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77話『ユーリ、故郷に戻り、家族と再会する』 その1

 タルテの義理の母親や兄貴との因縁に決着をつけた後、俺達は一旦ファミレに戻って院長先生(市長)たちに事の成り行きを報告した。

 正直、打ち明けるのには躊躇われたけど……院長先生に対してまで隠すのも色々と不都合なので、正直に話した。


「分かったわ。後のことは私たちに任せて、あなたたち2人はゆっくりお休みなさい。悪いようにはしないから」


 言われたことといえば、それぐらいだった。

 しばらくファミレに滞在して動向を静観していたが、どうやらファミレ側、というか院長先生も事を表立たせて騒がせる意志はないらしく、俺達とはこのまま没交渉で済ませてくれるつもりらしい。


 ひとまずの安心を得た俺達は今、また馬車に乗って、今度はロロスの町――俺の故郷へと移動している。

 ロロスを旅立ってからもうかなりの歳月が経っているし、せっかくワホンに戻ってきたから一度顔を出しておきたかったのと、タルテに家族を紹介したかったのと……それと、タルテは決して孤独なんかじゃないってのを教えたかったからだ。

 こっちの世界の俺の家族なら、きっとタルテのことを温かく迎え入れてくれる。

 そうすることで少しでも癒しに、心の慰めになればって思ったんだ。


 ファミレに滞在してた時からそうだったが、毎晩中々寝つけずにいたし、食欲も落ちていた。

 不眠や食欲不振そのものを隠そうとはしない上で、努めて元気に変わりなく振る舞っていたが、タルテは確実に消耗していた。

 くたばった後も苦しめやがって、あのクソ共が。


 無理するな、とは言えなかった。

 だってタルテは『強く在らなければ』『自分は大丈夫』という、かつて交わした約束や宣言を、頑なに守ろうとしてるんだから。

 そんな健気なまでの想いを、踏みにじれると思うか?


 俺はただ、信じるだけだ。

 お前ならきっと、大丈夫だよな。


「――シィスさん、ちゃんとご実家まで帰られたかしら」


 ふと、隣で、俺の肩を枕にしていたタルテが呟いた。

 うとうとしてたと思ったんだけど、起きていたみたいだ。


「大丈夫だろ。……多分」


 シィスとは、ナゴタの町を離れてすぐに別れていた。

 ファミレまで同行させたら、また実家とは逆方向へ進ませちまって、帰るのをますます遅れさせちまうからな。


「――シィスには色々世話になったな。ほんと感謝してるよ。ありがとな」

「いいえ、少しでも巻き込んだ償いができたならば幸いです。今更私ごときが言うまでもありませんが……タルテさんの支えになってあげて下さい」

「ああ、お前みたく出来る奴にならなきゃな、俺も」

「殺したい相手がいたら当道場までご連絡を。3割引でお引き受けしますよ」


 物騒な発言を残して、シィスは去っていった。

 当たり前のようにすっ転び、眼鏡にヒビを入れるというおまけ付きで。


 ……まあそれはいいとして。


「眠くなったら寝てていいぞ。昨日も寝つくまで時間かかってたもんな」

「うん。いつもありがとう。ずっと眠るまで手、繋いでてくれて」

「な、なあに、いいってことよ」


 恥ずかしい。

 向かいの席に座っているおっちゃんが、明らかにこっちを意識して咳払いしたのが余計に恥ずかしい。


 でも、この柔らかく、すべすべしてて、温かいものを離すなんてこと、できる訳がないだろ。






 ロロスの町は、ファミレを出て北東に進み、ワホンの国土の中央に広がる大平原を北に抜け、更にそのまましばらく進んでいくと見えてくる。

 タルテの故郷・ナゴタよりも更に小さいけど、のどかで平和な所で、海も森も山も近くにあって、俺は好きだ。


 そうそう、行きの時にこの道を通ったっけな。

 あのでっかい胸みたいな2つの丘もよく覚えている。

 あの時はブラックゲートの能力を過信しすぎてて、無謀にも徒歩でファミレへ向かってたっけな。

 で、大平原の所で野盗に襲われて、アニンに初めて出会って……


「懐かしい? 切ないような、何とも言えない顔してたわよ」

「凄い久しぶりだから、ついな」

「いいじゃない。わたしも楽しみだわ。ユーリの故郷がどんなところで、ご家族がどんな方たちか」

「きっとタルテも気に入ってくれるよ」


 気休めじゃない。

 あそこは温かい場所だから、きっと受け入れてくれる。

 もうすぐ帰れると思うとつい、馬や御者を急かしてしまいたくなってしまう。


「見えてきたわね」

「ああ、見えてきた」


 しょうもないオウム返しをしてしまったのは、焦りのせいだ。


 遠くから見たロロスの景色は、全く変わっていなかった。

 当たり前だが、海も、森も、山も、変わらず同じ位置に在り続けている。

 何故かそれがとても嬉しかった。

 本当は違いなんて分かるはずないのに、風の匂いもまた、変わらない緑のままに思えた。


 息を吸い込んで、吐くたびに、望郷の念が薄れていく。

 建物が段々と大きく見えてくるにつれ、高揚感が膨らんでいく。


 あと少しだ。


 …………。


 ……。


「……帰ってきたぜええええ!」


 馬車から降りた瞬間、つい大声を上げてしまった。


「声が大きいわよ。もう、しょうがないわね」


 隣で呆れた顔をしているタルテに苦笑して詫びつつ、俺達は歩き出した。

 行き先はもちろん、俺の実家――"一撃料理店"だ。

 馬車の乗降場は町の南端にあって、実家は町の北東部にあるので、それなりに歩かなきゃいけないが、久しぶりの地元を散歩するにはちょうどいい。

 もう当たり前のように手を繋いでいるが、今更知り合いに見られないようにしなきゃなんて思わなくなっていた。


「いい町ね。きれいで、ほどほどに賑やかで、平和で」


 歩き始めてすぐ、興味深そうに町の様子を見ながら、タルテが言う。


「何だっけな、町長が結構な細かい性格で、町の整備に力入れてたんだっけか、確か」

「だから清潔で、景観も落ち着いていてきれいなのね。いいことだわ」


 ちなみに区画整理にも力を入れていて、十字状の大通りが町の中央を縦横に貫いて伸び、そこに沿って建物が並んでいるのが町の大まかな構成となっている。


「ん、ちょっと待った」


 町の中央付近に差しかかった時、とある建物の入り口から覗き見えた店内に、見知った顔を発見した。


「知っている方がいたの?」

「ああ、ちょっと顔出したいんだけど、いいか」


 タルテは二つ返事で承諾してくれた。

 手を繋いだまま、中には収まりきらず軒先にまで品物が雑然と並べられた小さな店の中へと入っていく。


「いらっしゃい」

「久しぶりだな、アリド」

「お……もしかしてお前、ユーリか!? 帰ってきたのかよ! 雰囲気変わったな、一瞬分かんなかったぜー!」


 勘定台を挟んだ向こう側に立っていた幼なじみの方は、あまり変わっていなかった。

 一応同い年のはずだが、あまり大人になった感じがしないというか。

 まあ、それがダメなことだとは言わないけどさ。


「何だよ黙り込んじまって。口数も減っちまったのかよ」

「いや、そんなんじゃねえけどさ。お前は相変わらずそうで何よりだよ」


 苦笑の後、握手を交わし合う。


「うおっ、手も何かすっげえことになってんな」

「そうか? まあいいじゃねえか。それよか、家の手伝いしてんのか? 感心だな。昔はあんなに家業継ぐのを嫌がってたのにな」

「お前が出てった後、急に親からうるさく言われ出したんだよ。ウォーニーさんとこの息子さんを見習えって。お前のせいだからな」

「はあ? そこは感謝するとこだろ」


 軽口を叩き合っている内に、幼なじみの視線が、チラチラとタルテの方に向けられ始めた。


「ユーリ、そっちの子は? まさか……」

「旅先、っつーかファミレで知り合った俺の……こ、恋人だってばよ」

「は、初めまして」

「はぇ~、結構可愛いじゃんか。そっちの方もやるようになったのかよ」

「結構、じゃねえだろ、"凄く可愛い"だろ」

「バ、バカ……!」


 タルテからマントの裾を引っ張られる。照れちゃって。

 一番照れているのは、言いだしっぺの方だが。

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