オタク
「なんだか凄いことになってるね」
「ああ……もう何が何だか分からなくなりそうだ」
翌日の昼休み。
弁当を食いながらサイカに事の顛末を話してやると目を丸くしている。
本当にどうしたものやら。彼女が出来たことだけでも異常事態だというのに。
まさか縁もゆかりもないデザインの道へ足を踏み入れるとはおもってもなかった……。
「顧問は誰なの?顧問がいなきゃ部活できないでしょ?」
「美術担当の福原先生だ。去年三年生が卒業して部が潰れてから暇してたらしい」
「活動内容は……なんて報告したの?」
「デザイン性を高め将来に役立てるよう……その他云々」
隣で幽香が隣で説明していたが全く僕には分からなかった。
まあただ一つわかっているのは幽香がこちら側に日向を引きずり込もうとしていることだろうか。一体何を企んでいるのやらあのお嬢様。まあ僕を餌にして日向を釣るつもりだろう、It’s fishing!!
全くどこまでも末恐ろしいお嬢様だ。
オタクだけど。
どっちかというと僕は自作の小説が日向にバレそうで怖いのだが、幽香に何であんなことを言ったか問いただすと『そっちの方が面白そうだったから』と即答された。
もうどうと慣れこんちくしょう!
……不安だな。
「それにしても火打原さんすごい行動力だよね」
「ああ、流石と褒めてやりたいところだ」
たった数日で顧問と部室を確保し、日向を丸め込み部を作ってしまうなんてとんでもない奴もいたものだ。
ちなみにその幽香だが教室にはいない。
あいつ一体どこでメシ食ってんだろうか。
「で、その日向ちゃんはどうなってるの?」
「ああ、そりゃもちろん燃えているよ……「打倒『火打原幽香!!』」って」
そう言えば昨夜は珍しく楽しそうに話していたな。
唐揚げを口いっぱいに詰めてご飯をかき込みながら、
『私が本気になればえいちゃんをその気にさせることだってできるんだから!火打原幽香なんてケチョンケチョンにしてやるわ』
ご飯粒を飛ばしながら喋る日向はとても楽しそうだった。
ソフトボールを辞めても尚、エネルギーが有り余っていたんだろうな、打ち込めるものがあるとはいいことだ。
そのままどっちも共倒れの形なってくれれば僕の一人勝ちだな。
「なんだか楽しそうだね英紀」
「ふん、冗談じゃない。僕は家事やアニメを見る時間が削られて後悔しているんだ」
……サイカの言う通り少し楽しかったりする。
日向が楽しそうにするとなんだか僕もそのような気になってしまう。
別に変な意味じゃない、家族だからだ。恋愛感情なんて僕には持ち合わせていない、二次元こそ至高なのだから。
「それにしてもあの二人か……苦労するね英紀」
「だろ!そうだろ!やっぱり分かってくれるのはサイカだけだ!」
「そりゃ、親友だからね」
本当にこんな思いやりが『彼女』や『幼馴染み』に欲しいね。
ああ切実に!
そして放課後。
部室に荷物を置き、教室に忘れてしまった僕の小説、『腐男子と腐女子の恋愛事情』を急いで取りに行く。
「やべえ……あんなのみつかったら今度こそ終わっちまう」
たまたま本屋の新刊コーナーにあったものを手に取って見てみると意外や意外、つい面白すぎて一時間立ち読みした後、自然とレジへと足が進んでしまったのだ。
表紙はもちろん人に見せられるものではないのでちゃんとカバーをしてもらたっぞ☆
いや、そんなこと言っている場合ではないのだ。
はやく行かなくては。
階段を駆け上がり教室の立て札が見えるとホッとし、早足で向かう。引き戸に手を当てドアを開けようとしたその時だった。
「ねえ、火打原さんってさオタク何じゃないの?」
「……」
思わず戸から手を離した。
僕のクラスだからある程度はクラスメイトの声は分かる。
火打原にばれるまでオタク隠蔽生活のため仲の良いふりをしたりしたものだ。
この声は……
「え、まじで由花子!?」
倉下由花子だ。
よく僕の取り巻きの連中の一人だがいつも配下の二人を従わせている、まあ女子のグループでもイケイケでこのクラスでの女子トップだろう。
そいつがなんでまだ残っているんださっさと帰ってくれ、僕の『腐男女』が待っているんだ。
勿論、僕の願いが届くはずもなくダラダラと会話が続く。
「だってカバンにつけているキャラのキーホルダーとかどう見ても気持ち悪くない?ガキかっての」
おい、てめぇもういっぺん言ってみろ。
顔面を現代アートみたいにぐちゃぐちゃにしてやるからな。
ドア越しで聞き耳をたてながら怒れる拳をどうにかしておさめる。
「分かる〜アニメとか許されるの小学生までだよね〜」
「てか、最近調子乗りすぎでしょアイツ。男子から告白されまくって天狗にでもなってるじゃないの」
取り巻きふたりの名前は知らない。
いや本当にごめん。いつも話しかけてくれるけど何言ってるかわからないから適当にあわせてごめん興味ないからさドラマとか。
だが……今の話を聞く限りで分かることは幽香に良くない感情があることだな。
まあ……ベタな展開だなあ〜
「てか、なんで英紀くんもあんな奴と付き合ってるのかな」
「可愛いからじゃないの?でも英紀くんオタク嫌いそうだよね」
「よねよね!英紀くん絶対オタク嫌いだよね。そんな話をするとすぐに顔そらすもんね」
……まあ確かにいつも逸らしているな。
でもななんで逸らしているがわかるか?
我慢してるんだよ僕は。
今度こそオタクだとバレたら僕の平和な学校生活がなくなってしまうから我慢してんだよ!
お前らが横で「まじオタクってキモくね」とか偏見でものを語っているところにむかっ腹がたって今すぐにでも小二時間ほど説教してやりたいといつも思っているよ!