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74話『ユーリとタルテ、久しぶりにファミレへ戻る』 その2

 で、大食堂でメシを食い終えた後、俺達は家のあった場所に足を運んでみた。

 当然、復興はもう終わっていて、前にあったものとは違う、新しい家がひしめくように建てられていた。


「ごめんなさい」


 タルテが暗い顔で、俺に謝ってきた。

 ジルトンから話を聞いた時からずっとこんな感じだ。

 食も全然進んでなかったし……


「お前が悪いんじゃないんだから、そんな顔すんなよ……って言っても難しいか」


 自分が狙われていることより、周りに迷惑をかけてしまっていたという理由で落ち込んでるに違いない。


「任せろ。俺が必ず解決する。それにファミレの連中はおおらかだから、ジルトンみたくちゃんと分かってくれる」

「……うん」


 肩を抱いて言うと、少しだけだが、表情に光が戻った。


「やりますねぇユーリさん」

「茶化すなよ」

「すいません、ここいらで喋っておかないと、私がいることを忘れられてしまいそうなので」

「そういう一段上から俯瞰した発言は慎んでくれよな」


 シィスと話していると、元俺の家があった位置に新しく建てられた家の扉が開き、酔っ払ったおっさんが出てきて、千鳥足でふらふらと歩き始めた。

 どうやらここはもう新しい住人のものになっちまってるらしい。


「まあいいか、無くして困るようなものは置いてなかったし」

「それはいくらなんでも楽観的すぎるでしょ……」

「ああそっか、アニンの私物まで無くなっちまったのは流石にまずいか」

「そうじゃなくて」


 ともあれ、寝泊まりする場所無しってのもまずいから、家のことも考えなきゃなあ。

 資金は有り余るほど持ってるから、別に当面は宿暮らしでもいいんだけど。


 ただ、不届き者がまた来た時のことを考える必要がある。

 ジルトンは証拠がないって言ってたが、十中八九タルテを探してる奴らと同一人物だろう。

 一体誰だ?

 多分クィンチとは関係ないはずだ。

 最初に屋敷に乗り込んだ時にきつく締めといたし、本人は大監獄にいるのに探す理由もない。


 まあ、誰であろうと関係ねえ。

 発見次第ぶちのめす。

 とりあえず、もしまた居場所を聞きに来たら、本人が戻ってきてるから港に来るよう言って欲しいとジルトンには頼んである。

 港を選んだのは、比較的暴れやすい場所なのと、後は捨てやすいからだ。


「ま、今日は宿を取るとして、とりあえずは挨拶回りだな」


 まずはご近所さんだった人たちを訪問したかったが、タルテのことを考えて、後回しにさせてもらうことにした。


 次に顔を出してみたのは傭兵組合だ。

 他国を回っていた間も全然活動してなかったし、あまつさえ大罪人にもなってたから除名処分でも食らってるんじゃないかと思ったが、そんなことはなく、「久しぶりじゃねえか」とか「逞しくなったんじゃねえか」とか形式通りの言葉ばかりが戻ってきた。

 ちなみにタルテはシィスに任せ、1人で行った。


 それよりも驚きだったのは、孤児院の院長先生が……


「あら、ユーリ君。お久しぶりね」

「お久しぶりです。ビックリしましたよ、先生がいつのまにかファミレの市長になってたなんて」

「目指していた訳ではないんだけどね。いつの間にかなってしまったのよ。児童福祉に力を入れられるようになったのは良い事だけれども」

 そう言って、年齢不詳の女性はたおやかに微笑む。

 うーん、相変わらず底知れない人だ。


「市長、お聞きしたいことがあるんですが」

「前のように、もっと砕けた呼び方にして欲しいわ」

「ですが……分かりました、院長先生」


 この人の、ニコニコ笑いで圧力をかけてくるやり方、ほんと苦手だ。


「聞きたいことというのは、あのお嬢さんを探している人達のことかしら?」

「知ってたんすか」

「詳しい素性も、火事の証拠もまだ掴めてないのよ。役に立てなくてごめんなさい」

「そうっすか……」

「警備は強化しているのだけれど、どうも手口が巧妙で、法に触れないギリギリの所を上手く見極めて動いているみたいなのよ」


 申し訳なさそうに院長先生が言う。


「気にしないで下さい。ですが代わりに、何かあったら俺にすぐ情報が届くよう計らってもらえませんか」

「迎え撃つつもりかしら?」

「タルテは、俺の大事な人なんです。苦しめる奴は許さない」

「若いっていいわね。分かったわ、何とかしましょう」

「ありがとうございます」

「ひとまずそれは置いておいて。とりあえず今夜は、みんなでお祝いをしましょう。あの子たちもきっと喜ぶわ」


 院長先生が手を合わせ、意図的に声の調子を変えた。


「そうそう。あなたが始めた"種まきの会"、今は大分大きく育ったのよ」




 歓迎会の用意が整うまで少し時間があったから、懐かしのあいつらに先に会いに行くことにした。

 先生の立場の変化に伴ってか、孤児院も以前より遥かに立派な建物へと改修されていた。

 とは言っても無駄な飾り気などは一切なく、あくまでも生活の質を向上させるだけに絞られている。


 あの子たちは、庭で無邪気に遊んでいた。

 足を踏み入れるなり、敏感に気配を察知されて、あっという顔をして駆け寄ってくる。


「わあ、ユーリ兄ちゃんだ! 帰ってきたんだ!」

「ひさしぶりー!」

「元気だったー!?」

「おー、前歯欠けにおかっぱにくせっ毛! 久しぶりだなー!」

「ボクたち、そんな名前じゃないよぉ」

「悪い悪い」


 くせっ毛の頭をわしゃわしゃと撫でつつ、詫びる。


「最後に会った時よりでっかくなったんじゃねえか?」

「うん、ちゃんと市長……じゃなかった、院長先生に食べさせてもらってるから」


 確かに、あの時より健康的だし、顔つきも明るくなってるな。

 つくづく院長先生に感謝だ。


「あのね、最近は食べてるだけじゃなくて、ちゃんとおてつだいもしてるんだよ! おそうじとか、お皿洗いとか……」

「偉いじゃんか。頑張ってるんだな」


 愛嬌たっぷりなおかっぱの子を見てると、どこかジェリーを思い出す。


「ねえねえ、"さっかー"やろーよ! あのお姉ちゃんといっしょに!」

「おおいいぞ。よっしゃ、んじゃ姉ちゃんを呼んでくるから待ってな」


 ……。


 最初はサッカーに乗り気じゃなかったタルテだったが、押し切ってやらせてみた。


「……こっち! そう、いい感じよ!」


 あの活き活きとした顔を見る限り、その判断は正解だったみたいだ。

 子どもたちと体を動かして、少しは気が紛れているようだ。


 にしてもタルテの奴、相変わらずサッカー上手いな。

 別に練習なんてしてないってのに……生まれる世界を間違えてるんじゃねえか?

 いや、ダメだ。あっちに生まれてたら会えなくなってた。それは絶対ダメだ。


「兄ちゃん、ボーっとしてないで走ってよ!」

「おお、悪い悪い」

「あうっ!」


 あ、タルテの蹴った球がシィスの側頭部に直撃した。

 そして眼鏡が吹っ飛んだ。






 で、運動していい汗を流し、ひとっ風呂浴びてさっぱりした後、院長先生が急遽開いてくれた歓迎会にお呼ばれしたんだけど……


「すっげえ……」


 集まった人数につい圧倒されてしまった。

 ファミレを出る前に開いた会合の時より、人数は優に2倍を超えていた。

 しかも聞いた話だと資金提供者も増え、活動範囲もファミレ近辺の町まで広がっているらしい。

 俺がいない間にも、種まきの会の活動がこんなにも広がってたなんて……泣けてくるじゃねえか。


 ついでに言うと、随分構成員が健全化されたっていうか、酒盛りの延長みたいな雰囲気は消えていた。

 まあ、市長にもなった院長先生が音頭を取れば、こうなるか。

 それと、正直少しばかりビクついていたんだけど、俺が大監獄に入っていたって話は誰も知らないみたいだ。


「あの、私もこの場にいてしまってよろしいのでしょうか」

「遠慮すんなよ。楽しんどけって」


 主賓席の1つに落ち着かない様子で座るシィスに言い、タルテを見てみる。

 目が合うと、表情を緩められて、


「あなたのやってきたことが実を結んだのよ。なんだかわたしも嬉しくなってきちゃった」


 そんなことを言ってきやがった。

 俺は、お前からそんなことを言われるのが嬉しいっての。


「――それでは、当会の発起人であるユーリ=ウォーニー氏に、一言挨拶をして頂きましょう」

「え?」


 唐突に院長先生から名指しされ、驚きで反射的に席を立ってしまう。

 そうだった、今さっきまで院長先生がずっと演説してたんだった。


「ほらユーリ、頑張って」

「お、おう」


 世界で一番頼もしい応援を受けて、俺は院長先生と入れ替わりで壇上に立つ。

 そう、ここはファミレの広場で、天気は快晴、時間は夕暮れだ。


 いや、何を俺は状況解説してるんだ。

 えっと、かがり火の滲ませている橙と、夕空の橙が綺麗だ……

 だから何で状況解説してるんだよ。


「おーい、早くしろよー! みんな腹ペコなんだぞー!」


 どこからか野次が飛び、どっと笑いが起きる。

 やかましいわ……って以前も同じ流れだった記憶があるぞ。

 そういやカッツの奴がまだファミレに戻ってきてないことをたった今思い出した。


 あいつのことは別にどうでもいいか。

 深呼吸し、とにかく最低限喋るべきことをまとめ上げる。

 ……よし。


「……えっと、なるべく手短に。皆様、俺がいない間に、ここまで種まきの会を大きくしてくれて、本当にありがとうございます。俺の方も、無事用事を済ませ、こうやって五体満足で戻ってきました。それと同時に世界を回って、この種まきの会と同じような活動理念を持つローカリ教の総本山へ行ったりとか、色々な経験もしてきました。

 もちろん、俺自身、飢えた人を助ける活動も怠らなかったつもりです。上手く行ったり、失敗したり、色々ありましたけど……結論だけ言うと、俺の信念、いや、この会の活動は、決して無駄じゃなかったと確信しました。

 なので、今後も粉骨砕身、この活動を続けて行きます。皆様もどうか、1人でも多くの人を救えるよう、力を貸して頂けるとありがたいです」


 言い終えて頭を下げると、ポップコーンのようにあちこちから弾け飛ぶ拍手の音が聞こえてきた。

 くそっ、嬉しくなるじゃねえか。


「改めて、急な帰還をお詫びすると共に、帰還当日のうちにこのような温かい、素晴らしい歓迎会を開いて下さった市長、及び会員の皆様に深く感謝します。どうか皆様も楽しんでもらえればと思います。以上ッ! 乾杯!」

「かんぱーい!」


 よし、言ってやった言ってやった。


「良い演説だったわ。次の市長選に出馬してみたら?」

「褒めすぎっす」


 壇からの降り際、市長にそんなことを言われたのがこっ恥ずかしかった。


「大人になったわね」

「う、うるせえな」

「話しているあなたの姿、素敵だったわよ」


 タルテにそう言われたのが、もっとこっ恥ずかしくて、嬉しかった。

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