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19話『アリゼイサ、風光明媚な港町』 その2

 という訳で俺達は観光もそこそこに、港に隣接して建つ海の見える料理店に入った。

 近くにいた町の人にお勧めを聞いて教えてもらった店だ。


 中はそこそこ広く、客入りもまずまずで賑わっていたが、すぐに座ることができた。

 海側の席でなかったのはちょっとばかし残念だったが、これまで嫌ってほど見てきたからまあいいか。


 それにしても、ファミレの大食堂とは色々と大違いである。

 皆さん全体的にお行儀がいいし、内装も断然こっちの方が綺麗だ。

 卓上にこんな白い布なんか敷いてないし、花も飾られてない。


「おおお、やっぱ海産物ばっかだぜ」


 給仕から渡された献立表にざっと目を通しただけでも、海の幸にまつわる名前が躍りまくっている。

 それぞれ食べたいものを頼み、到着を待つ間、今後の方針について軽く打ち合わせをしておく。


「メシ食い終わったら、トラトリアの詳しい場所を聞き込みしてみるか」

「深い森の中にあるんだったわよね。野宿になっても大丈夫なように準備しておかないと」

「ようやく家に帰れる目処がついて嬉しいだろう、ジェリー」

「うん。パパとママ、げんきかな」

「そりゃあもう、ジェリーと同じで、元気にして待ってるよ」

「そうだね」


 正直、あまりそうは思えなかった。

 こんな純粋でふんわりした女の子を育てた両親だ、恐らく今頃は心労がかさんで……

 でも、それをそのままジェリーに伝えてどうなる。

 下手に不安を煽っても無意味だし、ここはウソをついてもしょうがないだろう。


 とりあえず今は、美味いメシでも食って元気をつけるとしよう。

 ペスカトーレ、パエリア、ポテトサラダ、イカにチーズとバジルソースを添えて焼いたもの、シーフードサラダ……

 続々と運ばれてくる料理を見れば、そう思うのも自然なことだ。


「おいしそう」

「よし、食おうか。いただきます」


 俺も含めて各自、しばし無言で料理に手を伸ばし、噛み、飲み込む作業を繰り返す。


「こ、これは……!」


 これが本場ってやつなのか!

 と感極まってしまうくらいどれも美味かったという感想が、具体的な言葉となって脳内に浮かんだのは、しばらく経ってからだった。

 何だこりゃ。

 海の幸ならではの弾力的な歯ごたえ、単に濃ゆいのとは違う海の如く奥深い味付け、手が止まらねえ。


「おいしい……これがタリアンの本場料理なのね」

「病み付きになりそうだな」

「ジェリーも家ではいつもこういうの食べてたのか?」

「ううん、ちがうよ。お魚とか貝はあんまり食べなくて、おやさいとかおまめが多かったよ。……あ、それとね、ケーキとかパイも食べてたの! ママが作ってくれるんだけど、すごくおいしいんだよ!」


 やはりというか、タリアンに着いてからというものの、ジェリーは多弁になっていた。


「おうちに帰ったら、みんなでいっしょに食べようね!」

「ああ、楽しみだな」


 絶品だというジェリーの母ちゃん製ケーキやパイは未来の楽しみに置いといて、今はジェラートを食後の甘味に食べたんだが、これも最高だった。

 で、全員が食べ終わった頃合いを見計らったかのように給仕がやってくる。


「当店のお料理はいかがでしたか」

「素晴らしかったですよ。舌が感動してます」

「恐縮でございます」


 その後、不自然な空白が生まれる。

 ……ああ、そうか。確かタリアンには心付けの習慣があるんだっけか。

 だが、いくら渡せばいいんだ?

 分からないから気持ち多めに出しておくか。


「痛み入ります」


 給仕は深々と礼をして、俺達を丁寧に店外まで送り出してくれた。


「いやー、心付けを渡すのは初めてだから緊張したぜ」

「ファミレではあり得ぬことだったからな」


 こういうのも異文化って感じで面白いけどな。




 充分に海の幸を堪能した俺達は本格的にアリゼイサの町中へと繰り出し、トラトリアの里についての情報集めを開始した。

 この町の気風なのか、タリアン人全体の傾向なのかは分からないけど、アリゼイサは親切で話好きな人が多いようだ。

 聞いてもいないことまで教えてくれる人が結構いた。

 曰く、町に住みついている野良猫の総数だとか、曰く、町の隅っこで毎日体操をしている奇妙なじいさんの話だとか……

 そんな無駄知識を仕入れるのも、楽しいっちゃ楽しいんだけどな。


 町並みも凄くきれいで、目を楽しませてくれた。

 背後を断崖絶壁に囲まれ、海岸に沿って町が広がっているんだが、建物の様式や色が自然の緑や青、薄茶色とよく調和している。

 美的感覚に疎い俺でも分かるくらいだ。


 タルテやジェリーなんかはすっかりこの町に魅せられている。

 舗装された石畳を気持ちよさそうに靴で叩いて鳴らし、また時には路傍で六弦の弾き語りをしている男に耳を傾けたりなんかして。


 とまあ、観光しながら情報を集め、まとめ終えた頃にはすっかり日が暮れかかっていたので、本格的な出発は翌朝にして、今晩は宿に泊まることに決めた。


 ここヨーシック大陸は、南北に伸びたやや細長い形をしていて、アリゼイサはその東側、南端付近にある。

 トラトリアの里は、大陸の中央部に広がる"コクスの大森林"の中心近くにあるらしい。

 あまり旅人が寄らない場所ではあるものの、別に排他的ではないようで、大森林の入口までは馬車で行けるとのことだ。

 ただし森の中は迷いやすく、行方不明者が結構な数出てるらしいが……

 ま、ジェリーがいるし、俺達の場合は大丈夫だろう。

 ちなみにフラセース聖国は、大陸北部にある。


 宿の人間にもしっかり心付けを払わ……払い、部屋に案内される。

 船旅の間過ごしていた所よりも大分広く、やっぱり内装はお洒落だった。


 と、荷物を下ろしているタルテが視界に映る。

 気になってることを聞くには今がちょうどいい。


「そういや、別れ際にシィスからどんな武器をもらったんだ。見せてくれよ」


 タルテは「ええ」と言って、手にしていた革袋を俺に差し出してきた。

 アニンやジェリーも集まってくる。


「本当にわたしにも扱えるかしら」

「大丈夫じゃね」


 思ってたよりも軽いそれを受け取って紐を解き、中身を一つ一つ出していく。

 まだ本人すら開けていないので、この時初めて全員で見る形になる。


 まず出てきたのは、赤黒い色で奇妙な文字が書かれている、少し厚みのある紙が三枚一束、合計三種類。


「これは……呪符か」


 アニンがそのうち一つを摘み上げた。


「シィス殿も太っ腹だな。斯様に珍しいものを餞別に渡すとは」

「へえ、これが呪符か。初めて見るぜ。紙の上に何匹ものミミズがのたくってるようにしか見えないけどな」

「こらこら、何と言うことを。魔力を持たぬ者でも特殊な力を行使できる、ありがたい道具なのだぞ」


 実物を見たことがないとはいえ、それくらいは俺も知ってる。

 世界のあちこちから発掘されて出回っている魔石や、それらを加工して作られた道具とは違い、呪符はツァイの……具体的にどこかは忘れたが、とある場所でしか作られていない。

 なんでも、作れる人間がごく一部しかいないらしい。


「で、どういう効果があるんだ」

「分からぬ。私にもミミズがのたくっているようにしか見えぬ」

「おいおい」

「覚え書きがあるわ」


 タルテが同封されていた、折り畳まれた紙を開く。


「……全部で3種類、3枚ずつあるんですって。魔力を封じる"絶蓋の呪符"、動きを封じる"縛鎖の呪符"、武器を封じる"鈍磨の呪符"……なるほど、確かに使い方も簡単みたいね」

「役立ちそうなのばっかだな」

「そうね。でも本当にわたしが持っていてもいいのかしら」

「もちろん、お前宛に渡されたんだからな。使い時も自分の判断で決めていいと思うぜ」

「……わかったわ」


 タルテの性格からして、余程のことがない限り使わなさそうだが。


「まだべつのもあるよ」


 ジェリーが袋の中を指差して言う。

 そうだった。そっちも見せてもらわねえと。


「こりゃあ……!」

「どうしたの? 驚いた顔して」


 中から取り出したものを見て、思わず声を上げちまった。

 どうしたって……大きさは違ったが、形状は完全に一致していたからだ。

 コラクの村の裏山に行った時、俺ごとアルを消すためにサカツから放り込まれた、火石と火薬を組み合わせて作られた兵器――火炎弾と。


 何でシィスが、サカツと同じ型の火炎爆弾を持ってるんだ。

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