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刺客はカリスマ

 


「莉奈ー、風呂上がったぞー、ってええ……」


 リビングに戻ると、にわかに信じられない光景が広がっていた。可憐な我が妹が、莉奈が、見たことない女にキスされていた…しかもマウストゥマウス。


「お兄ちゃん、ぐすっ」


 まったく状況が理解できずに呆然とその光景を眺めていると莉奈がこっちに駆け寄る。


「お兄ちゃん、見てた…?わたしね、汚されちゃった…もうお嫁に行けないよ…」

 

 俺のTシャツを引っ張りながら潤んだ瞳でこっちを見上げる姿は小動物のような脆さを思わせ、心を大きく乱される。かわいい。守りたい。莉奈、それならお兄ちゃんが貰ってやる。任せろ、絶対に幸せにしてやるからな。じゃなくてあの女は誰だよ、それになんでこうなった。


「こんばんは、お兄さんですか?お邪魔してます」


 なぜか彼女は頰をかすかに赤らめ、とろんとした目をしている。よく見ると見覚えのある顔だった。誰だっけ…


「あっ、カリスマモデルの大隣(おおとなり)さくら!」


 雑誌やテレビ番組で引っ張りだこのスタイル抜群のボブカットの美人。特別に好きではないけどその存在は知っていた。


「あら、私のこと知ってたんだ」


 先ほどの表情とは一変して余裕のある笑顔を振りまき、それはテレビで見る大隣さくらそのものだった。


 精一杯の冷静を取り繕い、声を絞る。


「うちに何の用ですか?」


「ちょっとね、さっきあなたたちの部屋がうるさかったからやめて欲しいなと思って」


 ついに、ついにこの時が来てしまった。家サッカーのバタバタに対する近所からの苦情。この状況で一番心に突き刺ささる一言。というかカリスマモデル大隣さくらは隣人だったのかよ……とにかく謝るしかない。


「それは本当に申し訳ないです、もう絶対にやりませんから」


「でもね、もういいの。りなたんに出会えたんだから。ねっ?」


 そういうとさくらは莉奈に視線を向けるがあいつは顔を伏せて部屋の隅で三角座りをしている。


 予想外の返事ではあったが許してくれたことに一安心。それと同時に風呂に入ってる間に何があってこんなことになったのか気になってきた。


  いや、キスしてるのは見たんだけど。りなたんってなんだその呼び方。可愛いじゃないかりなたん。俺もそう呼んでみたい。


「りーなたん、あんまりこんなことしちゃダメだよ。それでもわからないなら、さくらが社会のルールを教えてあげようか?」


 まん丸で大きな目をきゅっと細めて楽しげにする姿はなんとなく猫のようだった。


「もういいでしょ、帰ってよ。もうやらないから」


 なんとなく悲しいような、か細い声が響く。


「ごめんねりなたん。わかったわ、また会いましょう、お休みなさい」


 また会いましょう?どういうつもりだ。


「良かったらまたうちに来てね。いつでも待ってるから」


 大隣さくらはにこっとしながらそれだけ言い残し帰った。


「大丈夫か、莉奈」


「わたし、キスしちゃったんだ……はじめての…女の人と…」


 小声で呟きながらいじらしく唇を綺麗な指先で撫でる姿は天使そのもので、俺の話を聞いてないことなど問題ではなかった。


「莉奈、お兄ちゃんとはキスしたくないか?」


 ついついいらぬことを言ってしまった。想いが抑えられなかった。仕方ない。


「はぁ、なんでよ。」


 露骨に怪訝な表情でこちらを睨みつける。そんな目で見ないで。お兄ちゃんはずかちい。


「ほら女の子と初めてやったんだから男ともやったらちょうどいいかなって」


 ちょっと自分でも何を行ってるのかわからない。けれども止まることはもうできない。


「お兄ちゃん、ほんとに気持ち悪い」


 その刹那、莉奈の膝下が振り抜かれるのが一瞬視覚に入り、気づいたときには酷く鈍い痛みが局部を襲う。そう、タマにインステップのキックがキマったみたいだ。

 

「うおおおっっ」


  インステップ、それは足の甲付近の一番硬い骨にボールを当てるキックだ。コントロールは効きにくいが強いシュートを打つことができる。



 いや、これでいいんだ。俺はおそらくMではない。他の女にこんなことをされようなもんなら喧嘩になるだろう。でも愛しい妹、莉奈のタマ蹴りなら話は別だ。ご褒美。ご褒美でしかなった。莉奈のためならMにだってなる準備はできてる。愛してるぜマイシスター。


「もう、変なこと言わないでよね」


 とりあえず心地よい痛みに身を任せ目を閉じた。そう、明日が高校の入学式であることを忘れて…

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