97話『あきらめないものたち』 その2
けっこう上のほうまで来た……かな?
ここまではなんとか進めてこられたけど、まだだれも見つかってないの。
もうみんな、てっぺんまで辿りついちゃってるのかなぁ?
ジェリーも、もうすぐつくはずだけど。
「……あっ!」
今気づいたけど、この、床にぽたぽたって続いてるのって……血?
この道の先に、ずっとまっすぐ続いてる。
この奥にはたしか、さっきジェリーが落ちちゃったお部屋があるはず……
お兄ちゃんかお姉ちゃんたちかわからないけど、だれかケガしちゃってるのかな!?走らなきゃ!
「……シィスお姉ちゃん!?」
道の先でたおれてたのは……シィスお姉ちゃん。
他には……だれもいない。
「お姉ちゃん! しっかりして!」
「う……うう」
意識はまだあるみたいだけど……ひどいケガ!
ジェリーがなんとかしなくちゃ……ええっと……
あ、そうだ! ソルテルネさんから分けてもらったこのおくすりを……
これなら、すぐに治るはずだけど……他のみんなも同じようになってるかもしれないから、半分にしといたほうがいいかな。
ごめんね、シィスお姉ちゃん。
「……!」
わっ、すごい、ほんとうにすぐキズがふさがってく!
これなら……大丈夫かな?
「……はぁう! も、もんもるてぃあ!?」
「え、え、え?」
急に目をあけてガバっと起きてビックリしちゃったし、なにを言ってるのかよく分からないけど、とにかく傷は治ったみたい。
「あれ、ジェリーちゃん? 皆さんはどうしたんです?」
「あ、うん。えっとね」
今どんなことになってるか、ジェリーの知ってることを伝えると、
「――なるほど。把握しました。助かりましたよ……ああ、ジェリーちゃんは私の愛しい愛しいお花ちゃんです!」
またちょっぴりおかしなことを言い出したの。
「??? と、とにかくだいじょうぶそうならよかったよ。シィスお姉ちゃんは落っこちたあと、どうなってたの?」
「かくかくしかじか……なことがあった後で、侵入者と戦ったのですが、死んだふりをして欺くのが精一杯でした。そのまま気付かれないよう、こっそり最上部へ向かおうとしたのですが……
どうして生きていたのかって? それはですね、"変わり身の術"を使ったからなんですよ。詳細は企業秘密なんですけど、あらかじめ隠し持っていた丸太とすり替わって、相手の攻撃を回避するんです。これで相手の攻撃を避けたつもりなんですが……完璧には上手く行かなくて、死ぬギリギリの所まで行っちゃったんですけどね……しょぼん」
丸太なんてどこにかくし持ってたんだろ? って思ったけど、生きててくれてよかったよ。
「行きましょう。最上層はもうすぐそこです」
「うん」
シィスお姉ちゃんがいなかったら、上までのぼれなかったと思う。
けっきょく、てっぺんまで行ける階段とかが見つからなくて、天井にあいた穴から上がったんだけど、くっつく糸を使って引っ張りあげてもらったりして……
ほんとシィスお姉ちゃんって、色々できて器用だよね。
「これはまた、凄まじい爪痕ですね」
イースグルテ城でトストさまがいた場所に似てるけど……めちゃくちゃになっちゃってる。
すごい戦いがあったんだろうなぁ。
「だれもいないね。アニンお姉ちゃんたち……」
「しっ」
シィスお姉ちゃんが人差し指をお口にあててあちこち見始めたから、ジェリー、しずかにしたの。
「……微かな呼吸音が1つ、聞こえます」
えっ、ジェリー、ぜんぜん聞こえないよ?
「気配は……あっちですね」
お姉ちゃんが指さしたのは、お部屋のすみっこにできてた、ガレキの山。
でも、見てみてもだれもいないし、心の動きも見えないけど……
「……中に!?」
「急いで掘り返しましょう」
「だったらジェリーにまかせて。――愛を騙るより善良で、敵を呪うより罪深く、善悪無き隔たりを弄ぶ、我こそが"縁への介入者"!」
「なるほど、その魔法なら瓦礫を吹き飛ばせますね」
魔法でガレキを全部持ち上げてどかして、中から出てきたのは、
「ア……アニンお姉ちゃん!」
「運び出します。もう少しだけ頑張って下さい」
「う、うん」
それにしても……ひどいキズ!
さっきのシィスお姉ちゃんよりもボロボロになっちゃってる……!
「どうしましょう。私の手持ちの薬は使い切ってしまいましたし……」
「だいじょうぶ。ジェリーのぶんが半分くらいのこってるから」
「やりますねぇ!」
たぶんこのおくすりなら、動けるくらいには治してくれるはず……
「……うっ」
「完治とまでは行きませんが、一命はとりとめたようですね」
「アニンお姉ちゃん……よかったぁ」
「……そうか。生き残ったか」
「話せる状態なら、経緯を聞かせてもらえませんか」
「問題ない。……スール=ストレングは仕留めたが、その後突然ユーリ殿の母親が現れた。応戦したがまるで歯が立たず、窮地を脱することしか出来なかった。
我がササ流奥義"天上秘幻"を応用し、実体を消して死を偽装したまでは良かったが……詰めを誤りこの様だ」
アニンお姉ちゃん、どこか悲しそうで、からっぽ……
言わなくても、伝わってくるよ。
「えっと、ソルテルネさんは?」
「……ソルテルネ殿は、スールと相討ちになって、死んだ」
「……そっか」
「だが、ソルテルネ殿は己が本懐を果たせて満足していた。……私もまた同様」
お姉ちゃん……
「しかし、生き延びてしまったなどとは言わぬ。深く感謝するぞ、ジェリー、シィス殿。せっかく拾ったこの命、役立てるとしよう」
「うんっ!」
「いえ、私は大したことは。全てこの子の功績ですよ。私も救われた身ですから。ところで、ユーリさんからの"通信"は?」
「繋がらぬようだ」
「ジェリーも」
「そうですか。……ここで提案なのですが、一度塔を降り、ミスティラさんの所に戻りませんか? ユーリさんとタルテさんのことは気になりますが、居残って全滅なんて目に遭っては元も子もありません。
……最悪の場合、私達だけで敵と戦わねばなりませんから」
「そうだな」
シィスお姉ちゃんも、アニンお姉ちゃんも、本当はそういう考え方をしたくはないっていうの、分かるよ。
「うん、戻ろう」
だから、ジェリーもさんせいするよ。
「アニンお姉ちゃん、歩ける? つらかったらジェリーがおんぶするよ。お姉ちゃん、いつもジェリーが疲れたとき、おんぶしてくれてたもの。だから今度はジェリーがお返しするの」
「……逞しくなったものだ。では、肩を借りようか」
「うん、任せて」