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47話『ユーリとラレット、タゴールの森で共闘をする』 その2

 目録に書かれていた奴らは一通り網羅されているみたいだが、100点持ちの"水銀魚"は見当たらない。

 それと、カッツが言ってた"鉄の塊の蜘蛛"ってのもいねえな。


「あいつだ! あの奥にいる真っ黒い奴が魔法を使ってきやがるんだ!」


 そしてカッツが指差した、群れの一番奥の方に、それらしき"影"の姿が2つあった。

 本当に影だった。

 とんがり帽子にローブを着た姿の影絵が、立体的に描き起こされたような。

 目を凝らしてみると、若干帽子などの形が違うようにも見える。


「む、無理だぜこりゃあ! とにかく逃げるしかねえって!」

「坊ちゃま、さあ!」

「むう……!」

「なあ、あいつら全滅させたら大量得点じゃね?」

「何言ってるのあんた!? どうかしちゃったの!?」


 そう、普通は恐れるなり、撤退に気持ちを傾けるなりすべきなんだろう。

 自分でもおかしいって分かっちゃいるが、今の俺は妙に落ち着いていた。

 というか、変な高揚感すら覚えていた。

 魔物を狩れなかった欲求不満のせいか?


「心配しなくてもいつも通り、冷静沈着だぜ。俺が出来る限り足止めするからさ、皆は急いで聖都に戻って報告しに行けよ」

「"達"を付け忘れているぞ。私も付き合う」

「わたくしもお伴致しますわ。タルテさんはジェリーちゃんと共にお逃げなさいな」

「わ、わたしだって戦えますっ!」

「ジェリーも、みんながいるほうがいい!」


 おいおい、みんなして残る気かよ。


「見よマンベール。このように婦女子でさえ勇敢な姿を示しているではないか。なおのこと我々も背を向けられぬぞ」


 坊ちゃんにそう言われた執事が何かを言いかけようとした時、いきなり後ろにいた4頭の馬が激しくいなないた。

 ずっと大人しくしてたってのにどうしたってんだ。しかも全頭。


「"悪夢の霧"だ! 静まらせろ!」


 誰でも構わないと執事が命令を出すが、誰も反応しなかった。

 いや、できなかったと言う方が正しい。

 暴れ馬、なんて言葉じゃ表現しきれないほどの狂い方で、目を血走らせた白馬たちは唾を撒き散らして、馬車を引いたまま魔物の群れへと突っ込んでいったからだ。


 俺もできない人間の一員で、流石にブラックゲートで割って入って阻止する勇気はなく、近くにいたタルテとジェリーが巻き込まれないよう手を引っ張るのに精一杯だった。

 自ら喰われに行ったようにしか見えない馬たちは、大きな樹に激突してしまい、倒れ込んだ所にすかさず亡者たちがたかり、全身を貪り食われていく。


「見るな」

「ううん、ジェリーはへいき。タルテおねえちゃん、だいじょうぶ?」

「……ええ、大丈夫よ」


 どう見ても大丈夫そうじゃなかったが、気丈な振る舞いを無下にするほど野暮じゃない。


「図らずも道が1つに絞られたなマンベール。馬車を失っては容易に逃走などできまい」

「……致し方ありません。こうなれば存分に我が腕、振るうとしましょう。加えて今この時のみ、僭越ながら私が指揮を取らせて頂くこと、お許し下さいませ」

「うむ、異存ない。お前の手足となろう。互いの立場、今は忘れるがいい」


 執事も、事ここに至ってはと覚悟を固めたらしい。

 金属球のついた杖を高く掲げ、


「全員、戦闘態勢! ユーリ=ウォーニー一行、諸君らも奮戦してもらうぞ!」


 よく通る声を一層張り上げる。

 執事を臨時指揮官として、俺達の戦いが始まった。


「っしゃあ! 全員無事に生き残るぞ!」

「ふっ、初めて君と意気投合できた気がするぞ、ユーリ=ウォーニー」


 坊ちゃんが剣を抜きながらそんなことを言って、不敵な笑みを作ってみせた。


「ジェリー、森の植物を痛めちゃうだろうけど、ごめんな」

「うん、しょうがないのは分かってるから」


 さて、共闘が決まったとはいえ、急造の団体でちゃんと連携して戦えるんだろうかという一抹の不安もあった。

 ましてや俺は集団戦闘が得意じゃない。

 餓狼の力なんて持ってるからか、どうも大人数だと上手く協調して戦えないんだよな。


「ユーリ=ウォーニー殿! 貴殿は最前線で力を振るって頂きたい! 可能ならば魔女の影を! 判断は全て任せる!」


 しかし指揮官殿の方も心得ていたようで、実に明快な指示を与えてくれた。


「了解!」


 んじゃ、景気付けの一発だ!

 既に絶命した馬に群がっている残骸共に、扇状にしたクリアフォースを上から叩きつける。


「っしゃあ大量得点! ディケットさん、今のちゃんと記録して下さいよ!」

「承知しております」


 真面目に答えられた。

 半分くらい冗談だったんだけど。


「全員、"悪夢の霧"の侵入に気を付けるように! 接近されても吸い込まなければ問題はない! 万が一侵入を許しても意志を強く保つのだ! 恐怖や不安は魔物の糧となるぞ!」


 遊び心が利いた俺の言葉をまるっきり無視するかのように、執事の助言が飛ぶ。

 なるほどね、魔女の影の次に厄介なのはあいつって訳か。


 よし、ちょっと危険は伴うけど、積極的に狙ってみるか。

 なるべく範囲を絞るようにして……


「レッドブルームッ!」


 取り付いた馬から出てきた所を目がけて炎の花を咲かせてやると、悪夢の霧は顔を歪め、蒸発した。

 仕留められたのは2匹だけで、もう2匹は逃がしちまったが、また狙い直せばいい。

 当たりさえすれば、簡単に仕留められるみたいだ。


「張り切っているなユーリ殿。私もやる気を出すとしようか。――"大地響"!」


 左側にいたアニンも前線に躍り出て、気を纏わせた剣を地面に叩き付ける。

 "大地響"は確か……そう、地面を揺らして足場を不安定にしつつ、石や土砂とかを叩き付けて攻撃する技だ。

 威力自体はそんなに高くないけど、ああやって雑魚を散らすにはちょうどいい。


「ラレット=ウォルドー、推して参る!」


 他の皆も続々と攻撃を開始し始めた。


「ウォルドー式剣術・清澄の十字刺突ッ!」

「坊ちゃま、どうか前へ出過ぎぬよう」

「好敵手に後れを取ってなるものか! お前も付いて来い!」


 大包丁や餓狼の力を振るう合間に2人の戦いぶりをチラッと覗き見してみたが、確かに相当な使い手のようだ。

 全く無駄のない動きで杖や魔法を扱う執事はやっぱり只者じゃないし、坊ちゃんの方は何と"剣技"を使っていた。

 アニンのそれとは流派が違うみたいだが、あの若さで使えるなんて相当な修練を積んだんだろう。


「このッ! このッ!」


 その後に、三日月斧を必死に振るって頭骨の魔物を叩き落そうとしているカッツの姿を見ると、何だかちょっと悲しい気持ちにもなる。

 ……まあ、こいつも決して弱い訳じゃないんだけどさ。


 それはさておき、今の所はこちらが優勢だ。

 数が多いのと、少しばかりしぶといってぐらいで、個々の強さは大したことがないみたいだ。

 考えてみれば本来は2人1組で大量に狩ることを想定してたんだから、こうなるのも当然か。

 狩りの前に張った結界を中心に円陣を組み、前衛と後衛に分かれて戦うという執事の描いた絵図を、忠実に推し進めていた。


「栄華は刹那、貫くも刹那、美しく散り逝け、"儚き悲槍"と共に! ……忌々しい、森に漂う邪気のせいか、いつものような美しさと力強さがありませんわ」

「従うべくは真理ではなく友誼、聞け友よ、"泥の輩"よ! ……お人形さんたちも、動きがゆっくりだよ!」


 結界内で魔法を使っていたミスティラとジェリーが、揃って不調の声を上げる。

 とはいえ戦況に大きな悪影響はない。


「ならば陣頭に立ちこの槍を振るうのみ! 行きますわよ!」

「お待ち下さいミスティラ様! 危険です」

「わたくしにはお構いなく。己の身くらい己で守れますわ」


 記録係や従者がミスティラを諌めているのは、傷一つ付けぬ心掛けで死守しろと、護衛を坊ちゃんから命じられているからだ。

 俺からは御愁傷さまとしか言いようがない。


「……ッ!」


 そして、タルテも一生懸命に頑張っていて、結界の内側から矢を放ち、迫り来るキノコ人間や犬を仕留め続けていた。

 敵を射ることしか頭にないようで、緊張を通り越した必死の形相をしている。

 メルドゥアキの弓の効果もあるから、味方を誤射する心配はないだろう。


 時折、森の奥から新しい魔物が現れはするものの、この分なら大きな問題はなさそうだ。

 着実に総数は減ってきている。


 警戒すべきは魔女の影か。

 一応動向に気を配ってはいるんだけど、仕掛けてくる様子はないし、魔力を高めている気配も恐らくない。

 ただひらひらと、その厚みのない体を活かして木々をすり抜け、こちらの攻撃が届かないように森のあちこちを移動していた。

 そのせいで中々狙うことができない。

 俺と坊ちゃんが倒しに行く予定なんだが、いずれもまだ手を出せずにいる。

 まるで無言で魔物を指揮しつつ、自分は的確に安全地帯を選んでいるみたいなんだよな。


「ちょこまかしてねえで、いい加減喰らいやがれッ!」


 とはいえただ見てるだけってのも何だから、時々クリアフォースを放ってみてるんだが、ダメだった。

 今回も八面怨魂が横から割って入ってきて盾になりやがって、届かなかった。


「クソッ!」


 まあいいや、雑魚を片付けた後、じっくり料理してやればいい。

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