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35話『地祖人の工房で武器を新調する』 その3

 その竜がこんな場所で何をしているのかというと、鉱石の塊に向かって幾度となく火を吹きかけていた。


「ありゃあ融かしつつ耐性を持たせてるんだ。あの鉱石は、受けた攻撃を記憶して耐性を獲得する性質があるんだよ」


 俺の抱いていた疑問は、クラルトさんが溶かしてくれた。

 なるほどな、火に耐性を持つ防具はああやって作ってるのか。


「どうでえ、こういうのを見たかったんだろう」

「そうっすね、めっちゃワクワクしてます」

「素手で武器を鍛える伝説のウィルスナーはここにゃいねえけど、中々のもんだろ?」


 げっ、やっぱあの時の会話はしっかり聞かれてたのか。


「すみません、うちのユーリが失礼なことを……」

「いいってことよ。ごもっともな指摘だ。はっきり言うのは嫌いじゃあねえぜ」


 豪快に笑うクラルトさん。


「流石っすねクラルトさん。器がデカい」

「調子に乗らないの」

「あっ、ツマヤの花だ!」


 俺達の話をよそに、何かに気付いたジェリーが、部屋の一角へと駆け出していく。

 その先には大きな棚が壁一面に据え付けられており、様々な種類の鉱石だけでなく、骨や木材、今ジェリーが口にしたように花までもが置かれていて、博物館の展示を彷彿とさせた。


「あっ、ジェリー……」

「おい危ねえぞお嬢ちゃん! 勝手にウロウロすんじゃねえ!」


 クラルトさんの厳しい声がタルテの声を飲み込んで響き渡って、ジェリーは体をびくつかせて足を止めた。

 しまったなあ、ちゃんと見とくべきだった。

 と、振り返ったあの子の引きつり顔を見て後悔しかける。


「ご……ごめんなさい」

「おっと、別に怒ってるんじゃねえぞ。火の粉が降りかかったりして、その長くて綺麗な髪の毛が焦げちまったら困るだろ?」

「……うん」

「ここは他にも危ねえもんを扱ってるんだ。毒とか色々な。別にお嬢ちゃんだから大声出したんじゃねえぜ。分かってくれるよな?」

「うん。ほんとにごめんなさい。もうかってに行かないよ」

「よし、いい子だな。分かってくれりゃあいいんだ。そんじゃ、おじさんがついてってやるから、遠慮なく見な」

「いいの? やったぁ!」


 が、そんな心配自体が杞憂だったと思い知る。

 流れるような話運びと懐の広さをを見せ、あっさりと綺麗にまとめ上げてしまった。


「流石クラルトさん、器がデカいぜ」

「同意するわ」


 それにしても、毒物も扱ってたのか。

 竜といい、そりゃあ厳重に管理・隔離するわな。






 ジェリーだけでなく俺達も、秘密の工房の一部を見せてもらった。

 クラルトさんのお墨付きもあってか、別に邪険にされることもなく、説明付きで作業を実演してくれたり、こっちからの質問にも答えてくれた。


 中でも意外な気さくさに驚かされたのが、火を吹き続けていた竜だ。


「火を吐き続けて疲れたりしないんすか」

「人間で言やぁ唾を吐き続けるようなもんよ。熱を補給しながらやりゃあ問題ねぇわな」


 職人のが伝染したのか、ちょっと巻き気味な話し方で笑いながら答えてくれた。

 何でもこの竜、地祖人の技術に憧れて、故郷である火竜の谷を離れてまで自ら工房へ入れてもらえるよう働きかけたらしい。

 人間と一緒で、色々な考えを持ってる竜がいるもんなんだな。


 毒物などを扱う区域には流石に通してもらえなかったが、それでも俺達は大いに満足できた。

 クラルトさんの口ぶりからして、他にも危険というか、ヤバいネタを扱ってる所があるみたいだが、詮索しない方がいいだろう。


「ん、どうした。おもちゃ売り場を見る子どもみたいな目して」


 ふと、タルテの視線がとある一点へ集中しているのに気付く。


「してないわよ! ……あれがちょっと気になって」

「ありゃあ……弓、か?」


 一緒に視線を向けてみると、そこには一張りの弓が木製の台に立てかけられていた。

 言っちゃ悪いかもしれないから黙ってたが、けっこう不気味な造形をしている。

 本体は赤っぽい色をしていて、血管っぽい管が蔦のように巻き付いている。

 何より特徴的なのは、矢をつがえる部分の少し上に、黄色の虹彩をした目玉が1つくっついていることだ。

 まさか照準器の役割を果たす訳でもなさそうだが……

 ちなみに大きさは一般的な弓と同じくらいだ。


「おう、ありゃあメルドゥアキっていう魔獣の眼を取り出して、特殊な方法で加工して作ったんだ。おっと、詳しいやり方は話せねえがな」


 俺達の会話を耳にしたクラルトさんが説明してくれる。

 メルドゥアキは確か魔眼を持つ魔獣だ。

 細長い体に4本の腕、それとカタツムリみたいに触角の先についてる眼と、結構ヘンテコな外見をしてるんだよな。

 やけに生々しいと思ったら、本物を使ってたのか。

 加工方法はともかく、眼を取り出すさまを想像すると、ちょっと気持ち悪い。

 タルテも同じようなことを考えてたみたいで、やや顔をしかめていた。


「アホな質問かもしれませんけど、意識はあるんすか?」

「いいや、既に切れてるぜ。使い手の意志に反応するだけだ。だから生きちゃいねえ。……お、どうした姉ちゃん。あいつが気になるか?」


 クラルトさんに指摘されて、タルテがハッとなる。


「こいつ今、弓矢の練習中なんですよ。だから気になったんじゃないすかね」

「ほう、ってえと初心者か?」


 何故かクラルトさんが、興味深げに食いついてきた。


「はい。未熟なくせに興味を示すなんてお恥ずかしいですが」


 目を伏せるタルテとは対照的に、クラルトさんの表情はどことなく嬉しそうにも見えた。

 いや、実際タルテが初心者だったのを本当に喜んでいたみたいだ。

 モジャモジャの髭を撫でた後、弓の方を指差して、


「おう、丁度いい。なあ姉ちゃん、物は相談だが、あいつを今後の旅で使ってみてくれやしねえか」


 そんな言葉を口にしたのだ。


「えっ、わ、わたしがですか!? そんな、恐れ多い……」

「逆よ逆! 元々あいつは弓の扱いに慣れてねえ奴でもいっぱしの働きが出来るようになるために作ったんだ。姉ちゃんならうってつけだ」

「ですが……」

「金も礼もいらねえよ。むしろこっちが払いてえぐらいだ。姉ちゃんはただこいつを持ってって使ってみて、実戦での使い勝手とかの情報を集めてくれりゃあいい。それと、仮に壊しちまっても気にするこたねえ。それはそれで有益な情報だからな。報告に来るのもいつでもいいぜ。手紙をよこすだけでも構わねえ」


 既にタルテが承諾した体で、クラルトさんはグイグイと話を進めていく。

 とは言っても、タルテの方も満更ではないみたいだった。

 話を聞くうちに、みるみる表情が変わっていってたのが読み取れた。


「……少しでも強くなって、ユーリたちの足手まといにならずに済むなら……お願いします、あの弓を貸してください!」

「よく言った! それでこそ兄さんの将来の嫁さんだ」

「わ、わたし、そういうのじゃないです!」

「照れるな照れるな! おい兄さん、さっさと求婚したらどうでえ!」

「はぁ」


 クラルトさんにつられて、他の職人や竜まで大声で笑い、囃し立ててくる。

 このノリ、ファミレにいた時を思い出す。

 ったく、脈絡なく話が切り替わることといい、勘弁してもらいてえな。


 それにしてもタルテの奴、全く反応が成長してねえな。

 少しは受け流す素振りでも見せろっての。

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