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水上くんのオタク事情  作者: さな
14/16

変わらない日常

「えいちゃんえいちゃん」

「……」

「ねえ、えいちゃんってば」

「ん?ああ、悪いボッーとしてた」


放課後。

教室で倉下由花子が幽香の愚痴を聞いてから三十分たっている。

俺は無事に本を回収した後、デザイン部の部室で椅子に腰掛け考えこんでいた。

女子の幽香に対する評判は悪いと聞いていたがまさか愚痴を言っている現場に遭遇するとは……

なにか悪いことがなければいいのだが……




「ねえねええいちゃん、二人きっりだね」


俺が悩んでいることなんてどうでもいいのか日向は無邪気な笑顔でこっちへ寄ってくる。


「なんでそんなにソワソワしてるんだ落ち着け」

「えへへ〜」


日向は椅子を俺の隣に持ってくるとスリスリと頭を腕に擦り付けてくる、ゆらゆらと揺れる髪から甘い果実のような匂いが鼻をくすぐる。

変なキャラの暴走は無くなったが以前より甘えてくるようになってきた気がする。こんなこと実家では絶対しなかったのにな日向。どうしたのだろうか?しかしまるで猫みたいだな。


「えへへ〜あのクソ幽香はいないしもう最高ね!」

「お前………そう言えば再来月にある美術コンクールがあるらしいがアイデアはあるのか?日向」



一応、部活動として活動しなくてはならないため再来月にある地区で行われる美術コンクールは三名で出る予定だ。

案外、絵を描くのも楽しいだよなこれが。


「えつとねシュッで、バッ、ドーン!みたいな感じかな!」


身振り手振りで説明する日向、まあ一応アイデアはあるのだろう。

しかし……


「好感音だけで説明されてもな……」

「芸術は爆発だよ、英紀くん」


腕を組みドヤ顔でどこからその名ゼリフをとってきたのやら。

おまえは岡本太郎かよ。


「ねえねえそれよりさ〜私なんか昨日と違うとは思わない?」

「ん?」


胸を張ったりポーズをとる日向だが表面上の変化は特にないと思うが……

なにかアピールをしているがさっぱりわからん。


「いや、いつもと同じじゃないか?」

「はああ?もっとよく観察して!」


どうやら違ったらしい。


「んなこと言ってもな……前まで石鹸の香りだったのがなんか甘ったるい匂いに変わってることしか……」

「それよ!」


今度は正解のようだ。


「ていうか全然甘ったるい匂いじゃないし!メチャいい匂いじゃんこれ!……まあ一応正解してくれたし?ご褒美あげちゃおかっな〜」


グイッと体を近づかせ日向は上目つかいで俺の瞳を覗き込もうとした。


「私のふぁ、ファーストキッスをあ、げ、る♡」


ぎこちない所作で俺の顔に近づいてくる日向。

しかし次の瞬間日向の顔が視界から消えた。


「あららら、こんなところにドブ臭いクソ猫がいました〜」

「へぶぅっ!!」

「日向ああああああ!」


何処から現れたのか幽香が日向の頭を鷲掴みにし机に叩きつけた。

部室全体に響き渡る鈍い音がリアルに痛みを彷彿とさせる。

うわぁ……顔面からいったぞ、大丈夫か?



「あら、日向さんがまだ出席していないみたいですね困った人ですね〜英紀くん」


ウフフ、と上品な笑い方をする幽香。

いや、お前のせいで日向が机とキッスしているんですけど。


「ひ〜う〜ち〜は〜ら!」


幽香の手を払いのけ勢いよく起き上がる日向の目頭にほんの少し涙が溜まっている。

まあ痛そうだったもんな……

動物のように威嚇する日向を幽香は何も無かったような顔で


「あらそんなとこにいたのですか。ごめんなさいあまりちっちゃいものですから見えませんでした」

「アンタと私の身長そんなに変わんないでしょ!?どうやったら見えなくなるのよ!」

「いえ私はただ人様の彼氏を奪い取ろうとする泥棒猫に天誅をくわえてあげたまでです。残念日向さん」

「残念じゃないし!てか彼氏が取られそうならずっとそばにいればいいじゃない!

盗られそうならずっとそばにいればいいでしょ!」


日向の言葉に確かにと頷き、俺を見ると幽香は走って腕に絡みついてきた。


「おい……」

「一理ありますね。じゃあ英紀くんとイチャイチャするのでどっか行ってください胸部デブさん」

「デブじゃないし!てかやっぱり離れろ!えいちゃんから離れろ〜!」


俺を綱引きのように両側から引っ張る構図となるわけだが何か似たような展開があった気がする。

そう関節と関節が悲鳴をあげるような痛みが襲って……


「いたいたいたいたいいたい!いてぇよ!」


案の定、日向と幽香の綱引き合戦が始まった。

右に幽香、左に日向が俺の手首を掴んで体重を載せて思いっきり引っ張っているため俺は溜まったもんじゃない。


もう嫌だ……早く帰りたい


虚しく部室に響く俺の残響はなりやまぬ。






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