とあるナローシュの異世界転移と異世界転生の結末
俺の名はナローシュ。念願の異世界転移を果たして今ここにいる。目の前には愚民どもが俺にひれ伏しているのだ。カ・イ・カ・ン。だが中世に似た世界のようだが何かがおかしい。
村長曰くここはオレスゲー村らしい。
ここは王宮で王様が土下座して王女が「抱いて! ナローシュ」とか言うのがお約束の筈だ。この馬鹿な村人たちの用事を済ませてどこか近くの城まで言って代償を要求して魔王討伐の旅に出て各地で美少女や仲間の美少女を侍らかしてハーレムを築いてさすナロされるべきなのだ。
何故なら俺はナローシュ様だから。
お世辞にも綺麗とは言い難いこのカスい村の中央広場に案内され、妙な像の前に開かれた宴会場の席に座らされた。広場を見渡してみるが閑散として汚いし美少女なんて殆ど居ない。歩いてるのはみすぼらしい格好で髪もボサボサの年増ばっかりだ。
アレは何だと背後のわらで作ったような人形の像について白髪頭の村長らしき老人に聞いてみるが愛想笑いを浮かべながら「あれはナローシュ様を称える像でございます。飢饉でろくな物がなくみすぼらしい作りで大変申し訳ございません」と謝るのみだった。
使えねぇな。俺はナローシュ様だぞ。苛立ちを抑えながら準備をしてる村娘で亜麻色の髪でソバカスが多いが愛らしい少女だった。可愛いと言って遜色のないレベルだ。王女をハーレムに加えるまでの繋ぎにはなるか。
何故なら俺はナローシュ様なんだ。どんな事をしても問題ない。
「おい。あいつに俺の酌をさせろ」
「ナローシュ様、あの娘は色々と問題がありますのでご勘弁を」
村長は渋っている。俺のチートを見せてやりたいが俺のスキルは「無限異世界転移&転生」と「絶対記憶保持」しかないので今は無理できない。ちぃ、魔王を討伐してきたらたっぷりと報復してやろう。
何故なら俺はナローシュ様だからな。この世界の救世主なのだから何も問題ない。
「ナローシュ様、お食事の準備が出来ました」
亜麻色の美少女が恭しく跪いて告げる。
食べきれないほどの数の皿が俺の前に差し出される。目の前では村人たちが土下座して俺が食べるのを待っている。良い気分だ。何故なら俺はナローシュ様だからな。当然の権利だ。
俺は出された料理と酒にありつく。未成年? 問題ないね。何故なら俺はナローシュ様だからな。だか数十分もしない内に舌がおかしくなってスプーンを取り落とす。体の様子がおかしい。手がしびれ、地面に倒れ伏す。
「効くまで時間がかかりましたな。ナロウよ、100倍は盛れと言ったぞ」
「はい。だから致死量の200倍も盛りました。さすが、ナローシュ様」
村長と亜麻色の美少女の声が響く。クソ、罠にかけやがったのか。覚えてろよ。崖から突き落とされても生存フラグだからな。だが村の男たちは俺を背後にあった巨大な穴だらけの藁の像に運んでいく。胸の辺りにある床に俺を置き去りにする。
「何か言いたげですな。これはウィッカーマンと言ってな飢饉の時に男性を生贄に捧げるのじゃ。ナローシュ様が教えてくれた儀式でございますぞ」
クソぉ、そんなんありかよ! ふざけんな。と言おうとしたが声は出ない。
「いつ復活するか分からん。早く火をつけよ」
おいちょっと待て。滝へ落としたりダンジョンへ置き去りとかじゃないのか? クソ!
「ナローシュの娘であるナロウよ。その手で火を点け、復讐を果たすのじゃ」
おいちょっと待て! 俺はこの世界は初めてだぞ。やめろ! やめてくれ!
「はい。さようならお父さん。お母さんの仇と村の豊穣の為に死んでね。ナローシュならきっと豊穣の女神様も喜んでくれると思うから」
ナロウと呼ばれた少女がウィッカーマンとか言う像に火を点けた。火が回るのが早く熱い。ぐわぁぁっぁ。俺は蘇ってみせる。
何故なら俺はナローシュ様だからな。
だが防御系のチートスキルは持ってなかった俺はそのまま燃え尽きた。
「迷わず成仏しろ。アーメン下衆野郎!」
最後にナロウの冷たい声が響く。見覚えのない罪で俺はそのまま焼け死んだ。
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俺は異世界で生まれ変わった。今度はオレツエー国王の子供としてだ。ナロウといい、あの村の村長といい、復讐してやる。何故なら俺はナローシュ様だからな。倫理的な問題とか関係ない。超法規的存在なのだ。
元の魂はどうなったか分からないが問題ない。何故なら俺はナローシュ様だからな。俺の為に尊い犠牲になってくれた事に感謝する。すぐに忘れるだろうが。
「パパーシュ様、ママーシュ様、玉のような赤子でございますな」
謁見の間で王妃であるママーシュが俺を抱き上げている。おっぱいでかい。だがこれにしがみつく事は出来ても吸い付くことは出来ない。傍に控える遮光器土偶みたな乳母が邪魔をする。死ねばいいのに。あれの乳を吸っていると思うと吐き気がする。俺を殺すつもりか。
下らない出生の挨拶をこの国の王であるパパーシュにしている。下らん社交辞令の中で金髪縦ロールの美幼女が居た。
将来、俺の嫁にしてやろう。二十歳過ぎたら捨てたらいい。非道だが関係ない。
何故なら俺はナローシュ様だからな。
「パパーシュ様、そろそろ民へのナローシュ様を公開するパレードの時間でございます」
「うむ。では行こうか」
馬鹿みたいだと思うが国民は俺の事がみたいだろうから仕方ないな。ヤレヤレ。何故なら俺はナローシュ様だからな。
赤く高い絨毯の上を通っていく王妃の腕の中で俺はメイドたちを物色していた。今度こそ復讐を果たしてハーレムを作る。
だがパレードの最中に爆発が起き、馬車が狙われるテロが起きた。俺は謎の一団に誘拐され、両親であるパパーシュとママーシュは死んだ。
俺がナローシュ様と知っての狼藉か。
テロリストたちのアジトへと連れてこられた。薄暗く汚い馬小屋のようだ。だが身代金なら払ってくれるだろう。
何故なら俺はナローシュ様だからな。国宝と匹敵する程の価値がある。
「こいつがナローシュか」
「へへ。間違いねぇ。売れば高くで買い取ってくれる奴らがいる。なんでも食べればナローシュの力が身につくそうだぜ」
な、なんだそれは? 俺は食っても美味くないぞ。何故なら俺はナローシュ様だからな。
「悪趣味だな。まあ、俺たちにとってサスナロ王国に復讐できればそれでいいぜ」
「やっと復讐できるな。こいつのせいで大商人だった俺の親父は悪徳商人に仕立て上げられて町民に殺されちまった。飢饉に備えてただけなのに」
「俺の親父も薬草商人できちんと土地を守ってたのにこの馬鹿が根こそぎ取ってしまったせいで村の収入がなくなって村の娘たちは奴隷商人に買われちまった。フレアぁぁぁ!」
俺は知らない。何の事を言ってるんだ。と言おうとするが赤子の状態では喋る事もできない。
「でもこの金があれば村を元に戻せるんだ」
「おい、そこまでにしろ。来たぞ。あとは奴らに引き渡すんだ」
ベールで顔を隠した連中は誘拐犯たちに皮袋を渡す。
「おい。これじゃあ、少ないじゃな──がっ!?」
抗議の声を上げた3人のテロリスト兼誘拐犯があっという間に殺された。
助けが来たぞ。何故なら俺はナローシュ様だからな。助けが来るのは当然の事だ。
だが相手の男二人組のノッポと巨漢は王国騎士には見えない。隠密か?
「早く食べる。オデ、ナローシュの力欲しい」
「慌てるな。鍋に入れてみんなで分ければチートが得られる」
「さすがアンちゃん。こいつ、首の骨折っていい?」
確認の言葉を取る前に巨漢は俺の首をへし折りやがった。おいおい。俺を誰だと思ってやがる。何故なら俺はナローシュ様なのに──
「おいおい。鮮度が大事なんだから殺すんじゃねぇよ。部族に売れねぇじゃねぇか」
ノッポの男の非難の声が俺の聞いた最後の声だった。
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俺はまた白い空間に居た。今度はあのケチな神様じゃなくて女神様だった。彫刻のように整った体つきと抜けるような白い肌と金髪碧眼が美しい。
「大丈夫だったのね。ナローシュ!」
恋人のように走ってくる女神を俺は両手を広げて迎え入れる。何故なら俺はナローシュ様だからな。心も広いのだ。
「心配しておりました。ナローシュ。大丈夫ですか?」
「ああ、俺は問題ない。転生させてくれ。ちょっとばかし愚民どもを躾けてくる」
だがその言葉と同時に俺の口に熱い液体がこみ上げてきた。腹部には銀色の刃が突き刺されていた。
「ナローシュは本当に懲りない男ですね。お前がやってきた事の報いだというのにも関わらず復讐とか……この女神ウシュオランは失望しました。お前も裏切られ親を失えば少しは改心すると思ったのですが。あと1億回生まれ変わって人々の恨みの深さを思い知るのです」
俺は再び異世界転生した。
「今日は皆さんに、ちょっとナローシュを殺してもらいます」
「ナローシュの力を寄越せ!」
「ナローシュ、殺らせていただきます」
「ナローシュは死んだんだぞ?? ダメじゃないか! 死んだ奴が出てきちゃあ! 死んでなきゃあああ!!」
「多くの者たちがナローシュになれずに消えていきました」
「こいつは死んでいい奴だから」
「ふふふ、上様お命頂戴致します」
「ナローシュでも構わぬ」
そこから何回殺されたのかもう数えても居ない。何…なら…俺はナ…ーシュ様…から…




