プロローグ
オタク。
自分の好きな事柄や興味のある分野に極端に傾向する人を指しアニメや映画、漫画、コスプレ、ゲーム、アイドル……etc。
様々な大衆文化があるがその特定の趣味の対象および分野の愛好者、ファンを指す語として使われる。
スマホの画面上に書かれてある単語をながめる。
世間一般ではオタク=キモイという概念が存在しているがある統計によると普段オタクは何をしているか理解している人は二十パーセント程しかいないという。
最近中学生が世紀末みたいにウジャウジャネクラ少年をオタクオタクと名付けているらしい…というかそうなのだろう、人は目に映るものを八十パーセントを目で決めている、見た目というのは大事だ。清潔感がない髪型やダボダボの服を着てると自然と周りからオタクだと認定付けされる。
中学生のオタク嫌いは酷いものだ、周囲からのイジメに耐えきれず不登校になった子も数しれない。
オタクと言うだけで冷たい目をされることなんてままある事だ、だから俺はオタクを隠して日々を過ごしている。
髪をセットしてサイズのあった服を着り積極的に会話に入りクラスでもかなりカースト上位の人間になり、そして勉強だけでなく中学では野球部でチームの主砲である四番を任せられチームの中心的人物である俺、水上英紀に彼女ができた。
……彼女ができた、その事に対してこうも憂鬱な気持ちになるのは思春期男子として恥ずべき事なのだろう。
「なにを見てるんですか英紀くん、彼女というものが隣にいるのにスマホを弄るのはマナー違反ですよ」
金色の長い髪が風に吹かれて踊り、赤い瞳が俺を見つめる。
肌はきめ細かい雪のように白く、唇は果実のように瑞々しい。半分異国の血が混じっているからだろうか妖精のような美貌は見るものを虜にしてしまう。
他の女が願っても手に入れることができない、たくさんの宝物を所有するのは同級生の火打原幽香である。
「だから引っ付くなよ恥ずかしいだろ」
「これは必要なことよ英紀くん。私達が付き合っていると見えることが大切なんですから」
下校中、茜色の空が俺たちを見下ろす。
目を少し横に逸らせば完璧までの美少女が俺の隣に肩を並べて腕を組んでいる。
時期は梅雨シーズン前、制服の衣替えのせいか柔らかい腕や胸の触感がダイレクトに伝わってくる。
くそなんでこんなに柔らかいんだよこいつの肌は。
「いやこれはやりすぎだろ、ここまでしなくても一緒に帰れば付き合っているように見えるだろ」
ふう、とため息をついて首を傾げ、
「浅はかですね、一緒に帰っているだけで付き合っていると勘違いしていいのは小学高校学年までですよウジ虫くん、そんなんだからイケイケなグループに所属しているのに童貞なんですよ」
ウインクをしながら毒を吐く幽香。相変わらずの毒舌ぷっりである。
「誰がウジ虫だよ。いやそれとこれとでは関係ないだろ、あと童貞言うな」
「まあ本当は次のネタとして下校イベントのヒロインの気持ちになっているだけなので勘違いしないで下さい童貞ウジ虫」
「誰がウジ虫と童貞をくっつけろと言った、今さっきより酷くなってるじゃないか!!」
「ほらそんなに離れようとしないで下さい秘密ばらしちゃいますよ」
「……!!。この悪魔め……」
「なんですか英紀くんそんな怖い顔しないでください濡れてしまいます……」
「へ、変態だ!俺の目の前にド変態がいる!あとそんな言い方をすると俺め変態と思われてしまうからやめろ!!」
「違うのですか?ちっちゃな女の子相手にいつもハアハア言っているじゃないですか、はっ!もしかして私に小学生の制服を着させてそんなプレイをしようと考えているのですね」
「いやいや考えてないから!確に今期最も人気の魔法少女アイラちゃんにハマっているがハアハアはしていない!いやしてる日もあったがそんなにしていない!あと小学生の頃の制服とかサイズが合わ無いから着れないだろお前」
「してるんですね、やっぱり変態じゃないですか。……そう言えば身長は小学生六年生で止まっているんですよね私、英紀くん貴方が言えば小学生プレイも出来なくはないですよ」
「……お、俺は屈したりしないぞ」
「今少し想像しましたね、筋金入りのド変態ですねあなたは」
「うるさい……」
「からがいのあるところは気に入ってますよ私」
この……。
調子に乗るなよ火打原幽香。
俺は決してお前の色気には屈したりはしない。お前や髪からいい匂いなんてしない!耳にかかる吐息がくすぐったいとか感じたりしない!
……おおおおおあお!
「ちょっとなに鼻の下伸ばしてんのよ」
危うくトリップ仕掛けていた俺だが一瞬のうちに正気に戻る。
目の前の少女がグリグリ噛み締めながらつり目で俺たちを睨んでいた。
怖い……。
「あらあら誰かと思えば乳牛の木下さんじゃありませんかどうしたんですか?」
「余計なお世話よ火打原幽香。私の目の前でイチャつかないでくれる?目障りなんだけど」
鋭い目つきに明るい茶髪のツインテールが特徴的なのが俺の幼馴染み、木下日向、高校一年生。十五歳。身長は俺の胸のあたりまでしかないが制服がパツンパツンになりそうなまでの胸が最も特徴的だと言ったらわかりやすいだろうか。
普段は明るくクラスの人気者なのだが今日の日向は怒気を顕にしていた。
「だって私達ラブラブなんですもの、そう貴方みたいな乳だけがでかい矮小な女の子は関係の無いことですよ〜」
頼むそれ以上、日向を挑発しないでくれ幽香。俺が後で殺される。
「何がラブラブよ、どこがぁ?えいちゃん、冷や汗かいてるじゃないのどう見ても引きまくっていなかしら?」
いや冷や汗かいてるのはほとんどお前の怒気のせいとは言えないな。
……命が惜しいです。
「何言ってるんですか?そんな奥ゆかしさの中に英紀くんの魅力が隠れていることに気づかないですか?だから胸だけ大人になってしまうんですよホルスタインさん」
イタズラっぽく目をかがやせながら、からめている腕をさらに強く抱きしめる。
「誰がホルスタインよ!誰が!あとさっさと離れなさいよ!」
激昴し、さっさと離れろと言わんばかりに幽香の絡めている腕を指差す。
「あらあらなにをそんなに怒っているのですか?彼女である私の特権なのですからイチャイチャしようが私の勝手でしょ?あなたには関係ないですよホルスタインさん」
「……!!こいつ……アッタマきたわ!」
「ほう、口で負けたら今度は肉弾戦ですかいいでしょう受けて立ちます」
「もう俺帰っていいかな……昨日の撮りだめのアニメ見たいんだけど……」
「あぁん?」
「はぁん?」
「……なん、でもないです」
殺すと言わんばかりの眼光に俺は押し黙った。
なんで息ぴったりなんだよこんな時だけ。
「そんなに帰ろうとしなくたっていいじゃないですかいつもみたいに『幽香たんのおぱんちゅおぱんちゅヒャッホー!』と言って私の体を舐めまわしてもいいんですよ」
「完全に犯罪者じゃねえか!あとそんなことやってすらねえよ!」
「わ、わたしの胸じゃだ、ダメか?えいちゃん……」
「お前は対抗しようとするな!嘘だから!こいつの全部嘘だから!!」
「あなたいつからそんな変態になったんですか!このクソ野郎!」
「お前がふってきたんだろうが!仮にも彼氏に言う言葉か、それ!?」
「ごめんなさい……とは言わないわ」
「言わねえのかよ!」
しおらしく謝ったと思ったのにぜんぜんちげえのかよ
「えいちゃんってもしかしてドマゾなの?こんな口の悪い女と付き合ってるってことは」
じっとりとした目つきで日向が問う。
「もうなんでもいいよ畜生……」
俺は夕日を眺め現実逃避を始め、吹きすさぶ風に身を任せる。
「簡単なことですよ木下さん」
ニッコリと笑って幽香は
「英紀君が欲しいのは私の身体だけですから」
「お前はもう黙っててくれぇーーーーっ!」
とまあこんな感じで。
俺の日常が崩れなかったり崩れたりする物語。