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65話『ユーリ、取り戻し、奪い取り、失う』 その2

 細めて凝らした視界の中央に、小さな赤い花が、熱と光を伴って咲いた。


「……おお」

「おおおお?」

「うおおおわっ!!」

「やった! 出た!」


 誰が発した声だか分からないくらい、自分が何を言ったのかも分からなくなるくらい、俺も興奮して舞い上がってしまった。


「っしゃあああ! 上手く行ったぜ! 生きてるぜ俺!」


 忌々しい首輪を撫で回してみるが、ちゃんと爆発せず残っている。

 首も繋がってる。生きてる。

 へっ、ざまあみろ! 俺は死んでねえぞこの野郎!


「っしゃ、これなら行ける!」


 知らずに今まで我慢し続けてたのが馬鹿みたいだが、しょうがない。

 結局この力頼みなのかと情けなくもなるが、今は目的を果たすことが最優先だ。

 ダシャミエを探すため、メニマを救うため、使えるものは何でも使ってやる。


「驚いた……首輪を反応させず、一体どうして」

「ちょっとあんた、種を教えなさいよ」

「まあ機会があったらゆっくりな。それよかこれから……」

「てめえら! 何をしてやがる!」


 部屋の出入口から俺達に向けて飛ぶ怒鳴り声。

 この展開、一体何度目だ?

 天丼も流石に飽きてきたっての。


 これまでとの違いは、こっちの声は流石に忘れようがねえって所だ。


「し、しまった!」

「騒ぎすぎたわね……!」

「見つかってしまったか」

「ひ、ひいいいい!」

「ネズミ共め……少々悪戯が過ぎたようだな」


 声の主――これまで散々俺をいびり倒してきた猿と、トチップスのジジイが姿を現した。

 あの様子からして、さっきの出来事は目撃してないみたいだ。


「貴様ら、只で済むと思うなよ。その小僧に肩入れした罪は重いぞ。知己であった不幸を呪うがいい」

「くっ……!」

「慌てんなお前ら」


 こうでも言わないと恐慌に陥りかねなかったので、鎮めておく。


「肩入れしといて良かったって思わせてやるよ。すぐにな」

「なんだぁクソ虫? 死にぞこないのくせにまた随分と威勢がいいじゃねえか。とうとう頭おかしくなっちまったかぁ? それとも、もうヤキ入れられたのを忘れられちまったかぁ? 猿並の頭だな、ひひひ」

「猿はてめえだろ。知性のねえツラぶら下げやがって」

「な……んだとぉ!」

「これまで散々世話になった分を、これからたっぷりと利子つけて返してやるよ」


 ヒーローを志す者にあるまじき感情だが、押さえつけていた怒りが、既に火山のように吹き上がっていた。

 ぶちかます。

 その一念だけが頭の中でずっと鳴り続いて止まない。


「やれるもんならや」


 猿の言葉が、不自然な所で途切れた。

 俺が、クリアフォースによる見えない塊を上から振り下ろしたせいだ。

 

 久々にぶっ放した餓狼の力は、硬い地面に陥没を伴った放射状の亀裂を走らせながら、プリンを砕くように猿の体を縦に押し潰してこの世界から完全に消滅させてしまった。


「…………」


 別の意味で、やりすぎたと思った。

 最初からブチ殺してやるつもりだったが、何せ鬱憤が溜まりすぎていて、範囲はともかく力の方を加減できなかった。


「……な?」


 最初、自分の近くで起こった出来事を認識していなかったであろうジジイの顔が、段々と軽侮から驚愕、恐怖に塗り替えられていき、


「なななぁぁぁ!?」


 言語の体を成していない声をだだ漏らし始める。

 3人組やクィンチに至っては、完全に言葉を失って仰天したり、腰を抜かしたりしていた。

 今は構っている暇はない。


「おい、ジジイ」

「は、はぁぁぁ!?」

「お前もすぐ猿の後を追わせてやるよ」

「や、やややや……!」

「さっきから同じ一文字を連呼しやがって。手抜きしてるみたいに思われるじゃねえか。まあいいや、喋れねえなら楽なやり方を教えてやるよ。頭の中で俺と会話する想像をしてみな」

「か、かかかか!?」


 ――聞こえてるか? クソジジイ。

 ――ひぇっ!? ど、どうなっておるのだ!?

 ――教えねえよ。……死ねッ!

 ――ひぐッ……!?


 一度も試したことはないが、可能だという確信はあった。

 以前"血詰めの呪詛"を食らった時に思いついた応用技……殺気を込めた思念を大音量で叩き込んで息の根を止める、言うなれば、ブルートークによる呪殺。

 恐らくこっちが相当な飢餓状態で、なおかつ相手の精神が不安定だったり弱ったりしてないと使えないだろうが……


「な、何だ!? 急にトチップスが倒れたぞ!」

「心臓の発作か?」

「ピクリとも動いてない……死んでるの?」


 どうやら、こいつに対しては効果抜群だったようだ。


「歳だから発作を起こしたんじゃね? 怖い怖い」

「ま、益々得体の知れぬ力を身に着けて人間離れしおってからに……」

「人聞きの悪いこと言うなよクィンチさんよ。あとお前らもそんな引くなって。寂しいだろ」

「う、うむ」


 念の為、仰向けにぶっ倒れたジジイの脈や瞳孔を確認してみたが、本当にくたばったようだ。

 憎きクソ野郎2匹を葬ってみても、全然さっぱりなんかしてないけど、とりあえず気が済みはした。

 そんじゃ次は……


「行こうぜ」

「へ?」

「もうこんな所にいる理由はねえし、力が戻った喜びを噛み締めてる暇もねえ。一刻も早く、この腐った現状を変えねえと」

「……正気か、君は」

「酔っ払ってるように見えるか?」

「ふん、つくづくおかしな男ね。……でも、あんたのデタラメぶりを見てると、本当に何とかしてくれるんじゃないかって気がするのも事実だわ。

 あの小娘、メニマ、だったかしら? ちゃんと忘れずに助けてあげなさい」

「当たり前だろ、分かってる」


 そうだ、その前に、アニンともブルートークで交信してみるか。

 あいつ、今も"回線"を開いてくれてるかな……?


 ――おいアニン、聞こえるか? 聞こえたら返事してくれ。

 ――む、ユーリ殿か。おお、久しいな。


 1回で、しかもさほどの応答時間もかからず脳内に懐かしい声が響いて、思わず笑みを零してしまう。


 ――すぐ繋がるとは思わなかったぜ。

 ――念の為、頻繁に応答できるようにしておいたのだ。ユーリ殿は無事なのか? 色々無茶をしでかしたと聞いているが。


 女子監の方にも噂が広まってたのかよ。

 まあいいや、これからやろうとしてることを考えれば、噂が広まりやすい方が好都合ではある。


 ――色々あったけど、もう大丈夫だ。ご覧の通り、餓狼の力も使えるのが分かったしな。こっから逆転するぜ。ところでシィスは?

 ――ここ数日は顔を合わせておらぬが、きっと元気だろう。時々安否確認と情報共有をする為に会ってはいるが、基本的には別行動を取っているのだ。

 ――そうか。で、進捗はどうよ。

 ――ダシャミエはまだ見つけられておらぬ。それと、我が母の仇もな。ユーリ殿はどうだ、5層で見つけられたか?

 ――いや、情けねえけど、探せる状況じゃなかったんだ。これからきっちり探すわ。

 ――……"ひーろー"としての、最低限の品位は忘れぬようにな。

 ――……分かってる。とりあえず済ませときたいことがあるから、落ち合うのはしばらく後でいいか? 定期的に連絡はするわ。

 ――承知した。


 その後、簡単に約束事などを決め、通信を切った。

 とりあえずアニンもシィスも無事なようで良かった。


 再会を後回しにしてでも、まず済ませときたいことっていうのは、言うまでもない。


「どうしたのよ、黙って突っ立ったまま」

「考え事か」

「あんま気にすんな。待たせて悪いな、じゃ、出ようぜ」


 ……あのブタ野郎をブチのめして、メニマをまともな環境に連れ出す!

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