表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
262/300

88話『インスタルトに降り立つもの』 その2

 土瀝青とはまた違った未知の物質で舗装された道路を、俺達は歩いていた。

 左右上方にあるものとは違って、中央塔へと真っ直ぐに伸びているこの大きな通りはしっかりと地面の上に敷かれている。

 幅はかなり広く、あっちの世界基準で言えば8車線ぐらいはあるんじゃないだろうか。


 足での移動に難儀するほど、このインスタルトは広い訳ではなさそうだ。

 大体、聖都とかファミレぐらいの面積だろうか。


 とはいえ、楽できるものならしたい。

 こういう文明を目の当たりにしてしまえば尚更だ。


 自動車や二輪車でもあればいいんだが、見当たらなかった。

 というかそもそも俺はそんなものを運転したことがない。


「さっきからやたらと見回しているけど、前に生きていた世界とはどれくらい似ているの?」

「似ているようで、全然違うな。あるはずのものがなかったり、違う材質でできてたりさ」


 タルテからの質問に答えながらも、観察を続ける。

 うーん、見れば見るほど異様だ。

 交通標識や道路標示、信号機の類は一切存在していないし、看板などもない。


「植物がぜんぜんないね」

「ふむ、確かに」


 ジェリーが、花精ならではの視点で、更に情報を追加してくれる。


「極めて高度な都市機能を構築しているようで、まるで市民の居住を考慮していないように見えます」

「そもそもここへ到着してから、生者の影も形もまるで見当たらないのが解せませんわ。まさか死せる者達の集う都でもないでしょうに」


 みんなが口々に述べる意見を総合しても、疑問が解決する兆しは一向に見られなかった。


「誰がいようといまいと関係ない。考えるべき、基準にすべきは任務の遂行。……もっとも俺自身、童心に返ったかのように色々とワクワクしているがね」


 茶目っ気を出しながらソルティが笑うと、場の空気が幾分和んだ。


「……とはいえ、誰かの存在が御所望と言うならば、ほら、出てくるようだぞ」


 気配を探らずとも、ちょっと耳に意識を傾けるだけで、ソルティの言葉の真意にすぐに気付けた。

 さっきまで無音だった周囲から、乾いた音、金属が叩き付けられるようなな音、駆動音などが次々聞こえ出し、段々と音量が上がっていく。


「悪魔……ッ!」

「やっぱりすんなりと行かせてはくれないってか」


 建物の陰から、前方の道路から、上空から……

 直方体と立方体の箱を重ねて組み立てたような悪魔――機械人形とでも言うべきだろうか、とにかく敵がウジャウジャと湧いて出てきやがった。


 地上では見たことのない種類だ。

 外見や、胴体部分に合計10個の穴が開いている特徴なんかは全部共通しているが、装甲の色が違っていた。

 えっと……ざっと見たところ、黒、緑、茶、桃、白の5種類がいるっぽい。

 にしてもえらく古臭い見た目のロボットだな。


「あ、分かった! もしかしたらここは悪魔の住む都市なのかもしれませんね! そう考えると、ひどく無機質なのも納得が行きます」

「閃いて納得してる場合じゃないでしょ! スールの差し金かしら」

「どっちでも関係ねえよ。ぶちのめして先に進む!」

「ぶちのめすって……少なくとも100体以上いるのよ!?」

「だから俺がやる。お前らは力を温存しとけ」

「成程。ユーリ殿の"力"ならば」

「魔力や気の消耗を心配する必要はありませんね」

「そういうこった」


 それに、俺が先陣を切って勇気を見せれば、その分士気も上がるはずだ。


「我々のことは気にせず、存分に暴れて来いユー坊」

「そうさせてもらうぜ。っしゃあ! 行くか! 見とけよ俺の大活躍!」


 こうやって自分だけで大群に突っ込んでいくと、一騎当千の猛将にでもなった気分だ。

 つーか戦うのも久しぶりな気がする。最近はめっきり……

 なんて、ふざけてる場合じゃねえな。


「っらぁッ!」


 こういう時は先制攻撃に限る。

 相手が陣形を整え、仕掛けてくる前に、こっちから叩き潰す!


 広範囲の壁状にしたクリアフォースを前方の群れにぶっ放すと、十数体の悪魔がひしゃげながら吹っ飛び、柱や道路、建物の壁へと叩き付けられた。

 よっしゃ、絶好調!


「……なんて調子こいたままやられる訳ねえだろ!」


 左右に展開していた桃色の兵隊が、銃のように変形させた右腕から次々と光線みたいなモノを撃ち放してきたのも、ちゃんと把握している。

 この俺の絶対障壁、ホワイトフィールドがきちんと全部遮断した。


 射撃のすぐ後、すかさず前後左右から、攻撃部位が赤熱した槍や剣を持った茶色の兵隊が接近してきていたが、そいつらも障壁の外側でブンブンチクチクやってるだけで、ヒビ一つ入れられていない。

 安全策を取って少しずつ戦力を削っていくのもありかもしれないが、このままチンタラやってるのもかったるい。


 ここは攻めあるのみ!

 前後左右の茶色と上空を浮遊していた緑色、全方位の敵に向かって、景色が全て赤く染まる勢いでレッドブルームを見舞ってやった後、炎の切れ目を縫ってブラックゲートで脱出。


 どうやら一体一体の戦闘能力、耐久力は大したことがないようだ。

 今の攻撃力なら、簡単に破壊できる。


「もっと臨機応変に動けよな!」


 おまけにロボットなだけあって攻撃が規則的すぎる。読みやすい。

 じゃあついでに、大包丁の切れ味も確かめておくか!


「だあっ!」


 白い兵隊は、あっさりと両断された。

 よし、全部通用する。行ける!


「――うおおおおおっ!」




 …………。


 ……。




「――とまあ、ざっとこんなもんよ」


 有言実行男と、自分で自分を褒めてやりたい。

 途中から数えるのをやめたから正確な数は分からないけど、大雑把に見積もっても数百はいた悪魔の兵隊たちを、ちゃんと俺だけで片付けてやったぞ。

 ……戦場になったこの周辺が、悪魔の残骸や穴ぼこだらけになり、ついでに建造物も滅茶苦茶にしてしまったが。


「デ、デタラメな火力ですね……私が調査した時とは比較になってませんよ」

「お兄ちゃんも、もっと強くなったんだね」

「見事だ、ユーリ殿」

「勇者の名に相応しいお働きでしたわ」

「ま、たまには主人公っぽい所も見せとかねえとな。ただでさえここしばらく活躍の場が無かったし」

「そういう発言はまずいでしょ……」


 戦いを見ていたみんなも無傷で、一切消耗していない。

 非常にいい感じだ。


「いやはや、頼もしいことだ。この調子でなるべく楽をさせてくれよ、友よ」

「なーんかそう言われると釈然としねえんだよな。まあいいや、急ごうぜ」


 この後も散発的に何度か同型の悪魔が現れたが、全て問題なく、仲間を消耗させることなく殲滅した。

 そしてやっと、インスタルトの中央に位置する塔の下まで到着した。

 頂上に球体が設置された、円錐型をした周囲の建物よりも一際背の高い黒い塔……間違いない。


 外壁は網目状になっていて、少なくとも目視できる範囲内に窓は見当たらなかった。

 ブラックゲートで近道はできそうにない。


「これをてっぺんまで登っていくのかよ。ま、こういう建物ならエレベーターがあるかもしれねえし、少しはマシかな」

「えれべーたー?」

「魔力のいらない転移魔法陣みたいなもんだ。前に俺がいた世界にはそういうのがあったんだよ」

「それは便利だな」


 あれ以降、スールからの通信はなく、だんまりを決め込んでいる。

 つまりあそこの、開きっ放しになっている出入口から勝手に中に入って構わないってことだろう。


「んじゃ、とっとと入るか……ってどうしたジェリー」

「お空で、赤いものが光ってるのが気になって。さっきまでは何もなかったのに。ほら」


 小さな指が指し示した先には、確かに赤い光点があった。

 時間帯的に星じゃないだろうし、そもそもさっきまで無かったってのに急に出現したってのも不自然だ。


「ねえ、段々大きくなってないかしら」


 タルテの発言もまた、的を射ていた。


「……ていうか、こっちに近付いてきてねえか?」

「塔の出入口まで固まって避難しろ! それと防御だ!」


 ソルティが声を張り上げたのと同時に、俺はホワイトフィールドを全力で展開する。

 もうこの時点で、誰もが分かっていた。

 "あれ"は確実に、こっちへ目がけて落ちようとしている。

 こっちに向かってきている。


 火球……?

 本体はそんなにデカくなさそうだが……


 結論を言うと、落下地点は中央塔よりも大分離れていたため、特に防御する必要はなかった。

 だが、それを幸運だなんて到底思えなかった。


 何故なら、降ってきたのは岩石の類なんかじゃなく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ