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20話『ペリッテ平原の戦い』 その1

 どうして、シィスがサカツと同じ武器を持っていたのか。

 更に、軽業師のような身のこなしがサカツと似ていたのも気になる。


 理由は幾つか考えられる。

 まず真っ先に思いつくのは、二人には繋がりがあるということ。


 シィスの実家は道場をやっていると本人が言っていた。

 サカツがそこの門下生だった、と考えれば辻褄が合う。


 じゃあ果たして、シィスもコラクの村の一件に一枚噛んでいたのか。

 そこが今一つよく分からない。

 アルたちを始末するならば、シィスも同行していた方がより可能性が高まったはずだ。

 実際に戦闘している所を見てはいないが、サカツに引けを取っているとは思えない。


 しかしシィスはずっとミャンバーにいた。

 それは船長さんたちが目撃しているから間違いない。


 ただし、全くの無関係という証明にはならない。

 当然、電子機器ではないが、この世界にも遠距離通信ができる道具がある。

 それを使って何らかのやり取りをしていたなら……


 ま、別に今直接的な被害を受けてる訳でもねえし、ウダウダ考えてもしょうがないか。

 そもそもマジでグルだったら、船上でシィスが何かしら仕掛けてきていたはずだ。

 シィスとサカツに繋がりがあるなんて、当時の俺は疑いもしなかったんだから。

 せいぜいお楽しみ中に風呂場へ乱入されたぐらいで、あとはいつも通りのシィスだった。

 

 よし、この件は終了だ!

 さっさと頭を切り替えっか!

 この件は俺の中だけに押し込めて、タルテたちには適当にお茶を濁しておこう。






 翌朝、起きてすぐに朝メシを食い、宿を出る。

 向かう先は町の中心を貫く中央通り、正確には停車場。

 アリゼイサからは徒歩ではなく、駅馬車を使って旅をすることに決めていた。


 小鳥のさえずりが街路樹から降ってくる、まだ人通りも疎らな中央通りを北へ歩いていくと、赤い屋根のついた小屋と、その脇に駅馬車が停まっているのが見えてくる。

 係員に料金を支払い、既に着席していた相乗り客たちに挨拶してから、俺達も所定の席に座る。

 ちなみにクィンチから徴収した資金はまだまだ余裕がある。

 天蓋付き、木製の駅馬車は10人乗りになっていて、俺達4人の他には完全に非戦闘員な風体の親子連れ3人と、護衛役の剣士が2人乗ることになっていた。


 乗り込んでから更に少し時間が経過した後、外にいる係員が吹く甲高い笛の音が鳴り響く。

 どんな肺活量してるんだと思うほど伸び、唐突にぴたりと止まる。

 そして次に御者が鞭を入れる乾いた音がして、ガタゴトと馬車が揺れ進み出した。


 また来たいな。

 朝日に照らされて輝きながら流れていく海やアリゼイサの港町を目に焼き付け、そんな思いを心に抱く。


 アリゼイサを出ると、左右を険しい山と海に挟まれた一本道がずっと北に伸びていた。

 道はそんなに狭くないし、徒歩用の道も海側にちゃんと平行して作られていたが、こうして見る限り駅馬車を選んで良かったと思う。


 ちなみに、残念ながら駅馬車一本でトラトリアへ直行することはできない。

 途中ティパスト川という、大陸を分断するように東西を横切る大きな川が流れているため、どうしてもそこの手前でいったん降りる必要がある。

 そのため駅馬車で進めるのは、アリゼイサからティパスト川の手前にあるプレゴという小さな町までとなっていた。


 あっちの世界で走っていた自動車や電車は本当に便利だったなと、しみじみ思う。

 こんなにケツに来るほど揺れたりしないし。


「失礼、あなた方は旅をされているんですか?」


 と、不意に親子連れの父親の方が話しかけてきた。


「はい、今はこの子の故郷に向かってる所なんです」

「ほう。ではお嬢さんはタリアン生まれなのかな」

「うん、トラトリアだよ」

「あら、そうなの。道理でやけに可愛らしいお嬢さんだと思ったのよ。あなた、花精でしょう?」

「うん、ママのほうが。パパはふつうの人だよ」

「あらあら、それは素敵で情緒的ねえ」


 母親の方はすっかりジェリーを気に入ったらしい。

 ニコニコ笑顔であれこれと話しかけ続けている。


「少年、そなたの生まれた場所を教えてくれぬか」


 そんな中アニンが、黙ってやり取りを見ていた男の子に話しかける。


「……プレゴ」


 やや俯きがちに、ぽつりと漏らすように答える。

 どうやらこの子はちょっと人見知りする性格みたいだな。


「プレゴって、どんな所なんだ?」

「……えっと、魚が、取れるかな。川の近くだから」

「なるほどなるほど。こう見えて実は兄ちゃん、魚が大好きなんだよな。釣るのも食べるのも。坊やはどうよ、やっぱ両方とも好きか?」

「うん」

「お、やっぱな。最初見た時から思ってたんだよ。この子は釣りが上手そうだなって」

「そう、かな……?」

「本当だって。なあアニン」

「うむ、ユーリ殿の眼力は信用していいぞ」

「普段はこーんなデカいのを釣ったりしてるのか?」

「え、そんなに大きいのなんて釣れないよー」

「おっと、ちょっと大げさすぎたか。悪い悪い。それじゃあさ、今までで一番デカかった魚ってどれくらいなんだ?」

「うーん……これくらい、かなあ」

「へえ、それでもでっかいじゃん。やるなあ」

「そう? すごいかなあ?」


 よしよし、少しずつ喋ってくれるようになってきたぞ。

 しょうもなかろうと何だろうと、とにかく話を振って言葉数を増やさせるに限る。


「姉さんたちはどこの出なんだ?」


 更に護衛の二人も乗っかってきて、タルテに話しかけてきた。


「わたしと彼はワホンです」

「私はツァイだ」

「ほう、じゃあ海を渡ってきたのか。いいなあ。俺もワホンには一度行ってみたいと思ってるんだよ。ファミレだっけか、世界中の食べ物が集まってくるっていうじゃないか」

「確かにそうっすね。ああ、俺達しばらくファミレに住んでたんですよ。お勧めの店とか、大食堂での立ち回り方とか教えましょうか」

「そりゃあいい。是非教えてくれ」


 護衛の男二人も、厳つい顔つきに似合わず気さくな性格をしていた。

 こういう仕事だから、間を持たせるために対人能力も必要なんだろう。


 とまあこんな風に、道中は極めて和やかな空気で話も弾み、退屈せずに済んだ。

 車を引かせている馬は普通のよりも丈夫で健脚な特別種らしいが、それでも一日中走り通しはさせられないみたいだ。

 そもそもプレゴまでは一日中走ってた所で辿り着けない距離である。


 そのため太陽の出ているうちは何度か休憩を挟みながら走らせ、陽が沈めば野営を行い、朝を待つ予定になっている。

 見張りは護衛の二人や御者がやってくれるため、俺達は休むことに専念できた。




 左側の山が途切れると、次は地平線いっぱいにまで平原が広がっている風景が目に飛び込んでくる。

 動物の姿は見えず、風だけが草木を撫でて吹き抜けていく。

 空には太陽と綿菓子のような雲、そしてプカプカ浮かぶインスタルト。


「どうだい、他の国から来た奴は大抵ここを見て驚くんだ」


 護衛の男が得意気に言う。

 でも確かにその通りだ。

 あまりの開放感に思わず一発叫びたくなるが、迷惑になるだろうからやめておいた。


「わぁ、すっごい広い!」

「広いよね」


 向かい側では、すっかり打ち解けたジェリーと男の子が窓から頭を出し、顔を見合わせて笑う。

 それをタルテが、ややハラハラした眼差しで見守っていた。

 恐らく「落ちないように気を付けて」とでも言いたいんだろうが、他人の親子がいる手前遠慮してるんだろう。

 心配すんな、とつつきながら無言で語りかけると、小さく息を吐いて苦笑いを見せた。


 アニンと護衛の男たちは酒の風味について語り合っていて、夫婦は肩を寄せ合って子どもたちの姿を眺めている。

 実に平和な光景だ。

 かくいう俺はというと、メシ食った後だから血が胃の方に行っちまっていて、さっきからあくびが抑え切れない。

 ちょっと一眠りするかな……なんて思っていると、前触れなく馬車が激しく振動した。


「うおっと!」

「な、なんだ!?」


 衝撃で体をぶつけないようにタルテを抱き止める。

 言っておくが反射的にやったのであって、ジェリーと男の子はちゃんとアニンがかばっていた。


「魔物だ! 魔物が出たぞ!」


 御者の大声が響くのとほとんど同時に、馬車がもう一度大きく上下に揺れ、緊急停止する。

 だよな。

 一回も魔物に遭遇せず辿り着けるとは思ってなかった。


 護衛の男たちは既に剣を持って外へ飛び出そうとしていた。


「アニン!」

「うむ」


 のんきに構えて守られてるだけ、ってのは性分じゃない。

 俺達も二人に続いて飛び出す。

 さて、タリアンの魔物を拝見してみますか。


「手伝ってくれるのか」

「食後の運動にはちょうどいいっすから」

「言うねぇ」


 馬車に背を向けて四人で四方を囲み、目を走らせると、これまで見たことがない姿形をした魔物たちが馬車の進行方向を遮っていた。

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