石
一緒に勉強した結果は、凄まじいものだった。わたしはギリギリ合格だったのに、レオは満点を取ったのだ。わたしは嫉妬心で、倒れそうだった。レオは、一緒に勉強させてもらったからだよと、照れ臭そうに笑っていたけど、わたしは多分、授業中ほぼずっと寝ているレオの数倍は勉強していたはずだ。教えなければよかった、と思うほど、わたしはレオを憎んでいった。
「あすは。これ、あげる。お礼だよ。」
レオは、すっと左手を差し出した。
「これは…」
「家の裏庭に落ちてたんだ。綺麗だったから、少し彫ってみたんだけど…」
自信なさげに、俯きながら話すレオの左手は、わたしに差し出されたまま、ぶるぶる震えていた。
静かにその石を、両手で受け取った。
限りなく透明に近い青色で、飴玉一個分くらいの小さな石。表面には、見たこともない不思議な模様が浮かび上がっていた。緑色の蔦のようなものが、リボン状にからまり合い、その先の方から水色の花が咲いている。なぜか、その水色の花と、目が合ったような気がした。そらすことも出来ず、息を呑んで見つめる。
「それは、僕のすきな花なんだ。見たことないけど、ずっと心の中にあるんだよ。」
はっとして、レオを見つめた。肩まである長い真っ黒の髪が、窓からの風に揺れている。7月の暑い太陽が、レオの顔を照らしていた。長い睫毛がきらきらしている。外国人みたいな高い鼻、青白い唇、真っ白の肌。身長は180センチ以上あるから、148センチしかないわたしは、レオの顔を下から見つめる。今にも、瞳から雫が溢れそうだった。
「レオ、泣いてるの…?」
それには答えずに、レオはじっと瞳を閉じていた。
さっきまでの黒い感情が、少しずつ溶け出していく。
多分、レオは全部わかっていて、わたしにこの石をくれたのだ……
「レオ、ごめんね。」
一緒に勉強しなきゃよかった、なんて思ってしまって。
レオは、ゆっくりと首を振った。まっすぐな瞳がわたしを見つめる。青みがかった黒く大きな瞳。
なぜか、わたしは、ずっと前からその瞳を知っているような気がした。
「これ、ありがとう。大切にする。」
レオは頷いて、少しだけ笑った。