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六月の転校生

 


 聞き覚えのあるその名前。記憶を辿ると頭の中で一つの情報に繋がり、それは確信に変わる。


 休み時間になると転校生の周りを女子が囲んで口々に興味のある質問を投げかけていく。その顔立ちを見てハーフなの? とか髪綺麗だね、どこのシャンプー使ってるの?とか言ってるのが聞こえた。


「なあ洸ちゃん、あの子U16代表のエースやろ」


 と、高校生Jリーガーの翔也。


「ああ、翔也も知ってたのか」


「莉奈ちゃんから聞いたんやけどな。それにしても綺麗やなあ、スタイルいいしモデルさんみたいやな」


「本物のモデルさんならここにいるわよ」


 隣の席の真瑚は立ち上がっとポーズをとり、自信ありげに割って入る。


「そういえばそうやったな、なーんか近くにおるとありがたみが減るもんやな」


「なによーーーよくもカリスマモデルの私にそんなことを言ったわね」


 ギリギリと歯を食いしばりメラメラと炎が燃えるみたいなオーラが出てる。


「東くーん!」


 聞きなれない明るいトーンの声の主は長瀬杏梨だった。


「東くんってJリーガーだよね! この歳ですごいよね」


「最近デビューしたばっかりやけど、ありがとうな。そや、翔也って呼んでくれたら嬉しいわ」


「オッケー、翔也ね」


「というかあんたもU16代表やろ? なんやごっつええストライカーやって聞いたで」


「ええー、私のこと知ってたりするのか!」


 二人ともコミュ力高いなぁと感心してしまう。


「ああ、この前の代表招集で莉奈ちゃんっておったやろ? あの子から聞いてん。それで莉奈ちゃんの兄貴がこいつや」


 なぁ、と肘でつんつん突かれる。どうやら俺が話す番らしい。


「大倉洸です、莉奈から長瀬さんの話はいっぱい聞いてたよ」


「洸ね、アンリでいいよ。えっ、莉奈ちゃんはなに話してたの?」


 美人な転校生から興味と好奇の入り混じった視線を感じる。


「とにかく上手いし美人だし何よりもっと一緒にツートップでやりたいとか、かな」


「ほんとに? 相思相愛だよ私たちー」


 いぇい、と小さくガッツポーズを作るアンリ。


「莉奈はアンリのこと大好きっぽいしね」


「それなら嬉しいよ。そういえば洸はサッカーしてないの?」


「そうだね、サッカーは好きだけど」


「それは残念。サッカーやるの楽しいよ? でも莉奈ちゃんからお兄ちゃんがいるとは聞いてたけどこんな可愛い感じだっだんだね」


 まぁ莉奈が合宿中に話しててもおかしくはないか。というか可愛いって。なんと返すべきか必死に考えるが言葉が出てこなくて結果的に無視してしまった。


「可愛いですって、よかったわね洸くん」


 半目でニヤつくのは真瑚。


「私は可愛い感じの男の子好きだよ」


 こちらに向けられる屈託のない笑顔が眩しい。ストレートに褒めてくれたけどやっぱり返事はできなかった。


 真瑚を見るとぱっも表情を明るくして話しかける。


「あら、すごい美人さん! お名前は?」


「真瑚って呼んで。そりゃね、カリスマモデルだもの」


 ふんっと勝ち誇る。しかし、


「え、モデルさんなんだ! そりゃ可愛いわけだよ」


「え? ん? 知らなかったの?」


 真瑚は目を見開いて明らかに動揺している。


「あー、最近までずっとイングランドにいたから知らなかったよ、ごめんね」


 はっと我に返ったようにいつもの余裕のある態度を作る真瑚。今のは余裕ぶってるだけだと思うけど。


「そうだったわね、こっちこそごめんなさいね」


「うん、よろしくね真瑚ちゃん」


 ここで教室の話題をかっさらっている人気者は他のクラスメートに引っ張られていく。


「東のことは知ってたのに私は知らないだなんて……そんなことあるの……」


 ショックだったのか俯いて小声でぼそぼそ呟く。こういう時の真瑚には闇を感じずにはいられない。確かに世間の知名度は真瑚の方が高いだろうけど。


「あの子はなんか太陽みたいな子やな、サンちゃんやな、サンちゃん」


「じゃあ私はルナちゃんってところね」


「いや、あんたは暗黒少女、かな」


「ちょっと、私はそんな根暗女じゃないし暗黒銃なんか使えないわよ」


 身を乗り出して机に手を付いてむすっとする真瑚。というか真瑚知ってたんだ、あの太陽RPGゲーム。


「いやぁ、真瑚はテレビと本物のちょっとちゃうやんか」


「それはいいのよ。テレビと現実は違うんだからね」


 きりっ、とそう言い切る真瑚にはなんと言ったらいいかわからなかった。




 キーンコーンカーンコーンとアナログなチャイムが鳴って一限の始まりを知らせる。


 それと同時に誰かに後ろから肩に手を置かれて耳打ちされる。


「ねえ、放課後空いてたらさ、屋上に来てくれない?」


 声でわかった。アンリだ。


「え? どうして?」


 後ろだからわからないけど耳のすぐ後ろでアンリの呼吸を感じる。近い。柑橘系のフレグランスがふんわりと香って鼻腔をくすぐる。


「行けるかどうか聞いてるの。行けるでしょ? 待ってるからね」


 ぱっと手を離すと席の方に戻っていった。無理やりだな。


「おお、洸ちゃんなに言われたん? モテモテやなぁ」


「太陽少女あんなにくっついてちゃって。一緒にいてオーバーヒートすればいいわ」


 にこやかな翔也とは対照的に真瑚は悪態をついてむすっとしていたのだった。


 それにしても何の用だろうか。放課後に屋上なんて甘酸っぱい告白のシチュエーションなんかが浮かぶがそればっかりはないだろうし。まぁ大して急ぐ用事もないわけで行くつもりだけど。何を言われるのかと一回気になりだすとそれが止まらなくて放課後がちょっと待ち遠しかった。




 今日は一日が長かった気がする。やっと放課後だ。言われた通りに屋上に向かうがそこに繋がる階段は普段使われてないみたいで埃っぽくて暗い。


 屋上には初めて入る。扉にカギはかかってないみたいで無事に開けることができそうだ。扉を開くとキィーっという音が小さくしたのとばぁぁっと太陽の明るさを感じて反射的に目をしぼめてしまう。


「おっ、きたね」

 

 目が慣れるとスタイルが良くて女子としては背の高いシルエットが見える。太陽みたいな笑顔が似合っている。


「用ってなに?」


「そんなに急がなくてもいいじゃんかー、まぁ言うとね、莉奈ちゃんには私がここにいることを黙っててほしいの」

 

「はぁ」


 どういうことだろうか。


「それでね、今週の土曜だけど洸とか莉奈ちゃん空いてない? sc東京の試合を見にいくつもりなんだけどそこでサプライズであの子に会いたいの」


 瞳を輝かせてとても楽しそうに計画を話すアンリ。別にこの時じゃなくてもいいんじゃないかとも思ってしまった。まぁ変に反論することもないけど。


「ちょうど莉奈は空いてるし俺もなにもないよ」


「やった! そうそう、チケットは5枚ぐらい取れると思うしよかったら友達も連れてきてね!」


「チケット代はまた払うよ」


「あー、いいのいいの。貰い物だから。そうだ、連絡とれないとね、ライン交換しよ」


 促されて素早くQRコードで連絡先を交換する。


「よし、これで大丈夫。週末が待ち遠しいよー」


 やり遂げた表情でんーと伸びをするアンリ。


「別に今からうちに来てもいいんだよ?」


 莉奈はアンリがここに引っ越して来たと知ったらすごい喜ぶだろうな。


「いや、スタジアムで再開したほうがぜーったいアツいからね、我慢するよ」


 なんだかよくわからないこだわりだな。


「また連絡するからね、じゃあね」


 綺麗なロングヘアを揺らしながら小走りで屋上から出て行く。俺もそろそろ帰ろう。今日の晩御飯はなに作ろうかな。




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