エイキとサイカ
日向が餌付けされている一方で火打原幽香の噂が耳に入る。
六月に入り告白の嵐が収まると思いきや益々激しくなっているらしい、もうすでに校内のほとんどの男子は告白したんではないかと言われている。
伝えによると本人曰く「誰ともお付き合いするつもりはありません」とのことらしい。それでも尚、告白し続ける男共は馬鹿なのだろうか。
まあ僕には関係の無い話だ。今日も一日平穏に僕がオタクだとバレないように生活するだけだ。
しかし望んでいることはそう簡単に叶わないものだ。
六月のある日ふと隣の人物に目をやる。
火打原幽香だ。
火打原幽香は人気者と思いきやそうでもない。
昼休みは読書、放課後は一人でさっさと帰るの繰り返しの日々を送っている。
クラスの男子が勇気を振り絞って話しかけたりしていたがいつのまにか抜け駆け禁止の暗黙のルールができていて、女子からは露骨なまでの敬遠。
僕のグループの女子は……まあ所謂イケイケなグループの女子は「あーしらみたいな庶民とはお嬢様はちがうってーか」(翻訳)男にチヤホヤされてるからって調子に乗ってんじゃねえぞビッチ。地味な女子達からは「あたし達と住んでる世界が違うよね」(翻訳)可愛い子達と仲良くしてればいいのに。
と見事なまでの弾き具合だ。
とまあ現在の火打原幽香の隣の席は死地と言っても過言ではない。
クラスメイトの男子からはガシッと熱く手を握りしめられ涙目で「手を出したら殺す」と言われる始末だ。
ださねえよ、僕はもうリアルの女は信じないと決めたんだ。
中学の頃は……まあ半分僕が馬鹿だったこともあるがオタクと知って態度を急変するんだから僕は女は信じない。
まあ火打原幽香とは関わろうと思わない。いや関わりたくないが本音だ。
厄介事しかない気がする。
ていうかリアルの女のどこがいいんだ?二次元嫁は最高だぞ!歳はとらないし理想の女の子だしいいことづくめだ!本当にその距離が愛おしい。画面の中の君に会いに行きたいと何度思ったことやら。
「相変わらずと言うかなんと言うかエイキは苦労してるね」
昼休み。事情を概ね同級生の神無月サイカに話すとゆっくりと頷いた。
「確かにみんなからすると火打原さんの隣なんてお金を出しても欲しがるだろうね」
「オークションに出していいか?だしていいよな」
「まあ落ち着いて」
サイカは男だ。先に言っておく……もう一度言っておくサイカは男だ。
少し長め髪と中性的な顔立ちのせいかよく女子と間違われるが女ではないサイカは男だ。大事なことだから二度言っておく。
中学二年からの付き合いだが僕がオタクだと知っても態度を変えず話してきてくれた唯一の友人だと言っても過言ではない。
物腰が柔らかく、男女の呼び方が「〜君」「〜さん」と呼びそれがイヤミじゃないところがサイカの人徳だろう。
だから俺の家の事情や日向のこともある程度知っているが深くは踏み込んでこない。
人との距離を取るのがうまいのだ。僕もそこはみならなくては。
菓子パンをちぎって口の中へと頬張りながらサイカは話を続ける。
「そう言えば日向ちゃんはどうなったの?」
「どうなったってなんだ?昨日は肉じゃがをほとんど食べて帰っていったけど何かあったのか日向に」
深くため息をついてサイカは頭を抑える。
「あー、いや何でもないよ聞いた僕が馬鹿だった」
「おい、そんな事言うなよそんな含みのある言い方される時になるじゃないか」
「いやエイキは相変わらずだなって思っただけだよ」
たまにサイカは日向とはどうなったとか聞いてくるがよく意味がわからない。家族同然のアイツとどうなったと言われてもな。
「エイキが思ってる日向ちゃんは日向ちゃんじゃないってことは覚えててほしいな僕」
「ますます訳がわからんぞ……」
「まあいつか分かるよ」
授業開始の予鈴が鳴り響き僕達はお互い自分席へ戻った。




