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47話『ユーリとラレット、タゴールの森で共闘をする』 その1

「……は?」


 前方の藪から飛び出してきたのは、魔物どころか、俺を落胆させるには充分すぎるくらいふざけた存在だった。


「うお、ユーリ!」

「カッツ!?」


 傭兵仲間のカッツだった。

 三日月斧を肩に担いで、間の抜けた顔をしてるのが尚更ムカつく。


「んだよガッカリさせやがって。お前を倒しても1点にもならねえってのに」

「何訳分かんねえこと言ってんだ。どうしてこんな所にいるんだよ。お前らも仕事か?」

「いや、勝負の最中だ。仕事って何だよ」

「この森が大昔、フラセース側と敵対してた邪教の根城で、今もまだ未発見の隠れ家とかがあるってのは知ってんだろ?」

「まあな」

「本当かどうか知らねえけど、森の奥深くに未発見の転移魔法陣があるらしいんだわ」


 転移魔法陣ってのは、早い話が魔法陣から魔法陣へ瞬間移動できる装置だ。

 誰が作ったのかはよく分かっていないらしく、大昔から存在するんだとか。


 便利極まりない装置だが、現存するものは国家単位の存在が厳重に管理しているため、残念ながら一般人が使うことはできない。

 また、魔法陣のあった場所に主要都市や城が建設されていることも多い。

 ワホンだと、ファミレにはないらしいけど、首都のショルジンにはあるって話を聞いたことがある。


「で、とある筋から傭兵組合を通じて、それを探す依頼を受けたって訳なんだけど……」


 そこまで言ってカッツは周囲をキョロキョロと見回す。

 そういやこいつ、あちこちケガしてんな。


「とんでもねえことになっちまった。お目当てを見つけるよりも前に、やばい魔物と出会っちまったんだわ」

「お、水銀魚か?」

「いや、見たこともねえ奴らだ。10人以上の隊を組んで来たんだけど、全然歯が立たねえんだわ。半分くらいやられちまって、結局逃げることにしたんだけど、生き残った連中とは散り散りになっちまうし……反則だぜあの強さは。魔法を撃ってくる影みてえなのとか、鉄の塊でできた蜘蛛みてえな奴とかよ」

「それは、まさか……」


 珍しく、記録係が能動的な反応を表した。


「ユーリ=ウォーニー殿、狩りは一時中断です」


 更に、思いもよらない言葉を連ねてくる。


「どういうことすか」

「そちらの方の仰ることが事実ならば、"撤退に専念すべき魔物の発見・遭遇"という中断要件に該当します。念の為、拠点へお戻り下さい」


 あー、そういや事前に渡された注意書きに"厄介すぎるから戦っちゃダメ"みたいな文言でそんなことが書いてあった気がする。

 なんて名前だったっけか。


「皆様、左右に散って下さい! 早く!」


 記録係がいきなり張り上げた大声で、考え事は中断させられた。

 カッツが右に、記録係が左に跳ぶ。


「え……?」


 場慣れしてないがためか、タルテは反応できずに棒立ちしていた。

 前方からは強い魔力の気配。

 魔法発動は時間の問題。


 抱えて飛ぶ時間はねえ!

 防御だ!


 タルテの前に立つと同時にホワイトフィールドを張ると、轟音を伴う凄まじい風が木々を薙ぎ倒し、草や葉を吹き飛ばして迫ってきた。

 が、白い薄布の障壁が、魔法を遮断する。

 この魔法、確かゲマイさんが使ってた……"暴君の凱旋"!?


「あ……ご、ごめんなさい」

「いいって。絶対守るっつったろ」


 ゲマイさんが使ってたのより若干威力が弱かったため、全く問題はない。

 ぶっ放したのは考えるまでもなく、カッツが言ってた、影みたいな魔物の仕業だろう。

 不意打ちとはいい根性してやがる。

 今度はこっちから仕掛けてやるぜ。


 暴風の鎮まった森の中で耳を澄ますと、笑い声のようなものが小さく聞こえてくる。

 妙に甲高くて振幅が規則的な、不快感を煽るような、どちらかと言えば音に近い声。


「確定的ですな。"魔女の影"です。急いで引き返しましょう」


 記録係は、明らかに焦っている、というより、笑い声の発信源を恐れていた。


「戦って倒せないんですか」

「無謀です」


 ぴしゃりと言われ、もう話し合いの余地はないとばかりに、紐を通して首にかけていた笛をくわえて強く吹いた。

 しかし音は出ない。

 何か詰まってるのか? 手入れ不足か?


「引き返します。急いで下さい。それと決して油断されぬよう」


 それでも本人的にはあれでいいようだ。

 こっちの返事を待たず走り始める。

 一体何だってんだ。そんなヤバい奴なのかよ。

 まあ、この人が焦るぐらいなんだから相当なんだろう。従っとくか。

 タルテを危険に晒す訳にもいかねえし。


 しんがりは記録係が務めてくれるらしい。

 責任感があるこった。


「……ラレット様の方でも、"魔女の影"と遭遇したと連絡がありました」


 道をしばらく走っていると、記録係が独り言のように声を発する。

 どうやって連絡を取っているのか聞いてみると、訓練した人間だけが聞き取れる特殊な音を出す笛を使っているという答えが返ってきた。

 つまり、さっき吹いたやつだな。失敗じゃなかったって訳だ。


 念の為、ブルートークでアニンにも確認を取ってみたら、記録係が言った通りの状況説明をされた。

 やれやれ、こいつはちょっとばかし面倒なことになりそうだ。


「おいユーリ」


 と、頼んでもいないのに先頭を走っていたカッツが顔だけをこっちに向けてくる。


「んだよ」

「お前、この間はよくもあんなちんちくりんを俺に紹介しやがったな!」

「ちんちくりん? ……ああ」


 固有名詞が欠けていたが、誰を指してるのかすぐに分かっちまった。


「結局飯だけ食って終わっちまったんだぞ! 何かする気も起きなかったわ! とんだ大損こいちまったぜ!」

「紹介したのは俺じゃなくてアニンだろ。あいつに文句言えよ」

「アニンさんにそんなこと出来る訳ねえだろ」

「ふん、ヘタレが。あいつじゃなくても同じ結果だったんじゃね?」

「うるせえよ、"やらずの"ユーリのくせに」

「んだとぉ!?」

「ちょっと、詳しい事情は分からないけど言い争ってる場合じゃないでしょ!」


 ……仰る通りだ。

 それにしても、こういう時も突っ込みを忘れねえのな、こいつ。






 魔女の影とやらにも呆れられちまったのか、道中特に追撃を受けることも、他の魔物と出くわすこともなく、開始地点まで戻ることができた。


「無事なようだな」


 坊ちゃん達は既に戻っていた。

 全員、外傷はないようだが、アニン以外は揃って緊張した顔をしている。

 カッツが顔をしかめているのは、同じ依頼を請け負った仲間の姿が見当たらないからだろう。


「で、これからどうするんすか」

「うむ、私は迎え撃つべしと考えている。無論、君達に強要はしない。逃げたくば逃げたまえ。勝負は後日仕切り直すとしよう」

「坊ちゃま、勇気と蛮勇を履き違えてはなりません。"魔女の影"は紛れもない難敵。せめて援軍を要請すべきです」

「黙れマンベール! ウォルドー家の男子たる者、敵に、まして聖国に仇なした邪教の者共に背を向けるなどあってはならぬ行為だ! 父上もかつて幾人もの魔女の影を討ったと聞いているぞ」

「ですが」


 交戦派の坊ちゃんと非戦派の執事で意見が割れてるって訳か。

 従者や記録係は無言で事の成り行きを見守っている。

 どちらが採用されるにせよ、自分は従うだけだと考えてるんだろう。

 俺的には坊ちゃんの方に賛成票を投じたい所だが……


「猶予はないようだぞ」


 議論を制したのは、アニンの静かな声だった。


「うそ……っ!」


 タルテが声を詰まらせてたじろいだのも無理はない。

 大量の魔物が姿を現して取り囲んできやがったからだ。


「勢揃い、ってか」


 人や動物の死体に取り付いて動かすキノコ、食いかけのように身体の一部が欠落した"残骸蛙"や"残骸蛇"、不自然な形状をした浮遊する頭蓋骨・"病みし頭骨"、ガス状の集まりに顔らしきものが浮かぶ"悪夢の霧"、幾つもの苦悶する顔がくっついて球状の塊になった"八面怨魂"……

 どいつもこいつも奇怪で異様で気味が悪く、こうやってワラワラ出てこられるとB級映画を思わせる。

 森中の魔物が集まってきたんじゃないかってぐらいで、それぞれ軽く10数匹はいる。

 つーか今までどこに隠れてやがったんだよ。

 いるんなら最初から出てこいっての。

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