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91話『分かたれるものたち』 その2

 案の定、この階は迷路になっていた。

 ったく、何考えてこんな構造の塔を建てやがったんだか。


「……突き当たりまではそのまま進んで大丈夫です。次は……右の通路の方が罠が少ないですね。あ、床に気を付けて下さい! 白くなっている部分以外を踏んだら、天井から何かが噴出される仕組みになっているようです」


 この迷路を突破するのには、ソルティの他にもシィスが大変役に立ってくれた。

 瓶底眼鏡の力もそうだが、本人の仕事柄、この手の罠を探して見破るのは得意らしい。


「じゃあ、俺のブラックゲートで一気に飛ぶか。皆掴まれ……よっと」


 そこに俺の"力"を組み合わせれば、突破は簡単……だったが、それでもかなりの時間がかかっていた。

 他にも、ミスティラのために正しい順路や罠の突破方法などの書置きを残してかなきゃいけない。

 大人しく待ってろってブルートークで伝えたとしても、性格上追っかけてくる可能性だって充分考えられるし。


「ここまでは順調だな」

「シィス殿のお陰でな」

「ほんとすごいなぁ、シィスお姉ちゃんは」

「うへへへ……」


 瓶底眼鏡越しに浮かべるシィスの笑みは、ひどく締まりがなかった。

 が、すぐに引き締め直し、厳しい語調で言う。


「いいですか、順調に行っている時こそ油断禁物です。例えば落とし穴。そう、油断しているとこんな風に落ちてしまいますからね」

「え?」


 まるでわざとやってるんじゃないか、そう思えるくらい奇跡的な間だった。


「……え?」


 突然、シィスの立っていた所の床がパカっと開き、


「うっそおおおおおおおお……!?」

「シィスさん!」

「シィスお姉ちゃん!?」


 こっちに向かって眼鏡を投げつけたシィスの姿が、瞬く間に真っ暗闇へと吸い込まれていった。


「何やってんだあいつ!」


 覗き込もうとする俺を嘲笑うかのようにすぐさま穴が閉じて、元の床に戻っちまう。


「……っの野郎!」


 クリアフォースをぶっ放し、こじ開けてやったが、


「あれ?」


 何故か空洞はなくなっていて、露出したのはみっちり詰まっている床だけだった。


「どうなってやがんだ。まあいいや、穴が開くまで何発でも……」

「待てユー坊。事前の打ち合わせ通り、先に進むぞ。幸い、彼女は罠を見破る眼鏡をこちらへ残してくれた」

「おいおい、いくらなんでも見捨てるのはまずいだろ」

「忘れるな。我々が最優先すべきは、スールを始末すること。無論、俺が足手まといになったその時は、躊躇なく切り捨てろ。……それにだ、彼女ならきっと大丈夫だろう。案外、単独行動させた方が成果を挙げてくれるかも知れんぞ」

「……ちっ、分かったよ」


 さっきソルティが言ったように、道中で非常事態が起こった時のことをあらかじめ想定して、取り決めをしていた。

 今回の場合で言うなら……誰かとはぐれた時は、そのまま先に進むと決めていた。

 シィスが相手だと上手くブルートークで通信できないから心配だけど、しょうがねえ。

 何とか上手く合流できることを願うしかない。


「ユーリ殿」


 アニンが、瓶底眼鏡を差し出してきた。


「あ? 何だよ」

「ユーリ殿が適任だ」

「頼む、ユー坊」

「……ちっ」


 どんな罰だこりゃ。


「お兄ちゃん、似合ってるよ。何だかすごくお勉強ができそうに見えるよ!」


 ジェリーの無邪気さが、かえって痛々しく突き刺さるぜ。






 幸いというか、大分後の方まで進んでいたようだ。

 ちょっと進むだけですぐ迷路の終わりが見えてきた。

 つまり、このダサい瓶底眼鏡をすぐ外せたって訳だ。


 迷路の終わりには、大きな扉があった。

 シィスが離脱したことを除いてはあまりに上手く行きすぎていて、何者かにここまで誘導されたような気がしないでもないが……


「……よし、もう罠はなさそうだ。タルテ、これやるよ」

「なんでわたしが持ってないといけないのよ」

「これはお前のような真面目ちゃんが持ってこそ輝く道具だ」

「バ、バカにしないでよ」

「してねえよ。むしろ逆だ。いいか、"眼鏡を外したら美人"ってのは、キュンと来る定番のネタなんだぜ。瓶底眼鏡なら尚更だ」

「え……っ」

「わははは、本当に素直に仲睦まじさを示すようになったものだ」

「う、うるせえな。こいつのきつい目つきをこれで隠しとけって意味で渡そうとしたんだよ」

「男がそんな照れるもんじゃないぜユー坊」

「やかましいわ」

「見て! 何か書いてあるわ!」


 タルテが大きな声を出したのは、話題そらしの意味合いもあるんだろう。

 それはともかく、大発見なのは事実だ。

 全員の視線が扉の上に集まる。


「何かしら、この文字」

「古代文字か?」

「……!」


 扉の上に書かれていた文字を見て、俺は思わず我が目を疑ってしまった。

 こっちの世界で、この文字をお目にかかれるとは……


「……Main Control Room……中央制御室」

「む?」

「お兄ちゃん、すっごーい!」

「あなた、読めるの?」

「ああ、まあ、これくらいなら。あっちの世界にあった言語だな」

「それで、こっちに書かれている文章は? 何と書かれている?」

「……ちょっと待っとけ」


 俺の脳みそで外国語をスラスラ読める訳ねえじゃん、なんて言える雰囲気じゃなかったので、とりあえず断片的な単語を拾って、意味を拾い上げようと頑張ってみる。

 えっと……


「……大当たりだな。ここが悪魔の製造を司る大元みたいだ。ここをぶっ壊せば止められるはずだ」


 良かった、俺の語学力で何とか理解できる範囲内で書かれていて。

 この際、何故英語で書かれていたのかはどうでもいい。


「ん?」


 しかし、見たことのない固有名詞があったのは引っかかるな。


「Giga-Siga……ギガ・シガ? なんじゃそりゃ」


 前後の文脈から大雑把に判断するに、制御機能の総称っぽいけど……


「とにかくだ。折角悪魔を生み出す大元まで辿り着いたのだ、入ってみるしかなかろう」

「それもそうか。よし」


 意を決して、俺達は巨大な扉の中へと入ろうとした……が。


「開かぬぞ」

「取っ手もないわね」

「"えれべーたー"のときみたいに、勝手に開いたりもしないね」

「多分、場所が場所だから、防犯の機密保持がしっかりしてんだろ。"鍵"を解除しねえと開かねえはずだ」


 扉の傍に、見たこともない形をした謎の端末が置かれていることからもうかがえる。


「どうするのよ。わたしたち、鍵なんて持ってないわよ」

「決まってんだろ。……ぶっ壊す!」


 思いっきりクリアフォースの塊を叩き込むと、扉はあっさり吹き飛んだ。


「行こうぜ」


 ジェリー以外の3人は何故かため息をつき、肩を竦めていた。

 せっかく道を開いてやったのになんたる反応だ。


 部屋の外にいた時点では中は真っ暗だったが、足を踏み入れると突如、天井の照明がつき、広大な空間の正体が露わになる


「ここは……!?」


 誰もが驚きを隠し切れない様子だった。

 俺だって驚いている。

 完全に空想科学の世界だこれは。

 硝子張りに似た透明な床といい、壁に沿って配置された無数の端末といい……

 宙には巨大な液晶画面が十数枚ほど浮かんでいて、天井付近にはインスタルトを映すのか世界を映すのか分からないが、球体状の液晶まである。


 そして、部屋の奥にそびえ立っている巨大な柱……

 ……いや、柱じゃない?


 像?

 違う、像でもない。


 あれは、バカでかいロボット、つまり悪魔だ!

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