クラブ発足
「もんもん!あんたなんてももんのもんなんだからね!」
「訳わからねえよ!日本語で話せっての!い、痛い痛い痛い!爪をたてるな、つねるな!」
そんなこんなで翌日の放課後。
暴れる日向をどうにかして幽香の言われたとうりに目的の場所まで連れて来ることができた。
もう僕の体のあちこちに傷が絶えないんですけど幽香さん。
「なによなによ!こんなところ連れてきてもん!あたしなんかほっといって二人でチョメチョメして仲良くしてればいいじゃない、なんだもん!?」
幽香は不敵に笑みを浮かべ、
「もうキャラ崩壊が酷すぎますね、もうモブ以下の存在ですよ」
「モブってお前……」
不安要素が多すぎる。
本当に連れてきて正解だったのだろうか。
ここは北校舎の一階、文化部が集まっているフロアでその北側に位置する、十畳程の元デザイン部が使っていた部室だ。
室内には椅子と机、そして床は絵具が付着しており棚には絵具や画板が飾っている。
そして部屋のど真ん中に幽香が赤のベレー帽を被り片手には筆、もう片方には絵具パレットを持ってイーゼルに画板をたてて何か描いているようだ。
「ようこそ木下日向さん」
何になりきっているのだろうか。シンプルで紅色のベレー帽を浅めにかぶり長い金髪を結わえてアップにし、艶かしいうなじをだしている。まったくこいつの身体は全身が凶器なのではないのだろうか。そしてその作業風景が様になっていることに圧巻してしまう。
そしてにしもなんでベレー帽被ってんだ?
手塚治虫じゃあるまいし。
まあ、もし他の男子が見ればまたもや幽香ファンが増えるのは間違いないな。
「い、いったい何のようだもん?あたしはとっても忙しいだもん!」
「本日は日向さんを、私達の『クラブ』に勧誘するために、お呼びしました」
「クラブだと?」
僕は声をあげてそう言った。
「何もそんなの聞いてないぞ幽香」
「あたしは帰宅部だもん!家に帰ってゴロゴロするんだもん!もんものもん!」
「日向さんは最近、英紀くんに構ってもらえず苦労されているそうですね。なんでも英紀くんに相手をしてもらえるためだとか。あとそのもんもん言うのやめてもらえますか?気持ち悪いです」
「う、うるさいわね!あんたには関係ないでしょ!」
あ、元に戻った。
「まあ効果どころか英紀くんは呆れているようですけど」
「え、ほんと!?」
気づくのおそすぎワロタ。
「日向さん」
凍るような目で、幽香は日向を見据える。
「この部に入れば英紀くんと毎日構ってもらえますよ」
ん?
「え!ほんと?」
「ええ、本当ですよ。日向さんが入れば私から英紀くんを寝とることもできますよ」
「……」
いやいやいや。
……いやいやいや!あれ!?僕の意見無視ですか!いやはいらないよ?はいらないからね!?
「入る……」
「もう一度大きな声で言ってもらえますか?」
「私このクラブに入るわ!そしてあんたからえいちゃんを奪ってみせるんだから!」
「そうですか、それは何よりです」
と、幽香。
「おい、僕の意見は無視か?」
「あらなんでしょう、ウジm……英紀くん」
「今ウジ虫って言おうとしたよな?僕はクラブなんてやらないぞっと言っているんだ。帰って晩飯の準備や撮りだめしたアニメを見なくちゃならないんだ。ということだ僕は帰らせていただく」
この女呼び出したかと思えばクラブだあ?
はん、そんなもん勝手にやってろってんだ僕は忙しいんだ。日向もいるし大丈夫だろ。
この場から早く逃れたいという気持ちでいっぱいいっぱいだが、事実、家事ができなくなりそうで怖いのが本音だ。
「そう言えばクラブには代々このノートが語り継がれてきました」
幽香は一冊のノートを取り出す。
はっはっはっ。
あれれぇ?
なんだか見覚えがある表紙だなぁー?
あのシミなんてコーヒーをこぼした時に付いたようなシミだったよなー。
あはは。
あははははははははは。
「うおおおおおおおおおおおい!?なんでそれがそこにあるんだ!」
「私は先輩から受け継いだことノートにより新しい自分を見つけそして英紀くんをモノに出来たのです」
「今日設立した部に受け継がれてるんわけねえだろ!?」
確かに僕はお前のモノになったな、壁役だけどな!
「少し黙っててよえいちゃん!それにえいちゃんを虜にする事が書いてあるの!?」
日向は興味津々。もうすでに幽香の術中のなかに取り込まれている。
お前ちょろ過ぎだろ!?少しは疑うことをしろよな!
「そうこのノートには先輩方のありとあらゆる名言が残されています。その名言のおかげでわたしは新たる新世界へと旅立つことが出来たのです」
「やめろおおおおおおお!もう言わないでくれえええええええ!」
あいつなに勝手に人の小説の冒頭文読んでんだよ!
ま、まあこんなので信じるやつなんて……
「す、すごいわね、私にもその本の極意を教えて!」
「……」
なんとなく分かってたよ、日向ちゃん。
君のその素直なところ、嫌いじゃないヨ。
「ではクラブの名前を決めましょう」
イーゼルにたてておいた画板を、ガッ、と取るとポーズを決めて言った。
どうやら僕達が来る前に絵を描いていたのはクラブの名前だったようだな。
『GJ部です!』
「って、待ってコラああああああああ!!」
おま、おまえ!
「ここでいきなりぶっ込んでくるなよ!やめろ!そのクラブ名は断固拒否だ!」
「いいと思ったのですけど……駄目ですか?」
ウルウルと上目遣いで甘えてくる幽香。
ちくしょう!可愛いよ、なんでそんな反則的なことするかなホント!
「だ、ダメだ!」
「そうですかそれは残念です」
あぶねえ……寿命が半分になるところだった。
「さて、冗談はそれくらいにして」
おい、必死で止めた僕の労力を返せ。
そんな僕を他所に幽香はガサゴソとダンボールからガソゴソと古い板を取り出した。
「さてここはシンプルにデザイン部にしましょうか」
「シンプルすぎてなんと答えたらいいか分からないのだが……」
「わ、私絵なんて描いたことないけど大丈夫か?」
中学まで運動一筋だった日向、まあ確かに狼狽えるのは無理ないな。
そんな日向を見かねて幽香は優しく微笑む。
「大丈夫ですよ日向さん。絵を描くことにおいて大事なのは感情を込めて書くことです。そんな上手い下手とか関係ありません、真摯に取り組み姿勢こそが大事なのです」
「おお、あんたもなかなかいいこと言うじゃない!」
「……」
あかんわー日向はん完全に言いくるまれてますやん。
こいう根性論や精神論には骨の髄まで染み込んだ「ザ・体育会系」の奴や日向には効果は抜群だ。
「おい、よーく考えろよ日向。一時の気分に身を任せて後々後悔するなんてよくあるから……」
「うるさい、えいちゃんはコイツと二人がいいの!?」
「……」
確かうちの校則だと、部を作るのに最低でも五人は必要だったはずが……
同好会の場合は、最低でも三人。
つまり最初から僕と幽香だけでは部活なんて無理なわけで。
しかし、メラメラと体全体からやる気を顕にしている日向に、今更言えるはずも無く。
……もうどうとなれ、こんちくしょう。
「では、決まりですね。ふふ……楽しい部活になりそうです」
両手を合わせ満面の笑みを浮かべる幽香。
「さてあの女を骨の髄までオタクにしてあげますわ……私に反論できないほどまでにね」
幽香は僕に聞こえる声でボソリと呟いた。
この女。
正しく悪魔である。




