となりのカノジョ
隣の部屋、誰か越して来たんですか?
そう管理人に尋ねると、そんな人はいないと言う。
はっきり言って有り得ない話だが、
確かに隣の部屋に女の人が住んでいるのだ。
仕事を終えて家に帰ると、隣の部屋から料理をしている音がする。
朝、歯を磨いていると、目覚ましの音とやや慌てたような声が。
そしてしばらくすると、行ってきますの声とともにドアが開く音がするのだ。
しかし不思議なことに、同時にドアを開けたとしても、
隣の部屋には誰もいない。
俺が部屋の外からいくら耳をすませても、何の音も聞こえない。
玄関に足を一歩踏み入れた瞬間、彼女の気配を感じるのだ。
ーーー
ある日、俺が帰宅して「ただいま」を言ったのにつられ、
彼女が「おかえりなさい」と返したのをきっかけに、
俺達は他愛もない話をするようになった。
出会って間もないはずなのに彼女との話は弾み、
どこか懐かしい気分にすらなった。
今日は寒くて大変だった、だとか
蜜柑が安くてたくさん買ってきた、だとか
いろいろな話をした。
ーーー
そんなことが1ヶ月ほど続いた。
ある日俺は花束を買わなければいけなくなった。
花などよく分からないので、隣の部屋の彼女に尋ねてみる。
「高校生くらいの女が好きそうなのって、どんな花でしょう。」
すると彼女は少し沈黙した後、
「…そうですね、その人の好みによると思いますが…私だったら桔梗とか貰ったら嬉しいです。」
その言葉に、いつかの思い出が蘇る。
そういえば、あの子は桔梗が好きだと言っていた。
あの子は寒い日が嫌いだった。甘い蜜柑が大好きだった。
即座に玄関に向かって駆け出そうとする。
隣の部屋の彼女が、
「まだ此方に来ては駄目だよ。」と静かに言った。
何故だと問うと、
「もう貴方はわかっているでしょ?」と。
すべて分かった。
その上で彼女の制止を振り切り、
玄関を飛び出し、
彼女の部屋の扉に手をかけようとした瞬間。
「まだ私のところには、来ちゃ、駄目だよ。」
そう言って涙声で俺の名前を呼ぶ。
ずりぃよ。
「隣の部屋の彼女」だった時は、ずっと苗字で呼んできた癖に。
最期の最期で呼ぶなんて、本当に、ずるい。
「俺、ちゃんと桔梗、買っていくから!それから蜜柑も!
お前の大好きだったもの、たくさん買っていく!
今年も、来年も、その先も!!
だから!!!」
俺が行くまで待っていてくれ。
その言葉は彼女に届いただろうか。
ーーー
とうの昔に星になった彼女との一時の再会。
あれは、神様の悪戯か何かだったのだろうか。
君がいたはずの部屋の扉に頭を押し付け、
声を押し殺し泣いている俺の姿は、
周りからどんな目で見られていただろう。
読んだ後の解釈は、読者様にお任せします。
(といっても駄作なのでクッソわかり易いですが)
御付き合い頂きありがとうございました。