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16話『ユーリとヤマモ、自然の掟に従う』 その1

 この勢い、とても避けられない。

 だが防御なら!


「おおおッ!」


 ホワイトフィールドをできうる全力で展開。


「あなた!」

「サガ!」

「お父さん、お母さん!」


 幅いっぱいに広げた防御膜で火炎を押し留めながら後ろを見ると、ヤマモ一家は俺の言った通り、奥の方で一塊になっていた。

 息子のサガを母のアンが、その彼女を夫のアルがかばっている。


「ふうっ……」


 幸い、火炎は短時間で消失した。

 俺はすぐさま洞穴の外へ飛び出し、雨降る暗闇の森を見回す。

 誰だ、誰がやった!


 ……いねえ!

 だったら、あぶり出してやる!


 そこかしこに手加減なしのレッドブルームをぶっ放す。

 が、一発も命中しなかった。

 別に構わない。もう一つの目的は充分に果たせた。

 炎の華が照らし出した、木々のわずかな隙間に隠れていた人の輪郭。

 その姿を目に焼き付け――今度はブラックゲートを発動。


「……ッ!?」

「捕まえたぜ、クソ野郎!」


 移動してすぐさま、逃げる背中に蹴りをぶちかまし、うつ伏せに倒れたところを抑え込む。

 かなりの痩せ型みたいだから、腕力勝負なら負けないはずだ。


「ゆっくり両手を開け。暴れんなよ。おかしな真似したらもっと扱いが雑になんぜ」


 相手は言った通りの行動を取った。

 凄んだ効果かどうかは分からないが、とりあえず抵抗の意志はないようだ。

 まずはどんなツラしてるか拝んでやるか。

 体をひっくり返して仰向けにし、牽制も兼ねて小さなレッドブルームを相手のすぐ目の前に灯し続け、クソ野郎の正体を暴く。


 ……おいおい、マジかよ。


「あんたの仕業か……サカツさん!」


 なんと犯人は、ミャンバーで俺にヤマモ退治を依頼した男、コラクの村人・サカツだった。


「どういうことだ! いきなり火炎弾なんざ投げ込みやがって!」


 俺の記憶が確かなら、あれは火石や火薬などを混ぜ込んで作った火炎弾だ。

 そう簡単に手に入るような代物じゃないはずだが……いや、今は気にしてる場合じゃない。


「驚いた……君は不思議な魔法を使うんだな。まさか無傷でいるとは」

「話そらしてんじゃあねえぞ。事と次第によっちゃあ」

「君まで巻き込んでしまったのは悪いと思っている」

「バカ野郎! んなことを聞いてんじゃあねえ!」


 サカツは不気味なほど冷静だった。

 痩せこけた頬の上部にある細い目を見ただけで直感する。


 こっちが、この男の本性だ。

 頼んできた時の過剰気味だった振る舞いも、無口だったのも、演技だったってことだ。


「理解できないのはこちらの方だ。何故速やかに人食い鬼どもを始末しない? 村長にも言われただろう」

「……納得が行かなかったんだよ。部外者の俺からすりゃ、あんたらの言い分が随分一方的に聞こえたんでな」

「ふん、人間なのに化物共へ肩入れするのか」


 こいつをブン殴ってやりたい衝動が急激に込み上げてきたが、何とか飲み込む。


「とにかく、ヤマモ退治を引き受けたのは俺だ。勝手に手出しすんじゃねえ」

「依頼を引き受けたか否かが資格と言うならば、君の命令には従いかねるな」

「何だと……?」

「理解できないか? 私もね、村長から依頼された身なんだよ。とは言え、君とは違って私は正真正銘、コラクの出身だがね」


 サカツの野郎は、わざとらしいくらいゆっくりと、喋る速度を落とした。


「ただ引き受けたのはいいが、私は腕っ節に自信がないし、鬼どもの住処も分からない。都合のいい駒、もとい斥候が近隣の町にいないかと探していた所に、ちょうど船から君が現れたという訳だ。しかも都合良く一人で向かってくれた。後は君の後を尾行して……」

「能書きをベラベラうるせえんだよ。何だったらまずあんたを切り刻んでアルたちに食わせてやろうか」

「出来るのか? 私を殺せば、村に残した君の仲間が無事でいられる保証はないぞ」


 ちっ、脅しは通用しないようだ。

 全く動揺した様子を見せない。それなりに修羅場を潜ってるんだろう。


「ところで、私一人に張り付いていていいのか? 君の"お友達"はどうなっていることやら」


 そうだった。

 と、わずかな間とはいえ、意識をサカツから逸らしてしまったのが軽率だった。

 口から吐き出された針を避けきれず、掌に食らってしまう。


「若いな」


 チクリとする痛みと同時に、すぐさま俺の意志とは無関係に体から力が抜けていって、するりとサカツが抜け出てしまうのをみすみす見過ごすことしかできなかった。

 そのまま奴は素早い逃げ足で森の奥へと走り去ってしまう。


「この……野郎……!」


 クリアフォースで力の塊を飛ばすが、なにぶん倒れざまだったから上手く狙いが定まらず、見当はずれの木を折るだけに終わってしまった。

 ……逃げられちまった。


 仕方ねえ、頭を切り替えろ。

 まず動けるようにならねえと。


 刺さってるこの針、多分毒を塗ってあるんだろう。

 だがこれくらいならグリーンライトの効果範囲内だ。


「……よし」


 そんなに強い毒でもなかったんだろう。すぐ動けるようになった。


 サカツの行き先は気になるが、まずはアルたちの確認が先決だ。

 火炎自体からは守れたから、そこは大丈夫なはずだが……

 さっきのサカツの口ぶりからすると、他にも奴の仲間が潜んでいる可能性がある。


 で、潜んでいたらどうするんだ?

 全員張り倒すのか?


 予想外の事態で一時的に沈んでいた迷いが、また湧き起こってくる。

 いや、今は迷ってる場合じゃない。せめて確認してからにしろ。


 すぐに違和感が目に入る。

 洞穴の焚火が消えていたのだ。

 嫌な予感がますます色濃くなる。


 生物の気配は一切しなかったが、もはや信用できない。

 サカツの尾行に気付けなかったのだから。


 右手で大包丁を抜き、左手ではレッドブルームの灯りを作り、洞穴の中に踏み込む。


「どうなってんだ……」


 アルたちの姿が、忽然と消えていた。

 争った形跡はない。

 どこに行ったんだ? サカツの仲間――他の村人に連れ去られたのか?


 ちっ、ますます状況が厄介になってきやがった。

 自然までも俺を焦らせたいのか、雨脚が更に強くなってきた。


 落ち着け、冷静に対処しろ。

 まずは移動した痕跡を探すべきだ。


 洞穴の外を探っていたら、幸いすぐに見つかった。

 草木の折れ具合、土のえぐられ具合からして、かなりの速度で移動しているようだ。

 俺が来た方へほぼ一直線、つまりコラクの村に向かって進んでいる。

 人間の痕跡はないみたいだけど……こりゃまずいな。


「ヤマモーーー!! いるなら返事しろーーーー!!」


 後を追いながら大声で呼びかけるが、返事はない。

 あ、そうだ、先に連絡しとかねえと。


 ――アニン、聞こえるか!?

 ――ユーリ殿か。焦りが見られるが、どうした?

 ――面倒なことになった。ア……ヤマモを見つけたのはいいけど、横槍が入ってどっかに行かれちまったんだ。お前の勘が当たったよ。

 ――横槍、とは?

 ――サカツだ。あの野郎、とんだ演技派の曲者だぜ。とにかく、あいつが村に戻ってきたら警戒してくれ。お前らに少しでも危害を加えるようなら、そん時は容赦しないでいい。隠し武器に気を付けろ。

 ――承知した。ユーリ殿は今どうしているのだ?

 ――ヤマモを追っかけてる。こっちは俺が何としても止める。……ただ、万が一村にヤマモが現れても、先に攻撃しないでくれ。

 ――どういうことだ?

 ――話してみて分かったんだ。彼らを一方的に悪いとは決め付けらんねえ。けじめは俺がきっちり付けるから、頼む。

 ――分かった、信じよう。ユーリ殿の見る目をな。

 ――すまねえ。


 ブルートークを切った後、すぐさまブラックゲートを連続で使用。

 これだけ足場が不安定だと、走るよりこっちの方が速い。

 間に合ってくれよ。


 ………………

 …………

 ……


 ……いた!

 4度目の跳躍、ちょうど祭壇のある空間に差しかかった所で、アルが先頭に立ち、アンがサガを抱えている姿を捉えた。

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