を出ていた。口ぐらい聞いてくれたっていいのに。そういう年頃なのか寂しいもんだ。




 教室に入ると、この時期独特の緊張感をなんとなく感じる。教室は概ね静かだが、そんな中、後ろの方で女子数人が一つの机を囲って話すのが目に入る。


「ほらほら、あの集団の真ん中にいる子や」


「さっき言ってた美人さんか」


 ショートボブでグレーとベージュを7対3で配合したような透明感のある不思議な髪色をしている。遠くからで顔まではよく見えない。


「良かったな、洸ちゃんの席のちょうどあの子の隣やわ」


 相変わらずの気配り。小さいことだけどそれが翔也の評価を作っているんだろうと思う。


「そっか、ありがとう」


 窓際の一番後ろの席に向かい、荷物を下ろす。一瞬横の集団の視線がこっちに動き、俺も同じようにそっちに目をやると例の美人と目が合った。


「あなた、りなたんのお兄ちゃんじゃない」


 色白で繊細な肌。端正な顔立ちに一際目立つ猫みたいな丸目。そして一昨日、家サッカーの騒音に苦情を言いにきたあいつ。これは間違いない。


「大隣さくら」


「違うわよ」


「え?」


 彼女はいたずらっぽく笑う。


「私は小林真瑚(まこ)、よろしくね」


「ひょっとしてあれは芸名?」


「そうよ。これからはまこ、って呼んでね」


「おーい洸ちゃん、やけに仲良くしてるやんか」


 どこからともなく翔也が割って入る。


「あら、東くん、おはよう」


「まこちゃんおはようさん。なんや洸と知り合いなんか?」


「ええ、一昨日はお家にお邪魔したわ」


「はっ、なんやて、洸それほんなんか」


「うん、一応ね……」


「おいおいどういう関係なんや、お前は莉奈ちゃん一筋やろうが」


「当たり前だろ、それは愚問だよ」


「お前ほんまに清々しいよなあ。真似できんわ。まこちゃんはこいつがひどいシスコンやて知ってんの?」


 悪い顔をしながら翔也は真瑚に耳打ちする。いや、聞こえてるけどね。


「それは仕方ないわ。だってりなたんすっごく可愛いんだもん」


「へ? りなたん? どういうことや」


「そうだよね、よくわかってるじゃん真瑚」


「艶のある綺麗な黒髪、可愛らしい顔つき、控えめなお胸に適度な肉付きがありながらもメリハリのある美脚……ああ、りなたんに会いたい」


「いやいや、どこのエロオヤジだよ」


しかし、その通りだ。全くもって同意である。真瑚はどうやら目の付け所がいいらしい。こいつとは気が合いそうだ。


はぁはぁと言いながら我を忘れたように体をくねらせて莉奈への愛を語る真瑚。そのさまを目の当たりにした周囲は少し引いているように感じた。


「それにしても初日から学校サボるなんていい度胸してるよね」


「ちょっといろいろあって」


「いろいろちゃうやろ、妹やんか」


「え、りなたんどうかしたの?」


 気のせいか一瞬瞳が大きく開き、興味と心配の入り混ざったような眼差しをこちらに向ける。


「いや、スパイクを忘れて行っただけなんだけどね」


「というかいろいろあったのはお前のほうやな、車に轢かれて無傷やなんてなぁ」


「へぇ、それで大丈夫だったの」


「まぁね、莉奈に忘れ物を届けに行ったらそうなっただけだから。妹だけど愛さえあれば関係ないよね」


「そうなっただけだからって…」


 真瑚はあっけにとられた様子を見せる。


「いやいや、二人ともやばいけどな……真瑚ちゃん、いや、大庭さくらがそんなんやとはおもてなかったわ」


 どこか遠くを見つめる翔也は物憂げにそう呟いた。


「そうだ、りなたんがサッカーしてるの見に行こうよ」


 真瑚は目をきらきらさせながら詰め寄ってくる。

 確かにそれは悪くない話だ。長らく莉奈がサッカーをしてるのを見ていない。家では一昨日も見たけど。


「そうだな、今日は夕方から練習してるだろうし言ってみようか」


「やったね、ゲームみたいに放課後までスキップできたらいいのに」


 その表情には艶やかなおとなの魅力と人を惹きつけるような可愛らしさが混在していた。

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