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87話『勇者ユーリ一行、インスタルトへ飛ぶ』 その3

「来たな。待っていたぞ、ユー坊」


 大監獄側の魔法陣に転移した早々、俺達を出迎えたのは、現・監獄王だった。


「これはこれは、監獄王自らお出迎えだなんて、光栄の行ったりきたりって奴だな」

「あまり変わってないな、お前さんは」

「あんたは、全く変わってねえな」


 その長い金髪といい、眠たそうな垂れ目といい……

 ていうか服も囚人服を着続けてるのかよ。


「着飾るよりもこの方が人心を掌握しやすいのでな」

「だから読心術みたいなことをすんのやめろって」

「……ん?」


 ソルティが握手を解き、タルテたちに次々と視線を送る。


「おお、ローカリ教の御令嬢ではないか。君も来ていたのか」

「お久しゅうございます、ソルテルネ様」


 やっぱりこの2人、元々面識があったみたいだ。


「おおよその事情はユーリ様より伺っておりますわ。この度は……」

「おっと、湿っぽいのは無しだ。こちらこそ、愚弟が迷惑をかけたようだな。兄として詫びておこう」

「いいえ、全てはわたくしの責。ラレットさんに罪はございません」

「君のそのような所に、あれは惚れたのかも知れぬな。……アニンもシィスも、久しぶりだな。あの時は色々と世話になった」

「ソルテルネ殿も、壮健そうで何よりだ」

「いえ、自分の任務を全うしただけですから」


 ふと、ソルティが顔つきを更に和らげて、跪くような姿勢を取った。


「真っ先にあなたへご挨拶せねばならない所を失礼しました。このような物騒な場所へ招いてしまい申し訳ありません、花精のお嬢様」

「ううん、だいじょうぶです」

「強い子だな」

「……あんた、そういう趣味があったのか」

「馬鹿を言うな、紳士としての礼を取ったまでだ。俺が愛する女性はあいつだけだぞ。……そして」


 苦笑したソルティが、立ち上がってタルテの真正面に立った。


「……なるほど。ユー坊をよろしく頼む」

「はい」


 突然、しかも曖昧な発言だったにも関わらず、タルテは力強く即答した。


「さて、挨拶も済んだ所で、行くぞ。本来ならば酒でも酌み交わしながら旧交を温めたい所だが、それは全てが終わってからにしようか」

「弟と同じこと言ってんな」

「そうか、では世界に平和を取り戻した後、実家に戻って、ラレットや兄貴と共に盛大に宴でも開くとしよう」

「つーかやっぱりあんたも普通に行く流れか」

「当然だろう。"女王陛下"を待たせる訳にも行くまい」


 まあスール的にもこの男の来訪は大歓迎だろう、というか逆に一番に招待したいはずの相手だからな。

 ちなみに、こんな状況だから勝手に余計な人員をインスタルトへ送りはしないと、既に各国間で話はまとめてあるらしい。

 つまり、行くのが決まっているのは、俺達7人だけだ。

 本来は、ミヤベナ大監獄へ行くってんなら坊ちゃんもちょっと連れ出して兄貴と再会させてやりたかったんだけど、多忙そうなため叶わなかった。






「――監獄の中はあんまり変わってねえのな」


 ソルティの先導で監獄内をどんどん下へ降りていく道すがら、様子を窺ってみたが、特に変化は見当たらなかった。


「俺が暴君と化して、恐怖政治を敷いていると思ったか?」

「ある意味恐怖ではあるな。ケツがムズムズする」

「おいおい、婦女子の前でそういうネタは無しだぜ」

「有りじゃねえの。なあ?」


 話を振ってみたが、精々アニンが含み笑いをしたり、ミスティラが軽く咳払いをするくらいで、反応は薄かった。


「大きな変化を起こせば、その分混乱も大きくなる。現状維持を基調としつつ、少しずつ良い方向へ移行していくのが上策と思ってな。まして今の状況を考えれば、それが正解だと、お前さんも理解できるだろう?」


 ソルティの方も空気を読んだのか、すぐさま真面目な話に切り替えた。


「まあな。てかスールの声が聞こえた後、混乱とか暴動は起こらなかったのかよ」

「このような場所の方が案外、外界よりも秩序だっているものだ」

「そういうもんかねえ。……あ、そうだ! メニマは大丈夫なのか?」

「……きっと大丈夫だ、としか言えん」


 少し表情を険しくし、他人事のように言われたもんだから、思わずカッとなってしまった。


「何だよそりゃ。無責任じゃ……」

「落ち着け、友よ」


 口を塞ぐように、肩を回してくるソルティ。


「お前さんたちがここを出てしばらく経ってからだ。彼女は自分の意志で出て行ったのだ。"どんなに辛い目に遭っても、より多くの人の為に役立てることがしたい"と言ってな。一応引き留めはしたんだぞ。だが、彼女の覚悟は強固だった。元々は罪人でない以上、そうまで貫かれては、大臣と言えど任を解いて行かせてやるしかあるまい?」

「でもよ」

「信じてやれ。彼女は、お前さんが思っているよりもずっと逞しい。何せ、お前さんに多大な影響を受けているのだからな」

「メニマ……」


 目蓋の裏に、器量は良くないが、人懐っこい笑顔の少女の姿が描き出される。

 そう……だよな。きっとお前なら大丈夫だよな。

 本当は改めてお礼とかを言いたかったけど、それは世界が平和になった後でもいいよな。


「納得できた所で続きだ。お前さんと旧知の間柄だったあの3人組も、刑期を終えてもうここにはいない。もう悪事は働かないと、一応口にしてはいたな」

「ん、そっか」


 あいつらもここで散々な目に遭ったから、流石に懲りただろう。


「どうした? 複雑な顔をして。引っかかることがあるのか」

「いや、何か他にも誰か忘れてるような気がするんだけど……」

「気のせいだろう。俺にも思い当たる節は無い」

「そうだな。気のせいか」


 どうでもいいことに囚われてる場合じゃない。

 ほら、5層へ繋がる厳めしい扉が見えてきたことだし、切り替えだ切り替え。


 特に俺達のご機嫌を窺ったり、心の準備を確認することもなく、ソルティは看守に扉を開けさせ、何やら二言三言命じて、別の通路へ通す手配をさせていた。

 俺としてもその方がいい。

 下手に言い訳や、気を回されなんかして、こいつのことをネチネチ恨みたくはない。


 でもやっぱり、嫌でも思い浮かべてしまう。

 脳だけじゃなく、筋肉や骨、古傷が記憶している、忌々しい出来事の数々……


「いやー、あの時はほんとしんどかったぜー! 散々地獄を見せられたもんな! 今こうやってピンピンしてるのが奇跡みたいだわマジで」


 正確には、タルテたちに嫌な思いをさせてしまうこと、俺が体験したことを想像させてしまうことの方がしんどかった。


「おい監獄王、ちゃんと環境を改善してるんだろうな」

「無論だ。後で見学するか?」

「だったら"特等席"を用意しとけよ」


 ちょっと意地悪く言ってやったら、ソルティは無言で苦笑した。

 タルテたちも、そこまで深く俺の境遇を想像しようとはしていないみたいだ。


 唯一、ジェリーが少し具合悪そうにしているのが心配だったが、シィスが肩を抱くように寄り添っていた。

 精神防壁手術とかいうものをしているあいつなら、確かに安心させてやるのに適任だな。


 シィスと目が合うと、両目をつぶられる。

 ……恐らく片目だけつぶりたかったんだろう。無理すんな。

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