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ゴールデンウィーク


6年生の教室に先生の声が響く。


「これから皆んなと勉強する事になった、佐々木アキラ君です。

みんな、仲良くしてくださいね!」


新しい学校。

新しい教室。

新しい友だち。


父親の転勤で小学校最後の春に、僕は転校して来た。


小さな頃から身体が弱くて、外で活発に遊ぶタイプ

ではなかったけれど、前の学校には少なからず友人がいた。

この学年になってからの転校は正直、かなり応えていた。


もう、すっかりグループが出来上がってしまっている中へ、

僕が入り込む余地などないように思えた。


敢えて自分から話しかける事もなく、半日が過ぎていった。


昼休み……


僕とは真逆のタイプの、浅黒く日焼けした笑顔の眩しい

男の子が、僕に話しかけて来た。


『オレ、あずまヒロト。よろしくな‼︎』

「う、うん……」


僕は少し戸惑った。

関わったことのないタイプだったから……

でも、ここで一番に声を掛けてくれた彼に、素直に感謝していた。


週末の度に、ヒロトの、半ば強引な誘いに乗って、

近くの川や山へ遊びに出かけた。


僕の生っ白い肌は、徐々に日焼けして、生傷が絶えなかったが、

ヒロトと過ごすのが楽しくて仕方がなかった。

こんなに外で遊んだのも、誰かと仲良くなったのも、

初めての経験だった。


そんな2人のお気に入りは『川釣り』だった。

自転車に釣竿を装備して、堤防を走って川へ出掛けた。


自転車を自分の一部の様にスイスイ漕いで行くヒロトの後ろを、

何となく覚束ない状態で、ヨタヨタと付いて行く僕……


それでも、吹き抜ける緑の風はどこまでも心地よくて、

木の葉が掠れて揺れる音も、川の流れる音も、水面の煌めきも、

柔らかな陽射しも、みんなみんな僕達に微笑みかけてくれてるみたい。


ヒロトは釣りも上手くて、収穫は僕と雲泥の差。

透明な水底には魚の影が何度も走るのに、僕の竿だけ

よけてるみたいだ。


ちょっとふてくされて、釣竿を左右にブンブン振り回したら、

ヒロトの釣り糸と絡まってしまった。

「ご、ごめん……」


僕が謝ると、ヒロトは笑いながら器用に解いてくれた。

同じ歳なのに、彼の方が兄貴みたいに僕は思えた。


急に活発になった僕を、母はとても心配したが、

それも始めだけで、どんどん明るく丈夫になっていく

僕を見て、


「よっぽど ここの水が合うのね。ヒロト君にも会えたしね!」

と喜んでいた。


***


輝いた季節は瞬く間に巡り、

僕達はやがて小学校、中学校と順に卒業し、同じ高校に入学した。


5月の連休前、ヒロトがある提案をしてきた。

『クラスの奴、何人か誘って河原でバーベキューやらないか?

オレ達で魚釣ってさ!』


少し緊張するけど、楽しそうだと思った。

僕は笑顔で頷いた。


***


ゴールデンウィーク。

暑いくらい快晴の朝、ヒロトと、僕、同じクラスのジュンヤと、リョウが

一緒に河原でバーベキューをする事になった。


高校に入る時に新調した、赤いロードバイクに乗ったヒロトを先頭に、

僕達は、一列に並んでゾロゾロと堤防を走った。


目にしみる様な新緑の中を、時折聴こえる鳥のさえずりに

癒されて、みんな笑顔だった。


それぞれがクーラーバックやら、飲み物やら、必要なものを

自転車に積んで……


河原にうまい具合に落ちていた、コンクリート製のU字講の

上に持って来た網を載せる。


持参した炭と、拾って来た木っ端で火起こしの準備を始める。


さあ!後は魚を釣るだけ。

ところが……


『ちっとも来ないな〜』

ヒロトが言った。


「ここ、本当に釣れるの?」

ジュンヤが言った。


「腹減ったな〜」リョウが情けない声で言った。


ヒロトと僕が来るときは、いつも釣れるのに……

僕はそう思っていた。


みんな、お腹もペコペコだし、相変わらずアタリも無いせいで

全員が諦めモードに入っていた。


川の水面は僕達の気持ちなんか知らん顔で、

今日も優しく煌めいている。


その時だ。

僕の竿にアタリが来た。


「逃すもんか!」

僕は岩の上で踏ん張った。


「お、頑張れ‼︎ 」リョウの声援が飛ぶ。


魚に引っ張られ、足元がフラつく。


『アキラ、無理するなよ!』

ヒロトが叫んだ。


案の定、僕は足を滑らして頭を強打し、そのまま

川底へ沈んでしまった。















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