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97話『あきらめないものたち』 その1

 考えても考えても、どうしてだいじょうぶだったのか、わかんない。

 あんなに高いところから落っこちたはずなのに、全然ケガもしないで無事なんて、おかしいな。


 魔法を使っている余裕なんてなかったのに、落ちてる最中、綿毛みたいに体がフワフワしてきて、思いっきり地面にぶつからないですんだの。

 強い風の魔力はかんじられないし、どうなってるのかなぁ?

 インスタルトってほんとに不思議だなぁ。


「……うん?」


 風の魔力どころか……あっちのほう……凍ってるみたいに霜が降りてる?

 あっ、そうだ、塔の外ではミスティラお姉ちゃんが、ミーボルートとたたかってたはず!

 それなのに、火がついているどころか、冷たくなってるなんて……


 おまけに、とっても静か。

 戦いはもう終わっちゃったってことかな?


 ……塔の中にいるお兄ちゃんたちも気になるけど、ちょっと様子を見に行ってみようかな。

 まだ悪魔がいるかもしれないから、見つからないように、こっそり動いて……


 …………。


「……えっ!?」


 先に見つかったのは、ほとんど真っ白い景色の中でたおれてた……


「ミスティラお姉ちゃん!?」


 悪魔もミーボルートも……いない!

 走らなきゃ!


「ミスティラお姉ちゃん! ねえ、しっかりして! こんなところで眠っちゃダメだよ!」


 いっしょうけんめい起こそうとしたけど……ダメ、目を開けてくれない!

 おねぼうなのはジェリーだけでいいのに! 


「……っ」


 あっ、でも……小さくだけど、息をしてる。

 よかった、生きてる!


 ケガはひどくないけど、きっと魔力や生命力を限界まで使っちゃったんだね。

 血を吐いちゃうぐらいに……


「どうしよう」


 あれをやってみるしかないけど、できるかな?

 ……ううん、やらなきゃ!

 迷ってたら、ミスティラお姉ちゃんが本当に死んじゃう!


「待ってて、ジェリーの力を分けてあげるから」


 一人前の花精ができる特別な方法……

 花たちにそうするように、口を使って魔力や生命力を直接人に吹き込んで、元気を分けてあげる方法。


 大人からは『ジェリーにはまだ早い』って言われてて、実は人をあいてに使ったことがなくて、今回がはじめてなんだけど……

 だいじょうぶ、できる!


「ごめんね、かってにちゅーしちゃって。……えいっ!」

「…………」


 ちょっと魔力を多めに入れすぎちゃったけど、うまくできたみたい。

 さっきよりも呼吸がはっきりしてきたし、顔色も少しだけよくなってるし。

 もうちょっと力が戻れば、目を覚ましてくれるはず。


 ……そういえば、ミーボルートがどこにもいない。

 でも、あそこのちっちゃな山になってるとこにヴァサーシュの槍が突き刺さってる。

 お姉ちゃんがやっつけちゃったのかな?

 分からないけど、取りにいこっと。 


「……うんせっ」


 槍を取って、あとは……お姉ちゃんを寒くないところに運んであげなきゃ。


「……きゃっ!?」


 悪魔!? ミーボルート!?

 ……ううん、塔が……爆発して、揺れた!?

 すごい……! 誰がやったのかな? お兄ちゃんかな?


 でも、あの優しいお兄ちゃんがあんなに危なくなるぐらい、思いっきりやるかなぁ?

 中に他のお姉ちゃんたちもいるのに。

 たしかめてみようと思って、お兄ちゃんと心の中でおはなしできるように、時々心で声をかけてみてるんだけど、ぜんぜんお返事がこないの。


 なんだか、イヤな予感がするよ。

 塔だけじゃなくて、今ジェリーが立ってる地面までグラグラしてるし。


 ……もしかしたら、インスタルト自体が……


「ダメだよ。そんなの、ダメっ!」


 ここで見てるだけなんて、できない。

 ジェリーが行ったって、みんなの役には立てないかもしれないけど……

 それでも、なにか力になりたい!

 ジェリーだって、ただ守られるために、ここまで来たんじゃない!


「ごめんね、ミスティラお姉ちゃん。ジェリー、行ってくる」


 たぶんもう悪魔は出てこないと思うけど、見つかりにくくて、なおかつ揺れたり建物がこわれたりしてもだいじょうぶそうなところにお姉ちゃんを動かして……

 それとここに来る前、ソルテルネさんからもらった結界石で結界を張って……あとは、


「トリキヤの羽衣さん、ヴァサーシュの槍さん、どうかミスティラお姉ちゃんを守ってあげてください」


 これでよし。

 いそいで行かなきゃ!






 塔の中は、思ってたよりもひどいことになってたけど、立ち止まってる時間はないよね。

 てっぺんに行くのが、いちばんみんなと会えるかくりつが高いかな?

 えっと……確かユーリお兄ちゃんは、"えれべーたー"を使うと、すぐ上にいけるって言ってたっけ。


 あった。

 とびらを開けて、中に入って、このでっぱりを押して……

 よかったぁ、ジェリーでもちゃんと動かせたよ。


 このまま……


「……わっ!?」


 と思ってたら、またグラグラって強くゆれて、おへやが真っ暗になっちゃった!

 しかもそれだけじゃなくて……え、動きが止まった?


 閉じこめ……られちゃった!?

 そんな……!


 おむねがドキドキしてきて……体が冷たくなって……


「……すぅ、……はぁ」


 ダメ。怖がってばかりじゃダメ。

 落ちついて。落ちつくのジェリー。


 できることを考えるの。

 こんな時でも、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちは、ぜったいにあきらめないで、なんとか乗りこえるはず!


 えっと……まずは灯りをつけなきゃ。

 この火石を使って……うん、見えるようになった。


 次は、とびらが開くかどうか……


「うぅ~んっ……!」


 ジェリーの力じゃ、ひらかないか。

 そしたら、どこかに別の出入口がないかなぁ。


 …………。


 ダメ、見つからない。


「どうしよう……」


 だから弱気になっちゃダメ!

 もっといっしょうけんめい考えるの!


 えっとえっと、次は……魔法かなぁ?


 壁も天井も植物じゃなくて金属だから、花精の力はつかえない。

 そうなると、こわすしかないかな?


 かたそうだから、思いっきりやらないとこわれないよね。

 魔力をいっぱいこめて……


「――風と鎌を掛けて、駆ける先へ切りかけて、"急ぎの刈り手"! ……やったぁ!」


 とびらを切ってこわせたけど……


「……あれ?」

 

 床が……上にずれてる?

 あ、そっか、着くすこし前に"えれべーたー"が止まっちゃったのか。


 これくらいのすき間と高さならよじ登れそう。

 うんしょ……っと。

 やった、見たことのあるところまで出られた!


 たしか、この7つの道の正解は……こっち。

 それで、ワナのないところは……


 …………。


 これまでまじめにお勉強しててよかったなって、すごく思う。

 暗記することってだいじなんだなって。

 お勉強で暗記する力をつけてなかったら、ここの道順やワナのない場所を全部おぼえるなんて、できなかったと思う。


 でも、あちこちこわれたり、強くゆれたりして危ないから、気をつけなくちゃ。

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