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28話『アシゾン団、闘いを挑む』 その2

「参りますわ!」


 と、後ろからミスティラの声。


「ユーリさん、そのまま女を足止め!」

「了解」


 何をするつもりかは、背中越しに伝わる波動ですぐ理解できた。

 どうやら白男よりも先に発動させられるみたいだ。


「……眼前に敵在り、争闘の時は今、侵攻せよ、"焦れた尖兵"!」


 詠唱が終わると、十数個もの火球が次々と俺や赤女を追い越して飛んでいく。

 いずれも人間の頭部ほどの大きさがある。

 初級魔法とは思えない数と威力だ。

 本人の魔力もあるだろうが、恐らく宝石でも底上げしているはずだ。

 右手首につけていた装飾品が確かそれっぽかった。


 しかし、青男も白男も、一切動揺していない。


「……ぬぅん!」


 青男が手にしていた斧を回転させる。

 すると斧から水が迸って盾になり、ミスティラが飛ばした火球を全て掻き消してしまった。


「魔具……小賢しい」


 忌々しげにミスティラが呟く。


 魔具とは魔力の込められた道具全般を指す。

 魔法が使えない人間でも扱えるような市販品から、道具そのものに認められないと使えないもの、いわゆる伝説の武器と呼ばれるようなものまで様々だ。

 あれは……市販品じゃないっぽいな。


「余所見していていいのかしら!?」

「……っ」


 赤女の奴、攻撃を変則的にしてきやがった。

 そのせいで対処がわずかに遅れてしまい、鉤爪の先が頬を掠めていく。

 おお痛え、確かに気を取られてる場合じゃないな。


 だが、向こうの方も魔力を溜め終えちまったみたいだ。

 青男がすっと立ち位置を横にずらし、白男が杖を高く掲げたのが見えた。


「甘きも苦きも、皆等しく融解すべし、甘苦認める"赤舐め舌"の上で!」

「ユーリさん、わたくしを防御!」


 行きたいが、張り付いてる赤女が邪魔だ。


「つれないわね。もっとお相手してちょうだいな!」


 ニヤリと笑われる。

 立場が逆転したな、とでも思ってるんだろう。


 青男の杖から、大蛇の如く太く長い火炎が天に噴き上がる。

 迷ってるゆとりはない。

 ちょっと危険だが、行くしかねえ。

 盾になってやると決めた以上、お嬢様を守ってやらなきゃな。


「悪い、どっちかっつったらあんたよりこっちの方がいいわ」

「なっ……!」


 顔を紅潮させた赤女に構わずミスティラの方へ向かう。

 当然その際、赤女から攻撃されて、右腕をけっこう深く抉られちまったが関係ない。

 こんなのは後でグリーンライトで治せる。


 さて、次はあの魔法だ。

 ミスティラの"焦れた尖兵"よりも強大な火炎が、白男の杖の動きに連動して奔る。

 振り下ろされる鞭のように迫ってくる。


 中級魔法だけあって中々だが、何とか防げる。

 ホワイトフィールドを展開し、"赤舐め舌"を弾く。


「防いだ!?」

「な、何だあの魔法は! 詠唱も無しに!」


 目論見通り驚く3人。

 よし、隙を突いて反撃……は出来なかった。


「構うな、連打しろ!」


 杖から絶えず魔力を送り込まれているからか、弾かれた炎は消えなかった。

 すぐ冷静に戻った青男の一喝で、白男がすぐさま攻撃を再開してくる。

 波打ちながら俺達に襲いかかる様は、やっぱり舌というより炎の鞭と言って差し支えない。


「参る!」


 白男に加えて、今度は青男も斧を振りかぶって突進してきた。

 同時攻撃を仕掛けてくる気か。

 これじゃあ俺は完全に防御に回らざるを得ない。

 攻め所を分かってやがる。


「だったらあたしはお嬢様と遊ぶわ」


 おまけに連携も取れてるときた。

 やっぱり芸人を目指した方がいいって。


 さて、どうする。


「中々の盾ぶりですわ」


 前触れなく、これまで後ろで俺をこき使っていたミスティラが、横まで歩み出てきた。

 いつの間に出したのか、右手に槍を携えて。


「矛たるわたくしも、本分を全うせねば」


 青白い光を穂先から放つこれは、ただの槍じゃない。

 柄に魔石などを組み込み、魔力の刃を生成する市販品の魔具――"魔力槍"だ。

 この色は水系統だな。


 ミスティラが、槍を横に寝かせる構えを取る。

 やっぱり、そんなに接近戦に長けてそうには見えない。重心がやや高い。

 一体どうしようってんだ。


「セイル! 標的変更!」

「僕に命令するな!」


 奴らも気付いているみたいだ。

 赤女に反論しながらも、白男はしっかりと"赤舐め舌"をミスティラにぶつけようと狙いを変えてきた。


「下がってろ! 防げなくなるかもしんねえ!」

「わたくしには最早不要ですわ」


 あろうことかミスティラの奴、拒否してきやがった。

 そして地面を蹴って跳び、俺から距離を取る。

 まるで相手の誘いにあえて乗ったかのように。


 真意は定かじゃないが、ミスティラは依然落ち着き払っていた。

 蛇のように波打つ火炎が頭上から振り下ろされようとしているのに、まるで恐れを見せない。


 膂力に任せて振るわれる青男の斧や、速度を活かした赤女の鉤爪をかわす。

 俺がこうして引き付けていれば、少なくともミスティラが2人を相手にする状況は避けられる。


 それにしても、こいつらの動きはやっぱりどこか物足りなさがある。


 その間にもミスティラへ迫る、白男の魔法の炎。

 本当に防げるのか?

 今となっては信じるしかない。


「……はっ!」


 ミスティラが選んだのは、防ぐどころか攻めだった。

 気合いと魔力に呼応して穂先が拡張した槍を一薙ぎする。


 水の魔力の刃を受けた"赤舐め舌"の先端部は、ミスティラに届かず切り捨てられた。

 確かに魔力の刃ならば魔法を切り裂けるが、随分思い切ったことをする。


 切り離された側の炎が、地面に落ちるそばから役目を終えた花火のように消滅する。

 流石に再生まではしないようだった。


「ごめんあそばせ。この高貴で清らかな身を舌で舐ろうなどと、あまりに下劣な行為に腹が立って、つい前に出て切ってしまいましたわ」

「くっ……!」


 臍を噛む白男らに、ミスティラがわざとらしいくらいの身振りを伴い言い放つ。


 ……好機!

 右腕の痛みをこらえ、俺は白男目指して駆ける。


「待ちなさい!」


 すぐさま脚力を活かして赤女が追い付いてくる。

 よし、ハマった。


「悪く思うなよ」


 振り向きざま、2つの意味を込めて告げる。

 1つは、俺の本当の狙いは白男じゃなくて赤女か青男のいずれかだったこと。

 そして2つ目は……


「……きゃああああっ!」


 レッドブルームを頭部に食らわせちまうことだ。

 残酷なようだが、加減している余裕はない。

 ケリがついた後、グリーンライトで治してやりゃいいだろう。


 赤女は悲鳴を上げ、鉤爪にも構わず両手を激しくバタバタさせながら地面を転げ回る。

 だが、髪に燃え移った火はそう容易くは消えない。


「シュクレ!」


 すかさず駆け寄る青男。

 消火するつもりなんだろう、手にした斧の頭や刃先から既に水が生成されている。


「おのれ!」


 長く伸びていた炎が、一瞬で消失する。

 更に離れた所にいた白男が、"赤舐め舌"を解除したのだ。

 そして杖の柄を引き抜いて針のような刀身を露わにする。

 仕込み杖になってたのか。


「一重の刻み、二重の痛み、"冒涜の霊"に悶えて堕ちよ!」


 白男の詠唱に呼応して、剣に炎が宿る。

 発動が速い!


「貴様の顔も爛れさせてくれる!」

「いい男の顔に傷がつくのはごめんだな」


 俺の飛び道具を警戒しているのか、ジグザグな軌道を取って接近してくる。

 ああ動かれちゃ、上手く当たりそうもない。

 ホワイトフィールドを展開し、迎え撃つ。

 火を纏った刺突剣となれば、回避の難易度は格段に上昇する。

 なんせ切り付けても火だけである程度の攻撃力を見込めるのだから。


「栄華は刹那……」


 後方から感じ取れる魔力の高まり、それに反比例する静かな声の響き。

 ミスティラが、再び魔法の詠唱を始めたのだ。


 白男は俺に襲いかかり、青男は赤女の消火で手一杯。

 誰もミスティラを止める者はいなかった。


「貫くも刹那……」


 なのに、詠唱は中断された。

 ミスティラ本人が、自分の意思で止めたのだ。


 発動自体を中止した訳じゃないのは、維持されている魔力から読み取れる。


「ユーリさん、石像のようにその場に留まっていなさい!」


 指示が飛んでくる。

 今から使う魔法に関係あるんだな? よし。


「いかん、気を付けろセイル!」


 青男の大声が飛ぶと、白男は顔を歪めて俺への接近をやめ、距離を取った。

 白男の注意が、どちらかというと俺よりも後方に向いているのが読み取れた。


 俺も防御を解いて攻撃するか?

 と考えかけた時、何かが俺を追い越して飛んでいく。

 尾を引いて青白い光を放つ一筋の矢――ミスティラがさっきまで手にしていた魔力槍だ。

 ぶん投げやがったのか!

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