第十話 星を創った学生たち
今年で十五回を数えるプラネットコンテスト。プラネットメーカーのユーザーたちが創り上げた、惑星の美しさを競う大会である。
毎年、プラネットコンテストに参加してくるのは、個人はもちろん、わたしたちのような学校のクラブ活動、企業の専門チームなど二十団体ほどであった。
わたしたちなんちゃらプラネットは、惑星を創るのが第一目的であったが、コンテストに参加して入賞することが最終目標でもあった。
数日前までは、その目標に手が届きかけていた。しかし、わたしの命を救うため、完成した惑星をシステムリセットしてしまう。みんな、そのことには納得していたが、目の前で大会が進行しているのを見ていると、自分たちもそこに立っていたはずだとどうしても考えてしまうのだった。
「あ〜ぁ…。誰かさんがシステムリセットをしなければな〜〜〜…」
瑞希は、見せつけるように、大きなため息をつく。もちろん、システムリセットをしてしまった健介ちゃんに対する皮肉である。
「あのな〜…。あれは、真菜を助けるためだって、説明しただろうが…」
健介ちゃんにも、瑞希が冗談で皮肉っていることはわかっている。それでも言い訳を繰り返すのは、健介ちゃんもコンテストのことを残念に思っているからだろう。
「確かに…。あの星で参加していれば、優勝は確実だっただろうな…」
神倉先輩は、今大会で発表された惑星の写真が載っているパンフレットに視線を向ける。何回チェックしても、プラネット・マナを超える美しさの星は見当たらなかった。
「昴先輩〜…」
健介ちゃんは、困ったように苦笑する。もちろん、神倉先輩は事実を口にしただけで、健介ちゃんを責めているわけではない。
「はいはい…、いまさら愚痴ってもしかたないでしょ♪ それより、そろそろ入賞した惑星が発表されるみたいだよ」
若葉先輩は、舞台上のスクリーンに注目する。
今大会で出展された惑星の数は、十七個と意外に少なかった。その中で、ベスト5の惑星が入賞したことになるわけだ。
しばらくすると会場の照明が落とされて、舞台上のメインスクリーンには、第五位の惑星が映し出された。その瞬間、会場内にたくさんの拍手が沸き起こる。映し出されたのは、土星のように美しいリングを持つ惑星であった。
司会進行の女性が、惑星の基本情報を発表する。
「え〜っ! あれが五位なの〜?」
瑞希は、抗議の声を上げた。瑞希の予想では、さらに上位であったのだろう。
スクリーン上では、次々に入賞した惑星が発表される。そして、ついに優勝した惑星が映し出された。優勝したのは、プラネットコンテストでは常連となる企業チームが持ち込んだ惑星であった。
美しさからいえばそれほどでもなかったが、二つの月を持つみごとな惑星である。
「やはり、アレが優勝か…」
予想通りの結果に、神倉先輩は大きく頷いた。
すると、会場内にファンファーレが鳴り響き、舞台上に五つのガラスケースが現れる。今回、入賞した五つの惑星が入ったケースである。入賞した惑星は、表彰式が終われば自由に近づいて見ることができるのだ。
入賞した惑星を創ったユーザーたちの表彰式が無事に終了する。
「昴…。もう帰りましょうか…」
若葉先輩は、神倉先輩に小声で囁く。入賞した惑星を間近でみたところで、哀しくなるだけである。どうしても、プラネット・マナと比べてしまうからだ。
「そうだな…。みんなも、それでいいか?」
神倉先輩は、健介ちゃんと瑞希に視線を向ける。二人も同じ気持ちなのか、反対することはなかった。
そのとき、会場内がひときわ大きくざわめいた。人々は、メインスクリーンに注目している。そこには、プラネットコンテストの象徴となっているブループラネットが映し出されていた。その美しさは、映像でありながらも、今回入賞した惑星らと比べ物にならないほどである。だが、何度も目にしているはずのブループラネットを見て、なにをいまさら騒いでいるのだろうか…。
「ちょっと待て…。あれって、本当にブループラネット…なのか?」
神倉先輩は、いち早くブループラネットの様子が違うことに気づいた。
「うそ…でしょ…」
若葉先輩も、その違いに気づいたようである。スクリーンに映っているブループラネットの陰から、惑星の四分の一ほどの大きさをした“月”が出現したからだ。
メインスクリーンに、“PLANET MANA”という文字が表示される。そして、その左右には、次々と惑星に関する情報が映し出された。
「アレって、マナ先輩の惑星だよ!」
瑞希は、健介ちゃんの腕を抱えて上下に揺らす。健介ちゃんは、驚きのあまり、思考が固まっているようだった。
『これは、今回のコンテストに参加するはずだった惑星…。私立白鳳学園なんちゃらプラネットが誕生させた“プラネット・マナ”です♪』
突然、スピーカーから聞き覚えのある声がした。
舞台を見ると、白衣を着て、グリグリメガネをかけた優子さんがマイクを手に立っていた。
『なんちゃらプラネットは、事故によって意識不明となった部員のために、この惑星を創り上げました。ですが、完成した惑星のデータは、不幸なことに失われてしまったのです』
優子さんは、わたしの状態や時空力のことは伏せて、惑星誕生までの話を“美談”として発表する。神倉先輩たちは、都合の良いように解釈された話に、おもわず苦笑してしまった。
『その、なんちゃらプラネットのみんなが、この会場に来てくれています♪』
優子さんが会場に手を突き出すと、神倉先輩たちにスポットライトが当った。神倉先輩たちは、飛び上がるように驚く。その途端、会場内には、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
神倉先輩たちは、会場係員に舞台上へと連れられていく。その間も、会場内の拍手は鳴り止まない。第二の奇跡の星が誕生したこと、優子さんが少しだけ脚色した美談に、みんなが感動しているようだ。
『すでに惑星本体が失われているため大会の審査対象から外れてしまいましたが、これほど素晴らしい惑星が誕生していたという事実を皆さんにも知っていただきたい…。また、非常に難しい惑星を創り上げたなんちゃらプラネットのみんなを、特別賞として表彰したいと思います♪』
さすがは元スーパーアイドル。優子さんは、入賞作品の表彰式以上に、場を盛り上げていた。
「わ、若葉せんぱ〜い…」
瑞希は、緊張した面持ちで、若葉先輩にしがみ付く。コンテスト出場を目指してはいたが、このような形で参加することになるとは思ってもいなかった。はっきりいって、心の準備がまったく出来ていない。
『では、部長の神倉昴くんに話を聞いてみたいと思います。昴くん…、奇跡の星と呼ばれるブループラネットを誕生させた感想は?』
優子さんは、神倉先輩にマイクを突き出す。しかし、神倉先輩は、岩のように固まってしまって言葉が出てこない。
『え〜っと…、緊張してるのかな〜?』
優子さんは、苦笑しながら若葉先輩に視線を向ける。若葉先輩は、涙目になりながら、首を横に振っていた。
ちなみに、このコンテストの様子は、全世界に中継されている。さすがの神倉先輩も、緊張によって頭が真っ白となっていたのだろう。
困った優子さんは、比較的落ち着いていそうな健介ちゃんに目標を定めた。
『じゃあ、健介ちゃん。部を代表して、なにかひとこと…』
優子さんは、健介ちゃんにマイクを突き出す。健介ちゃんは、非常に不機嫌そうな表情で呟いた。
「事前に話ぐらいしておけってんだよ…。この鳥人間が…」
健介ちゃんは、小声で話したつもりだったが、その言葉は高性能のマイクによって拾われてしまう。
優子さんの額に怒りマークが浮かび上がる。優子さんは、健介ちゃんの首に腕を回し、抱えるようにおもいっきり絞め上げた。
『どうやらなんちゃらプラネットのみんなは、感激のあまり言葉が出てこないようですね〜』
優子さんは、健介ちゃんの首を絞めながら、表彰式を進行させる。時折、ジタバタする健介ちゃんの頭に、拳をグリグリと押しつけていた。
『それでは、プラネットコンテスト特別賞を授与します♪』
優子さんは、惑星の形を模したトロフィーを、神倉先輩に差し出す。
『おめでとう♪』
健介ちゃんを脇に抱えながら、優子さんはにっこりと微笑んだ。
「あ、ありがとうございます!」
我に返った神倉先輩は、身体を震わせながらトロフィーを受取る。ズッシリと重いトロフィーを持ち上げ、おもわず涙ぐんでしまうのだった。
再び会場内に拍手が鳴り響く。とても嬉しそうな神倉先輩たち…。そんな中で、健介ちゃんだけが、優子さんに抱えられたまま、ぐったりと力尽きていた。
プラネットコンテストで特別賞に輝いたなんちゃらプラネットは、表彰式の後、会場に来ていたユーザーや報道関係者の質問攻めにあっていた。実際の惑星は壊れてしまっていたが、みんなは奇跡の星を誕生させたその経過を知りたかったようだ。
しかし、プラネット・マナは、ほとんど偶然に誕生した惑星であるため、神倉先輩たちにも詳しく説明することができない。それでも、恒星誕生の直前に通過した衛星、システムバグによる座標の仮設定、惑星が誕生した後に起こった彗星との衝突など、普通では考えられないような出来事の数々に驚きの声が上がっていた。
また、入院中のわたしのために惑星を完成させた事実は、人々の心に大きな感動を与えたようである。そんな美談を、マスコミがほおっておくわけはない。あらためて取材をしたいという申込みも、数社から聞かされた。
神倉先輩たちは、しばらく開放されることがなかった。すると、再び現れた優子さんが、質問を切り上げるように人々を追っ払ってしまう。
「いや〜、みんな大変だったね〜♪」
優子さんは、まるでひとごとのように苦笑する。もちろん、こうなったのは、優子さんがみんなに黙ってプラネット・マナを公開した所為であった。
「でも…、いつの間に惑星の映像を録画していたんですか?」
神倉先輩は、優子さんにそんなことを問いかける。あれほど美しい映像を撮るためには、かなりの設備が必要となるはずだ。
「あれは、復旧したログデータから、映像だけを取り出したものだよ〜」
優子さんは、平然とそんなことを答える。システムリセットをすれば、全てのデータはクリアされるはずだが、開発者の優子さんなら復旧することも可能だったようだ。
「けっ…。どうせなら、惑星そのものを修復しやがれってんだ…」
健介ちゃんは、とても小さな声で文句を言う。その途端、優子さんのつっこみが健介ちゃんに炸裂した。健介ちゃんは、後頭部から煙を出してうずくまってしまう。
「もぉ〜、そんな無茶を言わないの〜♪」
優子さんは、倒れている健介ちゃんを指でつつく。犬猿の仲に見えるこの二人…。じつは、かなり気が合っているようであった。
金緑石に戻ってきた神倉先輩たちは、駅前でも報道関係者に囲まれてしまう。まるで、芸能人にでもなってしまった気分である。
報道関係者が集まるということは、金緑石に発令されていたマスコミ禁止令が解除されたのだろう。つまり、飛鳥さんは世界のどこかにある聖域に戻ってしまい、樹神神社へ向ったとしても会うことができないはずだ。
飛鳥さんには、これまでお世話になりっぱなしであった。ぜひともお礼を言いたかったのだが、それはもはや叶わなくなってしまったようである。彼女が人間神さまであることを考えると、もう二度と会うことはないのかもしれなかった。
神倉先輩たちは、報道関係者を振り切って、わたしの入院している総合病院へ駆け込んだ。さすがに敷地内まで入ることは躊躇ったのか、報道関係者は出入口の外で中継をはじめた。
「ふぅ〜…、やれやれ…だな」
神倉先輩は、天井を見上げるような姿勢で額の汗を拭う。
「さて、野乃原さんの病室に行こうか」
神倉先輩は、みんなを引き連れて、病室へと向かうことにした。
今回、病院にやって来た理由は、プラネットコンテストで特別賞に輝いたことを、入院しているわたしに報告するためである。そう…、わたしの意識は、いまだ戻らないままであった。
優子さんの話では、時空のズレが修復されたとはいえ、魂と身体の回復には時間がかかるという。命を落とす危険は回避されたものの、いつ意識を取り戻すかはわからない。明日になるか、一年先になるか…。それは、誰にもわからないことであった。
「マナ先輩、こんにちは〜♪」
瑞希は、ノックも早々に病室へと飛び込む。相変わらず目覚めないわたしと、少しだけ元気になったお母さんがみんなを出迎えた。
「みんな…、やったわね♪」
お母さんは、みんなに向けてピースサインをする。どうやら、お母さんもプラネットコンテストの中継を見ていたようである。神倉先輩たちは、恥ずかしそうではあったが、満面の笑みを浮かべるのだった。
「マナ先輩…。見てください、わたしたち特別賞を貰ったんですよ♪」
瑞希は、特別賞のトロフィーを掲げる。そして、トロフィーとプラネット・マナが映っているプレートを、わたしの枕元に置いた。しかし、わたしは何の反応も示さない。瑞希は、どこか寂しそうに苦笑していた。
「えっと…。野乃…、真菜さんの様子はどうなんですか?」
神倉先輩は、お茶を用意しているお母さんに問いかける。お母さんは、テーブルにティーカップを並べながら、わたしに視線を向けた。
「そうね〜。優子にも見てもらったんだけど、どこにも異常はみられないから安心して♪」
お母さんは、にっこりと微笑む。数日前のように、命の火がいまにも消えてしまいそうな状態から考えれば、意識が戻らないとはいえ、回復に向かっているといえるだろう。
「魂を回復させるために眠っているみたいだから、そのうち起きるでしょ♪」
お母さんは、意外にも落ち着いているようである。
「そうですか…」
神倉先輩は、安心したように胸を撫で下ろす。直接的な原因ではなかったとはいえ、部活動で起こった事故であるため、かなり負い目を感じているようであった。お母さんは、そんな神倉先輩の様子をジッと見つめる。
「健介くん、健介くん…」
お母さんは、健介ちゃんを手招きで呼び寄せて、内緒話でもするように囁いた。
「神倉くんも素敵な子みたいだから、真菜のハートをゲットするなら、もっと頑張らなくっちゃダメだからね♪」
その瞬間、健介ちゃんは、豪快にずっこけてしまった。
「ま、麻衣さん…?」
健介ちゃんは、顔を真っ赤にさせながら苦笑する。
「あ〜…。いまから、“お母さん”って呼び方に慣れておく〜?」
お母さんは、いたずらっぽく微笑んだ。どうやら、優子さんから様々な情報が伝わっているようである。健介ちゃんは、どう反応していいのかわからず、かなり焦っているようだ。それを見ていた瑞希は、なぜか不機嫌そうな表情をしていた。
「さてと…。あまり長居するわけにもいかないから、そろそろ失礼しましょうか…」
若葉先輩は、苦笑しながら神倉先輩に声をかける。
「そうだな…」
神倉先輩は、出された紅茶を飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。
「それでは、ボクたちはこれで失礼します…」
神倉先輩は、お母さんに深々とお辞儀をする。
慌てて引きとめようとするお母さんに、首を振って遠慮する神倉先輩…。お母さんたちがそんなやり取りをしているとき、健介ちゃんはベッドに寝ているわたしの元にやって来ていた。
健介ちゃんは、寝ているわたしの顔をジッと見つめる。そして、ゆっくりと近づき、わたしの耳元で小さく囁いた。
「お〜ぃ、真菜〜〜〜。そろそろ朝だぞ〜〜〜…」
健介ちゃんにとって、わたしを起こすことは毎日の日課となっている。そんな日課のように、軽い気持ちで声をかけたのだろう。意識を戻さないわたしが、僅かでも反応してくれることを願って…。
「うにゅ〜〜〜。健介ちゃ〜ん…、あと五分…」
わたしは、そんな言葉を呟いて、寝返りをうつ。
「なっ!」
僅かどころではない反応に、健介ちゃんが驚愕する。
「おい! 真菜!」
健介ちゃんは、大きな声で叫び、わたしの身体を揺らした。
そんな健介ちゃんの行動に、帰ろうとしていた神倉先輩たちがびっくりする。慌てて止めようとした神倉先輩たちだったが、その光景におもわず息を呑んでしまった。
「もぉ〜、なによ〜〜〜…」
意識不明だったわたしが、むくりと身体を起こす。眠そうに目を擦りながら、無理矢理起こそうとする健介ちゃんに文句を言った。
「あと五分ぐらい…」
その瞬間、呆然と立ち尽くす神倉先輩と、視線が重なってしまう。
「かかか、神倉先輩!」
なぜわたしの部屋に神倉先輩がいるのだろうか…。わたしは、いまいち状況が掴めず、パニックとなってしまった。
「マナ先輩ーーー!」
途端に、瑞希が体当たりをするように抱きついてきた。
「マナ先輩、マナ先輩!」
瑞希は、泣きじゃくりながら、何度もわたしの名前を叫ぶ。
「えっ、あれ? …瑞希?」
わたしは、さらに混乱してしまう。よくよく見れば、ここはわたしの部屋ではないみたいだ。
「え〜っと…、あれ〜?」
わたしは、何があったのかを思い出そうとする。しかし、頭の中にモヤがかかっているように何も思い出せない…。
「時間はたくさんあるんだ…。ゆっくりと、思い出せばいいよ…」
そんなことを言って、健介ちゃんがわたしの頭に手を乗せてくる。見上げてみると、健介ちゃんは、もの凄く優しそうな顔で微笑んでいた。
夏休みも終り、新学期が始まった。
無事に意識を取り戻したわたしだったが、その後も体力の回復のために入院を続けていた。お母さんは仕事に戻り、何もすることが無いわたしは暇な時間を過ごすことになる。
また、奇跡の星を誕生させたなんちゃらプラネットは、いまや世間の話題を独占していた。
先日も、特別番組製作のため、テレビ局のスタッフがこの病室を訪れた。恥ずかしながら、生まれてはじめてインタビューというものを経験してしまう。ただし、わたしはずっと意識不明で入院していたことになっていたため、自分のために惑星が創られたことへの質問がほとんどだった。
わたしは、魂だけが別次元に飛ばされるという信じられない体験をした。そんな出来事も、いまでは夢だったのではないかと思えてしまう。もちろん、健介ちゃんから夏合宿の話を聞いて、自分の記憶が間違いでなかったことは確認できていた。それでも、現実味が感じられない不思議な体験であった。
さらに、宇宙空間で聞かされた優子さんの話も驚きだった。
プラネットメーカーとは、実際の惑星を観察して、生物が住めるように環境を整える装置であるという。それが本当なら、プラネットメーカーのユーザーたちは、知らない間にとんでもない計画へ参加していたことになる。
ちなみにこの事実は、優子さんの他に、わたしと飛鳥さんしか知らない…。わたしは、このことを誰にも話すつもりはなかった。優子さんの言うように、ユーザーは難しいことを考えず、シミュレーションゲームとして、プラネットメーカーを楽しめばいいと思ったからだ。
わたしが意識を取り戻してから、優子さんは一度だけお見舞いに来てくれていた。
優子さんは、一つの指輪をわたしに手渡してくれる。その指輪は、ショウさんの形見であり、時空力を封じる効果があるという。わたしに目覚めようとしている時空力は、異世界でも特殊な力であるそうだ。しかし、普通に生活する分には邪魔以外のなにものでもない。今回の事故のように、自分の意思とは関係なく、時空力が発動してしまう可能性も出てくる。そのため、指輪の力で、時空力を封じてしまおうというのだ。
指輪を鎖に通し、ペンダントとして身に付ける。この指輪をしている限り、プラネットメーカーに近づいても、力が暴走することはないそうだ。
これで全てが解決したことになり、平穏な日常が戻ってくることだろう。だが、全てが元通りになったわけではなかった。わたしたちがプラネット・マナを誕生させたことは、さらに騒ぎを引き起こす結果となってしまった。
「それで…。なんで健介ちゃんが、こんな時間、こんな場所にいるのかな〜?」
わたしは、お見舞いに来てくれた健介ちゃんに問いかける。時刻は午前十時二十三分…。平日に…、しかもこんな時間にやって来るなど、学校はどうしたのだろうか。
「禁止されていたのに惑星を創ったから、一週間の自宅謹慎…」
健介ちゃんは、平然とその理由を答える。学園の設備を使わなかったとはいえ、なんちゃらプラネットの活動は禁止されていた。それが、プラネット・マナの発表によって、活動していたことを学園側に知られてしまったようである。
「って…。健介ちゃん、自宅謹慎の意味、知ってる?」
わたしは、おもわず苦笑してしまった。謹慎中なのに、こんなところに来ている場合ではないだろう。
「まぁ〜、健介ちゃんが来てくれたのは嬉しいけどね…」
わたしがそう呟くと、健介ちゃんは顔を赤くして視線を逸らせる。
「あっ! べ、べつに変な意味じゃないからね! 暇だったから…。そう、暇だったのよ!」
わたしがおもわず力説すると、健介ちゃんは、大きなため息をついて項垂れてしまった。
あの事件がきっかけで、わたしの健介ちゃんに対する気持ちが、少しだけ変化してしまったようだ。わたしは、健介ちゃんのことを優しいお兄さんのように思っていた。それなのに、いまでは健介ちゃんの言動を妙に意識してしまう…。自分でもよくわからないが、それは、神倉先輩を想う気持ちとは、また違ったものであった。
病室内に気まずい空気が流れる。すると、健介ちゃんは、何かを思い出したかのように、鞄から一冊の雑誌を取り出した。
「これ…、来る途中に本屋で買ってきた…」
健介ちゃんは、わたしに雑誌を手渡してくれる。それは、本日発売された映画雑誌のようであった。
最新の映画情報や、製作中の作品が紹介されている雑誌である。映画ファンでもない健介ちゃんの買うような雑誌ではなかったが、今回ばかりはそうはいかなかったようだ。雑誌の表紙には、製作決定作品として、“PLANET MANA”の文字がデカデカと載っていたからだ。
「うわぁ〜…。本当に映画化されるんだ〜〜〜…」
わたしは、大汗をかきながらページをめくりはじめる。雑誌には、映画作品“PLANET MANA”の特集が、数ページに渡って載せられていた。
「なんだか、どんどんおかしな方向に進んでいっちゃうね…」
わたしの呟きに、健介ちゃんも苦笑する。まさか、映画化の話まで飛び出すとは思わなかったようだ。
しかも、映画を製作するのは、海外の某有名スタジオである。創られる映画の全てがヒットすることでも知られており、そんなスタジオが製作することも大きな話題となっていた。
それほどまでに、今回の一件は、人々の心を捉えてしまったのかもしれない。
事故に巻き込まれた部員のため、奇跡の星を創り上げようとする。最終的に完成することはなかったが、コンテストでは特別賞に輝く。さらにダメ押しとして、受賞したことを知らせに行くと、それまで意識不明だった部員が目を覚ます…。そんな話を聞いているだけでも、感動的な作品が出来そうな気がするのだった。
「それにしても、豪華な俳優ばかりだね…」
わたしは、演出者の紹介を見て、冷や汗をかいてしまう。あまり詳しくないわたしでも知っているような、有名な俳優ばかりが揃っていたからだ。ちなみに、わたしの役には、天才として名高い美少女俳優が充てられていた。それに気づいた健介ちゃんは、必死に笑いを堪えている。
「な、なによ〜! それなら、健介ちゃんはどうなの!」
健介ちゃん役にも、とても人気のある若手俳優が充てられていた。
「ふっふ〜ん。オレの魅力が充分にわかっているのさ〜♪」
健介ちゃんは、非常に無意味なポーズをとった。どうでもよかったが、神倉先輩役の俳優よりかっこいいのが納得できない。わたしは、ムッとしながら、次のページをめくった。
そして、載っていた写真を見てぶっ飛んでしまう。わたしと健介ちゃん役の俳優たちが、抱きしめ合うように身体を寄せて、お互いをジッと見つめていたからだ。
「あが…」
わたしは、おもわず奇妙な声を上げてしまう。どうやらこの映画は、主人公の健介ちゃんが、事故によって意識不明となってしまった恋人のため、奇跡の星ブループラネットを創ろうとする物語であるという。その恋人というのが、わたしであるようだ。
「まぁ〜、幼馴染みより恋人って設定のほうが、盛り上がるだろうけど…」
健介ちゃんは、照れたように頬を赤くする。だが、問題はそんなことではない。こんな映画が公開されれば、世間は、わたしと健介ちゃんが恋人同士であると誤解するのではないだろうか…。
映画が公開されるのは、来年の夏頃だという。その頃のわたしたちは、いったいどうなっているのだろう。もしかすると、この映画のようになっているかもしれない。わたしは、苦笑しながらそんなことを考えていた。
わたしと健介ちゃんがおしゃべりしているとき、大きなニュースが世界中を駆け巡っていた。
こことは違う別の銀河で、地球によく似た惑星が発見されたというニュースである。水が豊富な青い惑星で、四分の一ほどの大きな月をもっているという。そして、驚くべきことは、惑星が発見された座標であった。その座標は、なんちゃらプラネットがゲーム中に惑星を誕生させたのと、まったく同じ場所であったのだ。
惑星にある大陸の形もよく似ており、まるで、ゲームから飛び出してきたように思えてしまう。そのため、発見された惑星は“マナ”と名付けられることになった。
おそらく、今回発見された惑星は、わたしたちが観察していたプラネット・マナそのものであろう。その考えが正しいかどうかは、優子さんにしかわからない。ただ、わたしたちなんちゃらプラネットは、本物の惑星を創った学生として、さらに有名になってしまうのだった。
星を創造するという真菜たちのお話し、いかがだったでしょうか?
自分も更新するとき、久しぶりに読み返してみたんですが、面白いと思える反面、他シリーズ(Crystal Legend)のキャラクターの意味不明さが際だっているように感じました。(反省しております…)
ストーリー的には良かったかもしれませんが、個人的には四話から八話辺りを無かったことにしてしまいたいです。(書き直したい?)
じつは、「なんちゃらプラネット2」というのも書いていたんですが、同じく他シリーズの影響が強くなりすぎて中断していたりします(苦笑)。
ちなみに、タイトルの「なんちゃら」については、書き始めたときに良いタイトルが思いつかず、仮につけていたところ、読者の中でも定着してしまったといった理由があります。
本文中にある「なんちゃら」の部分は、読まれる方が自由に脳内変換してください。
最後に、ここまで読んでいただき、まことにありがとうございました。できれば感想などいただけると、とても嬉しいです。(調子にのりすぎ♪)
2008/03/18 Crystal
「なんちゃらプラネット」2004/06/29〜2004/10/28 連載作品
同一作者小説紹介
★Crystal Legend シリーズ★ 「Crystal Legend 7_2 〜トルマリンの胎動〜」、「Crystal Legend 7_3 〜はじまりの時代〜」、「Crystal Legend 7_4 〜もしかして怪談?〜」
★超獣神グランゾル シリーズ★ 「超獣神グランゾル」、「鳳凰編」
★なんちゃらプラネット シリーズ★ 「なんちゃらプラネット」
★美咲ちゃん シリーズ★ 「〜もしかして怪談?〜」
★4コマ劇場 シリーズ★ 「桜のひみつ」、「ラズベリル☆ショート劇場」