フェイク
「ねえー英紀くんってさなんで幽香さんと付き合ってるの?」
「え?」
昼休み。
幽香は相変わらずどこかに姿を消し、俺はイケイケな奴らに囲まれ談笑してると倉下由花子が唐突に問われた。
「え、ああ……」
幽香がいたらこんな質問はしないが生憎、俺の彼女さんはこの時間帯は必ずいない。ゆえにかこんな質問をしてきたのだろう。
いやホント……いきなりなんて質問をしてくるんだよ!
と俺は心の中で叫んだ。
勿論、脅迫されて付き合っている振りをしているのだから『なんで付き合っているの』と聞かれるとどうやって答えたらいいかわからない。
しかしここでバレれば俺の自作小説がこいつらにも……そして趣味もバレてしまう
くそ!負のスパイラルじゃなえか!
半笑いの表情を浮かべながら俺は思考する。
幽香となぜ付き合っているのか。
大抵のカップルは即答で答えれそうな質問だが俺には難題の超難題、もう今すぐにでもこの空間から逃げ出したい。
靴を舐めろと言われたらピカピカにするまで舐めるじゃないかなイヤホント。
……やっべえ、何も思いつかねえ。
いつか絶対この質問来ると思ってたんだよ、わかってたのになんで用意してなかったんだよ俺!
夏に近づいているから汗が止まらないのか予想できた質問の答えを用意してなかったことに焦っているのか。
もちろん、後者である。
極力、焦っている様子を見せないようにしているが内心はアップアップだ。
「な、なんでだろうなーあは、あはははは」
苦し紛れの苦笑いからの頭をかく仕草、ラノベ主人公なら一度はやるはずのあの仕草だ。
まさか俺がやることになるとはな……
「はあ?なにそれ意味わかんない」
質問の返事が気に食わなかったのかあからさまに顔を顰め、不機嫌な態度の倉下由花子。
昨日の一部始終を聞いているから答えにくいとのもあるが、やはりどう答えるか悩ましい。
悩んでいると由花子は投げやりに、
「幽香さんと付き合った理由ってぶっちゃけ顔でしょ?」
そうなんだろ?と言わんばかりに睨めつける由花子。
こいつなかぬかドストレートに投げてくるな。
というか今の一言かなり失礼だなおい、顔だけで判断とか……いや確かに美人とブスどっちがいいかと言われれば大半の人は美人がいいと言うだろうな。
まあ俺は二次元しか愛せない男なんで、そんな質問をされても意味は無いけどな!
でもな……仮にもあいつの彼氏をやっている訳だ、脅されてるけど。
ここは怒るべきなのだろうな。
しかし、関係が悪くなるのは得策ではない。
俺は優しく問いかけるように怒る。
「なあ、由花子。俺は幽香のことが好きだよ。ミステリアスで何を考えてないのかわからないところが彼女の魅力なんだ。それと
顔だけで俺が判断したと思っているなら由花子は俺が人の顔だけで選ぶ奴だったと思ってたんだろう?」
「いや、別にそいう意味で言ったわけじゃ無いってか……」
「そうだろ?現に由花子は俺に顔だけで判断したのかと聞いたじゃないか。それは俺が顔だけで幽香と付き合ったと言っているもんじゃないか」
「いや、その……ごめん」
今さっきの威勢はどこへやら、しゅんとした由花子は俯いた。
「いいや、俺も少し言いすぎた。ごめんね由花子」
「う、うん!」
みろ、この営業スマイルに負けないほどの笑顔を。
少し頬を赤らめて由花子は頷く、周りのモブも冷や冷やとした目で見ていたが、ホッと胸をなでおろした。
お互い、トップカーストの立ち位置にいるせいかどちらかの衝突が起こるとクラスの雰囲気は最悪になってしまう。現に俺と由花子はこのクラスではトップカーストの立ち位置にいる。仲が険悪なればクラス崩壊待ったナシだ。
だからあまり衝突は避けたいが幽香と付き合っているとなると避けられそうにはないな。
やはり平和かつ平穏の日常をおくるにはまだ先の話になりそうだ。
そんなこんなで昼休みも終え放課後、
「あら、誰かと思えば私の魅力はミステリアスで何を考えているか分からないところと言った英紀くんではありませんか」
ドアを開けると絵の具の特殊な匂いが鼻を鼻腔を通り抜け、そして開口一番にこの言葉だ。
「……お前いたのかよ」
「ええ、あなたのバックに付いてある盗聴器で聞いてました」
「え!?まじで?」
慌ててバックを観察するがそれらしきものは無いようだが……
「まあ、嘘ですけど」
「……」
こいつは人をおちょくるのが好きみたいだ。なんて性格の悪い奴なんだ、断言できる。
「そう言えば日向はまだ来てないのか?」
「さっき先生に連れられ職員室に向かいました」
「そうか」
「そう言えば英紀くん」
「なんだ?」
「一つ質問をしてもいいですか?」
「質問?」
「英紀くんはなぜ、日向さんと一緒にいるんですか?」
「は?そんなのあいつが幼馴染であり家族であるからだ」
幽香は苦笑し、
「それは答えなのでしょうか?」
「それ以外にどう答えろと言うんだよ」
正直、成り行きと言ったがはやい。
家の近くであいつがいたから?
答えをあぐねいていると
「確かにそうですね……」
幽香はため息とともに頷く。
「本当にあなたは優しいのですね」
「は?」
いきなり何言い出してんだコイツは。
「クラスメイトにも分け隔てなく、そしてなおかつ争いは起こさないように努力する。日向さんが英紀くんと現在進行形である意味が何となく分かります」
こいつ一人で自己解決しちゃってるけどなんなんだ、俺はさっぱりなんだが。
というかそんな話はしてないんだが。
幽香は俺の近くに歩いてくると背中に手を回しきた。
柔らかい身体が、俺に強く押し当てられ、二つの膨らみが薄着の制服にダイレクトのまま伝わってくる。
「けど、忘れないで」
少し背伸びするように幽香は赤い唇を押し当てるように俺の唇につけ、
「仮にも今あなたは私の彼氏です」
そう告げる唇は艶めかし程に潤い閉じたり開いたりしてる。
ただ呆然と眺めていた俺はなんと言えばいいか分からなかった。
ほんの一瞬の出来事に頭が追いつかない。
三秒ほどして自分が何をされたのか気づき、
顔が熱くなる。
「な!おま、おまえ!」
「フェイクでも私のに違いありません、だからー」
私の目の前で他の女に優しくしないで。
気がつけば火照った頬をはたっぷりの汗に冷やされ身震いをした。
「……お前は一体どこまで本気なんだ?」
「さぁ、どこまでと思います?」