稲穂の波のゆたけしや
GM明けに終わった田植えから2カ月経ち、青々とした稲が風に揺れている。
所々舗装の剥げた道を加奈子は自転車で走っていた。
視界には一面に広がる田んぼと連なる山々の雄大な姿が写っている。
毎日繰り返し見てきた景色は、決して変わることはなく。止まった時の中に取り残されたような気にさせた。
そんな景色の中、自身の体の事を思うと加奈子は気分が落ち込んでいくを止めらなかった。
「おはようっ‼︎かなこ‼︎」
教室に入るなり響いた声の主は、加奈子の視界の下の方で、小さな太陽がおでこを晒している。
「おはよう、はなちゃん」
視線を下げると、ニコニコとはなちゃんが笑っている。
「どうかしたの、はなちゃん」
小首を傾げながら尋ねると、はなちゃんは照れたようにはにかみながら
「昨日美術室から見てたでしょー!私目がいいからはっきりわかったよ‼︎」
と言って、加奈子の腕を取ってしがみついてきた。
「あぁ、手振ってくれたものね、先輩も目が良いのねって驚いてたわ」
はなちゃんの笑顔につられてか、加奈子も微かに笑みを浮かべ
「かなこいつもよく見てるもんね、グラウンドまでくればいいのに」
固まった。
内心ダラダラと冷や汗を流しながら、動揺を押し込んで尋ねる。
「気づいてたの?それって他の人も知ってたりする?」
はなちゃんは考えこむような素振りを見せたが、すぐに答えたくれた。
「んー気づいてないとおもうよ?みんななんにも言ってないし」
ほっとするが、これからは少し自重したほうがいいだろうか、加奈子は自分の癒しの時間がなくなると思うと気分が重くなるのを感じた。
「ドアの前で固まってるんじゃない」
びくりと肩を震わせて、加奈子はドアの前から離れた。
「あっゆきちゃんおはよー」
加奈子が退いて視界が開けたはなちゃんが、ドアの前の人物に声をかけた。
「おはよう、はな」
吊り上がった目が猫のような少女が、素っ気なく返した。
癖の強い黒髪を肩まで伸ばし、大人びた雰囲気を醸している。
「雪子おはよう、邪魔してごめんね」
加奈子がそう言うと、ニコリともせず
「いいよ、別に」
やはり素っ気なく返してきた。
彼女達はそれぞれ席につき、加奈子がカバンの教科書を移していると、はなが近寄ってきた。
「ねぇかなこちゃん、どっか痛いの?」
加奈子がキョトンとして首を傾げると
「なんか落ち込んでるような気がして…大丈夫?」
加奈子は顔に出ていたのかと、思わず頬に手をやったが、相手がはなではと思うと納得した。
小さい頃から、いつもはなだけは無表情な自分の顔から感情を読み取ってしまうのだ。
「どうかした?気分悪いの?」
雪子が話を聞いて心配そうな顔をしてやってきた。
慌てて加奈子は答える。
「ううん、違うの。風邪とかじゃなくて、ちょっと落ち込んでるの」
加奈子は少し迷うような素振りを見せた。
「よかったら、聞いてくれる?」