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24話『ジェリーのきもち』

 えへへ、ジェリー、いまとってもしあわせなの!

 だって、おうちにかえれて、パパとママと、おじいちゃんたちにもまたあえて。

 ひさしぶりに食べたママのアップルパイは、やっぱりサクサクで甘くて。

 ほかのみんなもやさしくて、トラトリアはあったかくていいにおいで……


 かえれたのはみんな、おにいちゃんとおねえちゃんたちのおかげ。

 いっぱいありがとうって言ってもたりないくらいだけど、ほんとにほんとにありがとう。


 ユーリおにいちゃんは、とってもつよいの!

 せなかのおっきな包丁で何でも切っちゃうし、"がろーのちから"っていう、魔法みたいなすごいこともできるんだよ。

 いきなり別のところにいったり、ケガをなおしたりできちゃうんだ。

 どこでおしえてもらったんだろ?

 あと、いろんなことを知ってるし、おもしろいの。


 アニンおねえちゃんも、すごくつよいんだよ。

 おにいちゃんも言ってたけど、剣をつかったらだれにも負けないとおもうな。

 女のひとなのにすごいよね。

 それと、おっぱいが大きくて、ねるときにギュってしてもらうといい気もちになるの。


 タルテおねえちゃんは、いつもジェリーにやさしいんだ。

 たくさんあそんでくれたり、本をよんでくれたり、かみの毛をとかしてくれたり。

 あと、ママと同じくらい、おりょうりがとっても上手なの!

 ジェリーもタルテおねえちゃんみたいに、おいしいごはんが作れるようになりたいな。


 でも……タルテおねえちゃん、さっきすごくおこってたの。

 ユーリおにいちゃんのお耳をひっぱってて……何かあったのかな?

 どうしてあんなことするんだろ?

 タルテおねえちゃん、おにいちゃんのことがすきみたいなのに。


 それにアニンおねえちゃんも、どうしてもっとちゃんとすきって言ってあげないんだろ?

 言ってあげたら、おにいちゃんだってうれしいって思うはずなのに。

 ジェリーはふつうに言えるよ。はずかしいのかなあ? 




 夜おそくになったから、すっごくたのしかったお祝いもおわっちゃって、みんなおうちにもどっていって、今ジェリーのおうちにいるのは、ジェリーとパパとママの3人だけ。

 おにいちゃんたちは、おじいちゃんのところにお泊まりするんだって。


「今日は父ちゃん母ちゃんにいっぱい甘えて、ぐっすり寝な」

「お休みなさい、ジェリー」

「また明日な」


 だからきょうは、ひさしぶりにパパやママといっしょにねるの。


「本当に……よく戻ってきたね」

「今しばらくは、私たちのそばを離れないでね、愛するジェリー」


 ムギュってサンドイッチみたいにはさまれるの、ひさしぶりだな。

 それにやわらかいおふとんと、パパとママのやさしいにおい。

 えへへ、とってもしあわせ。


 もっともっと、パパとママのお顔をみてたかったし、おはなしもしたかったんだけど……

 つかれてたのかな、すぐにねむくなっちゃって、目をあけていたくてもおもたくなっちゃって……

 でも……あしたでもいいかな……

 あしたまた、いっぱいおはなししよっと……

 おにいちゃんと……おねえ、ちゃんたちと…………みんな……で……




 …………。




 しあわせなきもちで「おやすみなさい」ってしたのに、どうしてこわいゆめを見ちゃったんだろう。

 石にされて、ファミレに連れていかれちゃったときの、とってもこわいゆめ。


 パパのおたんじょう日にきれいなお花の首かざりを作ろうと思って、ママといっしょに、トラトリアからちょっととおくにあるお花畑まで行ったの。

 ジェリーひとりでないしょにしたかったんだけど、ママに見つかっちゃって、ひとりで行くのはダメって言われたから。

 でも、ママもお手伝いしてくれるって言ってくれたんだよ。


 首かざりにはいろんな色のお花をつかいたかったんだけど、お空の色をした青いお花だけ見つからなかったから、ちょっととおくまでさがしに行ったの。

 パパは、お空の青い色がいちばんすきだって言ってたから。


 でも、そうしたら……


「お、おおおおお……!」


 あの人と、石の魔物にみつかっちゃって……


「おじさん、だれ……?」

「こ、これは花精ではないか! こんなにもすぐ見つかるとは、ワシはつくづく運がいい! おいビンバー、逃げられる前に早く石にしろ! 連れていくぞ!」

「分かった」

「きゃあっ!」


 ママのところにいって、いっしょににげようとしたんだけど、ダメだった。

 こわくて、体がうごかなくて、そのあいだに魔物のおっきな光る目で、からだぜんぶを石にされちゃって……


 つぎに気がついたら、知らないおっきなおやしきの中にいたの。


「え……? ここ、どこ……?」

「ワホンのファミレだ。お前だけでは到底帰れないくらい遠い国だぞ。つまり、逃げても無駄ということだ」

「やだ……やだよぉ! おうちにかえりたい! パパとママにあいたい! おねがい、かえして!」

「飽きたら……もとい、気が向いたら考えてやらんでもない。それまでは至高の美術品としてワシの目を楽しませてくれ。グワハハハハ!」

「いや……いやだぁっ!」

「花精の石像を所有している者など、世界にワシしかおるまい。昂ぶりが抑え切れんわ」

「やああああっ!」


 いやだって言ったのに、おようふくを取られちゃって、また体をぜんぶ石にされちゃって……


 石になってるあいだはずっとねむってるみたいだったから、どれだけ石にされてたのか、わからない。

 ただ、こわいってきもちばっかりがずっとつづいてるみたいだった。


 でも、ゆめはゆめ。

 本当のほうではそのあと、おにいちゃんたちがたすけてくれたし、今はおきたらパパもママもちゃんととなりにいる。

 もういいの。

 だから、泣いたりなんかしないよ。

 しあわせのほうが大きいから。




 でもね、ちょっとわからないことがあるんだ。

 それは、ジェリーのきもち。

 これから先、どうしたらいいのかなって考えてるんだ。


 おにいちゃんもおねえちゃんも大好きだから、もっともっといっしょにいたいなって思ってる。

 たすけてくれたお礼もいっぱいしたい。


 でも、パパやママのことも大好き。

 いっしょにいられないととてもさびしいし、パパとママにもさびしいきもちになってほしくない。


 おにいちゃんたちは、"ひーろー"のおしごとがあるから、ずっとトラトリアにはいられないし……

 パパとママも、トラトリアからずっとは出られないし……

 ジェリー、どうすればいいんだろう。


 ううん、本当はわかってる。

 このままトラトリアで、パパやママといっしょにいるのがいちばんいいって。

 そのためにおにいちゃんたちはがんばってくれたんだし。

 それにジェリーは子どもだし、魔法はつかえるけどすぐつかれちゃうし、きっとじゃまになっちゃうもん。

 おじいちゃんとの魔法のおべんきょうも、まだおわってなかったっけ。

 うん、やっぱりトラトリアにいたほうがいいよね。


 ……なのに、どうして、こんなにむねの中がキュって苦しくなるんだろう。

 よくわかんないよ。

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