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34話『ユーリ、翻弄された挙句悪手を打つ』 その2

「ってぇな! 殴るなよ!」

「いや、怒りは無いのだが、ここで過激な行動を取らぬと私の存在感が薄くなってしまいそうなのでな」

「おかしいだろ理不尽すぎんだろ!」

「うむ、では私も嫉妬しているということにしておいてくれ。男児はそうされると喜ぶのだろう?」

「んな取ってつけたような嫉妬、喜ぶどころか怒りが込み上げてくるわ!」


 何考えてやがんだ。

 おかしな電波でも受信したんじゃねえだろうな。

 しかもかなり力入ってたし。

 まだほっぺたがジンジンしてるんだけど。


「嗚呼、お可哀想なユーリ様。わたくしが魔法で癒して差し上げますわ」

「いや、いいよ」

「何と! 動物のように舐めて治療するのを御所望と!? ……よろしいでしょう、他ならぬユーリ様の命とあらば、犬にでもなりましょう」

「勝手に話を膨らませんなよ」


 こいつ、時間が経つごとにおかしくなってねえか?

 最初の頃のツンツンした勢いはどうした。飴と鞭作戦か?


「おにいちゃん、だいじょうぶ?」


 ああ、変わらずに純粋で優しいのはジェリーだけだ。

 これからもその美徳を失わないで成長していって欲しい。


「ああ、平気だぜ」

「そっか、よかったぁ。ね、ラフィネってどんなところだろうね。楽しみだね」

「そうだな、早く実際に見てみたいよな」

「ラフィネの名物といえば、地祖人の工房と、"競竜"の2つですわね」

「恐竜?」


 こっちの世界ではティラノサウルスやプテラノドンが絶滅してないのか?


「竜の背に人が乗り、人竜一体となって最速を目指す競走ですわ。賭け事の対象にもなっておりますのよ」


 どうやら俺が想像していた恐竜とは違うみたいだ。

 あれか、競馬に近いもんか。


「お待ちかねの街が見えてきたぞ」


 窓から外を窺っていたアニンが言う。

 さて、アビシスとはどんな違いがある四大聖地なのか、楽しみだ。




「はぇ~……すっごい熱気」


 あまり聖地らしさを感じない、というのがラフィネという場所の第一印象だった。

 だってさ、やっぱ文明的なものから距離を置いたものを想像するじゃんか。

 なのにこの場所と来たら、煙突が何本も空に向かってニョキニョキ突き出てるわ、煙や蒸気がモクモク出てるわ、金属音が引っ切りなしに響いてるわ、まるっきり工業都市みたいな雰囲気だ。

 行き交う人たちも、巡礼者っぽい人に混じっていかにもな感じのムキムキなおっさんとかがいたりする。


 とはいえ、こういうのは嫌いじゃない。

 文明の匂いが感じられるからか、どこか懐かしいというか、親近感を覚えてしまう。

 流石に機械の類は存在しないみたいだが。


「活気があって良いではないか」

「わぁ、すごいすごい! トラトリアとぜんぜんちがう! なんかいっぱいうごいたり出たりしてるよ!」

「あっジェリー、遠くに行っちゃダメよ。……でも本当にすごいわね」


 皆、それぞれの形で感想を表現していた。


「およそ聖地らしくないとお思いかも知れませんが、この姿はラフィネの一部。静寂が優勢な場所も、トスト様の巡礼地も、きちんと設置されておりますわ」


 ただ1人、既にこの場所を訪れた経験があるらしいミスティラだけが、冷静に解説してくれた。


「なるほどな。んじゃ、どこに行くか」

「まずは確実かつ安全な宿を確保しましょう。この地にもローカリ教の支部がございますから、そちらで部屋を貸して頂けるよう頼みましょう。さ、こちらですわ」

「くっつくな。歩きづれえから」


 何でこうこいつは、隙あらば押し付けるように腕を組んでくるんだ。

 なんて思いながらも、強く振り払えない俺も意志が弱い。

 しょうがねえだろ。柔らかいんだから。


「最愛のユーリ様、もっと本能に委ねて下さいませ。最後に得をするのは正直者と、お伽噺でも相場が決まっているではありませんか」

「あのさぁ……」

「ミスティラさんの言う通りにしたら? わたしなんかに構わないで」


 おお、棘が、棘が……!


「……ったく」


 じゃあ俺が和ましてやるか。しょうがねえな。


「なあ、タルテも俺にくっついてくれよ。右側が空いてて寂しいからさ。ついでに尻でも触らせてくれよ」


 これで公平だろ。

 それでいて各自の長所を活かす、我ながら素晴らしい采配だな。


「バ……バッカじゃないの!? なに考えてるのよ! 最低!」


 なのにタルテには極めて不評だった。

 思いっ切り軽蔑の眼差しを向けられて、一人すたすたと先を歩いていってしまう。


「悪手だな」


 おまけにアニンにまで酷評され、


「ユーリ様……わたくしに対する抑止力としてタルテさんを用いようとしたなら、酒場へ裸婦を送り込むに等しい行為と言わざるを得ませんわ」


 ミスティラにも否定される。

 どうやら最悪の選択をしちまったらしい。


 と、右手をくいくいと引っ張られる。


「さわりたかったの? ジェリーの、さわる?」

「気持ちだけ受け取っとくよ」


 字面上とはいえ、色々と問題が発生しそうだからな。


 気を取り直して、俺達はラフィネを東の方へと進んでいく。

 騒々しい地帯から遠ざかっていくと、今度はあちこちで巨大な石像が点在しているのが目立つようになった。

 道路の両脇に置かれていたり、建物のてっぺんや空き地の中央に鎮座していたり……

 大きさは人間の2倍くらいから10倍近く、形状は人型から竜、魔獣から精霊まで様々だ。

 誰の手によるものなのかは知らないが、かなり細密である。

 それと石の具合からして、かなり昔に作られたみたいだ。

 なるほど、確かに聖地らしい部分もあるな。


「なあタルテ、そこら中にある石像、誰が作ったか分からないか?」

「えっ……特徴がないから分からないわ」


 評論家から返ってきたのは困惑の言葉。

 タルテ先生にも分からないんだから、俺が知らないのは当然といえる。


 ラフィネにあるローカリ教の寺院は、だいぶ小さかった。

 アビシスのように修行用の建物や敷地はなく、食糧生産用の農地も小規模だ。

 ちなみに名前はラトミール寺院というらしく、3代目教主が由来らしい。


「これはこれはミスティラ様、よくお越し下さいました」


 ラトミール寺院の責任者は、優しそうな中年の男の人だった。


「御機嫌よう。急な訪問、どうかお許し下さいませ」

「いえ、既に先日、モクジ様より便りを頂いておりますよ。狭苦しい所ではありますが、どうぞ宿としてお使い下さい」

「お心遣い、感謝致しますわ。それにしてもお父様ったら、手際がよろしいですこと」

「モクジ様はお変わりありませんか?」

「ええ、皆の模範となる教主であり、わたくしの敬愛するお父様のままですわ」


 俺達もそれに続いて頷く。

 ともあれ、モクジさんの根回しもあって、俺達は円滑にラフィネでの宿を確保することができた。

 信徒たちの宿舎の空いている一室へと案内してもらい、少し休憩してから、これからの予定を話し合うことにする。


「今日はもうこのままゆっくりするとして、明日はどっから回ってみるよ。工房と競竜」

「トスト様の巡礼地にも行ってみましょうよ」

「おっそうだな」

「ねえねえ、どうやって決めるの?」

「うむ、これを使うと良かろう」


 アニンが取り出したのはサイコロだった。

 お前、そんなの持ってたっけ。


「3回振り、出た目の大きい順に回る。これで問題なかろう」

「気の利いたやり方ですわね」

「いいんじゃね」


 タルテとジェリーも賛成し、最も邪念の入らなさそうなジェリーが代表してサイコロを振ることになった。


「……んじゃ、明日は工房へ行ってみるか。競竜と巡礼地はその後な」


 予定が決まった所で、あとは明日に備えて体力を回復させるだけだ。

 ……っと、その前にメシ食わねえと。

 今日は何が食えんのかなー。

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