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94話『母を捨てたもの』 その3

「……気に食わねえ」


 相手の殺気が、徐々に膨れ上がっていくのが、空気を伝って感じられた。


「気に食わねえ、気に食わねえ、調子こいて強気になってるところがすっげえ気に食わねえ! てめえはそんなんじゃねえだろうが! あの時みたく卑屈な弱虫でいろよ! 乞食みたいに死にぞこなって、負け犬みたいに隅っこで小汚くうずくまってろよ!」

「黙りやがれ! 俺は……今の俺は、安食悠里じゃない! ユーリ=ウォーニーだ!」

「親の言うことが聞けねえってのか!」

「親の義務を果たせねえような奴が権利を主張してんじゃねえ!」

「ぐっ……! るせえええ!」


 問答無用とばかりに相手が手から光線を放ってきたが、ホワイトフィールドで完全遮断する。

 ちょっと詰めると癇癪を起こすのはよく知っている。

 先読みするのは容易い。


「何抵抗してんだよおお! うっぜえなあああ!」


 立て続けに次々と光弾を放ってくるが、この程度なら問題はない。

 こんなものに俺が、俺達が屈するか。


 さて、この間に……


「タルテ、頼みがある。相手の攻撃の手が止まったら、ジェリーを探しに行ってくれ」

「ジェリーを?」

「ブルートークで連絡は取れなかったけど、あの子は絶対に生きてる。多分気を失ってるだけだと思う」

「分かったわ。ジェリーのことは任せて」


 タルテは、全く疑う様子も見せず、即答してくれた。


「あなたも絶対に、無事でいて」

「おうよ。心配すんな、絶対にお前を危険に晒しはしねえ。あれは俺が食い止めとく。ジェリーを見つけたら、2人でどこか安全な所に隠れててくれ。後でちゃんと迎えに行くからさ」

「……はっ、はっ、くそったれ、はぁ、しばらくメシ食ってねえから……おまけに、ガキと会ってから、また頭が……あいつが……」


 息切れしたのか、しばらく防御を続けている内に、攻撃が止まった。

 ここが好機。


「よし、行けタルテ。振り返るな!」


 合図の直後、タルテが出口の扉に向けて走り出す。


「行かせるわけねえだろ!」

「そりゃこっちの台詞だ」


 クリアフォースを飛ばして牽制し、攻撃を阻止。


「あんたの考えなんざお見通しなんだよ、単細胞」

「な……なんだとおおおお!?」


 よしよし、上手く注意をこちらへ向けられている。

 タルテを行かせたのは、確かにジェリーを探して欲しいという願いもあったが、同時に、ここにいさせるよりは安全だと判断したからだ。

 悪魔と遭遇する危険性もかなり低いはずだし、仮に遭遇しても、今のあいつならばきっと大丈夫だ。

 もちろん、塔の中が完全に安全だとは思っていないが、ここで戦いに巻き込むよりはずっとマシなはずだ。


 それに、正直……タルテを守りながら、勝つ自信はない。


「そうやってすぐカッカくるから単細胞っつってんだよ。いい加減にしろよなクソババア。ああそうだ、ついでに家庭内暴力の怖さを、頭の足りない母親に思い知らせてやるよ。俺の初めての反抗期って奴だな」


 もう、肚は決まった。

 相手が実の母親であろうと、俺は戦う。

 戦って、勝って、守るべきものを守り抜く!


「……そうかよ。じゃあ、反抗的なガキは、徹底的にしつけねえとな!? 行くぞクソガキ! もう1回殺してやる! 謝ったって勘弁してやらねえ! ズタズタにしてやる! ブッ殺してやる!」

「やれるもんならやってみやがれクソババア!」






「切る! 切る! ぶった切ってやる!」


 光の円盤が次々飛来してくる。

 あれはホワイトフィールドでは危ない。回避!


「避けんじゃあねええ!」

「じゃあお望み通り反撃してやるよ」


 ブラックゲートを使い、一瞬で間合いを詰め、大包丁で――斬る!


「ひぐっ……!」


 切断面から血飛沫が上がり、頭部が宙を舞うのを見て、胃がムカムカしてきたが、抑え込む。

 油断するな。

 さっきの言葉が事実なら、きっとすぐに再生する。


「おりゃあッ!」


 切り返しですぐさま、太い胴を横に一刀両断。


 まだだ。

 もっと細切れに……


「……ちっ!」


 できなかった。

 頭部と下半身を失った上半身が、正確にこちらに向けて細い光線を放ってきたからだ。

 完全にはかわしきれず、肩を貫かれてしまい、その回復を行っているうちに、相手は再生を完全終了していた。


「何しやがんだ。効かねえっつっても、痛えことは痛えってのに」


 斬る所まで持っていくのは簡単だが、大包丁だけで仕留めるのは無理があるみたいだ。

 作戦を変えるか。


 要は再生を封じつつ、攻撃を食らわせりゃいい訳だ。

 それなら……


「食らえ!」


 レッドブルームで、絶え間なく燃やし続けてやる!

 完全に炭になるまで、何度でも叩き込む!


「これなら……どうだ!」

「効かねえ、っつってんだろ!」

「くっ……!」 


 全身から放った衝撃波で、覆い包んでいた炎が瞬く間に吹き散らされ、しかも逆にこっちが負傷してしまう始末。

 当然のように火傷は完治されちまっていた。

 大包丁以上に効果が薄かった。作戦は大外れだ。


「だったらこいつだ!」


 凝縮し、鎚のようにしたクリアフォースを頭上から振り下ろし、叩き潰す!


「ふんっ!」


 これでもダメか!

 足元の地面を陥没させるくらいの力を込めたのに、あっさり耐えられちまった!


「さっきからチマチマチマチマ鬱陶しいんだよバカガキィ!」


 相手が両手を天に掲げたかと思うと、電光を帯びた黒い球体が発生し、撃ち放たれた。


「食らうかよ!」


 威力は凄そうだが、速度は大したことがない。

 避けてくれって言ってるようなもんだ。


「バーカ」


 にやりと、侮蔑に満ちた笑み。

 ……まさか!


「うおっ!」


 避けたはずの球体が、壁にぶつかることなく、自動的に軌道修正してこっちを追跡してきやがった。

 なるほど、こういう能力って訳か。


 でもな、こんなチンタラしたもん、当たる訳ねえだろ!

 反撃を食らわせてやる!


「悠里、おかわりよ。たくさん食べなさい」


 マジかよ!

 黒の球体を、2発、3発とどんどん増やしてきやがった。

 さほど広くはないこの空間で数を増やされちまえば、いずれは……


 だったら破壊してやる!


「……!?」


 大包丁で直接破壊するのはまずい気がしたから、クリアフォースで遠隔破壊を狙ったんだが、まるで堪えていなかった。

 護謨のように伸縮し、衝撃を跳ね返されてしまった。


「やべっ……!」


 それどころか、衝撃を与えたことで更に加速させてしまう始末。

 更に悪いことには、どういう原理か、球体同士では誘爆しない性質があるらしい。


 まずい……避け切れねえ!

 ホワイ……


「……ぐわあああああ!」


 球体が触れた瞬間、体が引き裂かれそうな激痛が走り、体が上から押し潰されそうになる。

 何だ……電撃と……重力!?


「はは……ははははははっははは! 埋まれ! 埋まれ! 死ね!」


 まずい、他の球が次々来やがった……!

 あれを……試すしか!




 …………!




「――あららぁ? 悠里ちゃん、本当に死んじゃったのかなぁ? 良かったわねぇ、今度は無視されず、ちゃあんとお母さんの手にかけられて」


 ……勝手に……


「……勝手に、殺すんじゃねえよ、クソババア!」

「なにィ!?」

「一体何の使い道があるんだと思ってたけど、こんな形で役に立つとはよ」

「球が……かき消されただとお!?」


 さっきの魔王との戦いで閃いた、大包丁と餓狼の力を組み合わせた"技"。

 回復用のグリーンライトにも、こんな使い方があったなんてな。


「ぐ……ぎぎぎぎぎ!」

『そんな歯ぎしりしてたら、歯がすり減って大好きな食事ができなくなっちゃうぜ、"お母様"』


 って煽ってやりたいけど、この状況では言わない方がいいな。

 んなことより、勝つ方法を考えるべきだ。

 このまま一進一退の攻防を繰り返してても埒が明かない。


「……ゆ……」


 何だ?

 今、俺の名前を呼んだのか?


「……ゆ、ゆるさなああああい!」

「は?」


 右手に、今まで見たこともないほどの凄まじい"力"を溜めて凝縮させ、野球の投手のように大きく振りかぶる体勢を見て、血が凍るような寒気を感じた。

 仮にも"親子"だからか、相手の狙いが直感で分かっちまった。


「馬鹿やめろ! そんなことをしたら……!」

「キャハハハ! やめるかよおおお!」


 だよな。


「だったら封じ込めてやるよ!」


 魔王の爆発も封じ込めた、大包丁とホワイトフィールドの合わせ技。

 これを全力で使えば……


「知らねえよ!」


 そんな……!

 相手が右腕を思いっきり、地面に叩き付けるように振り下ろすと、封印のための障壁がまるで障子のようにいとも容易く打ち破られ、粉々になって消滅してしまった。


 媒体として投げつけた大包丁が弾き返されたのを回収する猶予なんてなく、解き放たれた圧倒的な暴力が、全てを破壊していく。


「うおっ!?」


 地面が沈み……地割れが起こり……

 まずい、まずすぎる。

 自分の周りにホワイトフィールドを張って凌ぐ、いや、少しでも怪我を抑えねえと。


「あーっはっはっははは! ウケる! マジウケんですけど!」


 自分の足場も破壊しておきながら、相手は馬鹿笑いが止まらないといった様子だった。

 完全にネジが外れちまってやがる。


 何だよ、結局言っても言わなくてもブチ切れんのかよ!

 なら思う存分煽っときゃ良かった!


 完全に地面を失って崩落が始まった中、下へと吸い込まれながら、俺はそう思わずにはいられなかった。

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