火打原幽香
ここまで読んでくださってありがとうございます。もしよければご感想などお聞かせください。よろしくお願いします
「すみません英紀くん一緒に帰りませんか?」
放課後の出来事である。
クラスメイトとこの後カラオケでも行かないかと誘われ悩んでいたその時、僕の背後から火打原幽香が唐突に声をかけられた。
「ひゅい?」
クラスじゅうがざわめきが起きた。
一番驚いたのはこの僕だ。
な、何ごとだ。
なんでいきなり、僕が?
軽くパニックになり思考停止におちいりそうだった。いや待て待てもしかしたら僕じゃないかもしれない、そうこれはただの空耳なのだ。
僕の前にいるヤツに声をかけたんだそうに違いない。
再び前を見る。
「どうする?」
「確か学校の近くに小さな山があったろ」
「あそこなら人が来ないね」
「そうだねあそこにしようよ」
いかん僕を埋める場所の相談が始まってる。
男女共に僕を殺す気でいる。
後ろを振り返れば
「ねぇ、一緒に帰りましょう?」
しっかりと火打原は僕を見つめている。
八方塞がりだ。
……くそっ。
負けないぞ。
確かに火打原幽香は文句のつけようのない美少女だ。
赤い瞳と金髪の髪だけでも十分すぎるアドバンテージというのに、顔立ちもビックリするほど整っている。そのくせ笑顔が愛らしくて、親しみやすさのようなものも感じられる、そして日本人らしい柔らかさがある。アニメのキャラがそのまま現実世界に飛び出したかのようだ。
ドレスなんか着せれば「異世界からきたお姫様」で間違いなくいける。
が、しかしそれがどうした。
僕の嫁である魔法少女アイラたんには到底敵わない。二次元だがな。
ここはクールにいつもクラスメイトにみせている僕の鮮やかなまでの会話術を披露してやるぜ!
僕は火打原に柔らかな笑みを浮かべて言った。
「あいいい、や、ちょ、その僕は今日は用事があっ、あるひょ!」
オウシット……。
あるひょ、ってなんだよ。
「そうでしたか……それは残念ですね」
丁寧にお辞儀をして「失礼します」と言って火打原は去っていた。
一体なんなんだ。
席が隣だからたまに話すが一緒に帰るような仲じゃないはずだ。
まあ僕がたまにコスプレさせたら絶対いけると思ってポケーと見ている時があるがそれに気がついたのか?いやまさかな。
まあ明日になればもうこんなことは無いだろう。
この時の僕はそう思ってた。
翌日、そしてその翌々日にも火打原は「一緒に帰りましょう」ど声をかけてきたのだ。
「あのー……火打原さん?」
たまりかねた僕はクラスの目が刺さるなか小声で問いただした。
火打原は子首をかしげて、
「なんでしょう?」
「なんで僕と一緒に帰ろうと誘うのかな?もしかしてからかってるのかな?」
ニコリと火打原が微笑んだ。
うっかり恋しちゃいそうなとても綺麗な笑みだ。
「こんなところで言っていいのですか?」
「な、なにを?」
落ち着け、僕。所詮現実の女だ。呑まれるな、どんな状況においてもクールになれ。
「何であなたを誘うのか、その理由を」
「そ、そうだね言ってくれると分かりやすいかな」
「……その、ですね」
迷うように目を閉じた後、潤んだ瞳で僕を見つめ、
「あなたのことが大好きだからです」
……『世界!」
時が止まった。
周囲から雑音がなくなり、世界がモノクロ一色になったように感じた。
数秒後、そして時は動き出す。
「「「ええええええええええええ!?」」」
阿鼻叫喚。黄色い声を上げる女子に、ガックリと膝をついて魂が抜けそうなやつ、呪詛を唱え出すものまでいる。やめろ僕は悪くないぞ不可抗力だお前らに文句を言われる筋合いはないはずだ。そして追い打ちがかかるように火打原が止めの一撃をクラスメイトに与える。
「えいっ」
飛びつくように僕の胸に飛び込みハグをする火打原幽香。
再び地獄絵図にもどり、キシっと空気が割る音が聞こえてくる。
そして僕の胸元で鼻をくすぐるような甘い香りと女の子独特の柔らかな感触に襲われる。
って何やってんだこいつ!
「はやく二人になれるところ行きましょ英紀くん」
恥ずかしそうに笑う火打原。
僕はもう、乾いた笑いしかでてこない。
「はは……」
まるでマンガやアニメの世界だな。
いきなり美少女に告白されて主人公の日常が狂い出す定番のな。
ニコッと笑みを浮かべる火打原。綺麗だから許されるとでも思っているのか、この状況どうするんだよ。
現実の女なんて、大っっ嫌いだぁ!