うえーい☆ご主人様
メイドロボの彼女が素っ頓狂な声をあげたので警備員に一瞬のスキが出来た。
今がチャンスといわんばかりに警備員の脇をすり抜けていく。そして素っ裸の彼女をかっさらうと、まだドアの開いているエレベーターに一緒に乗り込んだ。
作業着姿の男がまだエレベーター内にいたので突き飛ばしたらスーツ姿の男に勝手にぶつかっていった。
二人が揉みくちゃになりながら倒れていくのが閉まる間際のエレベーターのドアから見えた。
自分でいうのもなんだけどこんなに上手くいくとは思ってなかった。
でも一番驚いているのはこの娘かな?
エレベーター内の端でキョトンと突っ立っている。
私は切れる息を整えながら彼女に聞いた。
「どこに行けば解体処分をナシにできるの?」
「えっ、えっとその」
どうやら彼女は事態を飲み込めてないみたい。もどかしくなって適当な階数を押した。早くエレベーターを動かさないとさっきの連中に追い付かれてしまう。
軽い振動と共にエレベーターは昇り始めた。ヤツらは乗り込んでこなかったので第一段階は成功だ。
しかし、この娘はナゼ素っ裸?
気まずいので首に巻いてるストールを肩から掛けてあげた。全身は無理だけど足しにはなるかな?
彼女がちょっと戸惑ったように見えたがロボットとはいえ隠す所は隠してもらわないと…
てかこの娘。恥ずかしいとかないの?
そんな事を考えてるウチにエレベーターは停止した。ドアが開くと先程とは違うスーツ姿の男性と鉢合わせしてしまった。
知らない女とストール一丁のメイドロボを見て、男はまるでお化けでも見るような感じで叫んだ。
「おいおまえ!何で戻って来た!」
そのセリフで私は悟った。こいつがこの娘をこんな目にあわせてるヤツか!怖気付いている彼女の手を引いてエレベーターをズカズカと降りると開口一番。
「ちょっと!この娘の解体処分を取り消しなさいよ!!」
とありったけの力を腹に込めて叫んだ。あまりの見幕に驚いた男は
「あ、あんた、誰だ?ん?ひょっとして?」
どうやら私の事に気付いたようだが切り返すのが精一杯のようなのでここぞばかりに捲し立てた。
「大体なにをもって依頼主が不幸になったっていうのよ!私は手違いで手配された件はそっちに言ったけど、この娘のせいでイヤな目にあったなんてアンタん所に一言も言ってないわよ!!依頼主の意に反する事してもいいの!?それにメイドロボってもの凄く高いんでしょ!?それを何だかよく解らない理由で処分するなんて会社としてもいいワケ!?」
自分でも信じられない位、出るわ出るわ。男は一言も発する事が出来ずにいた。
そこに先程の連中も合流してきた。形勢が厳しくなりそうな予感がしたけど構いはしなかった。
この娘の上司と思われる男性は仲間を得たかのようで表情に余裕が出てきた。
「大体アンタ思いっ切りコイツの事、疫病神と罵ったじゃないか。」
私はその言葉に違和感を感じた。ナゼそんな事を知っているのか?
まさか!
「ちょっとアンタ、映像の記録見たわね。」
しまった!という表情をこの娘の上司はしたが後の祭り。私は正に水を得た魚のように追撃に出た。
「本人の承諾も無しに映像の記録を見る事がどんな事か解ってるわよね。それにねぇ、そこにいる警備員だけどアポが無いってだけで私を止めたのよ。私、この娘の働きっぷりに感心してお宅の会社とメイドロボの契約しようと思って来たのにね~」
警備員の顔色がみるみる変わっていく。この娘の上司は警備員に
「キミ、理由も聞かずにお客様を止めたのか?まぁいい。その件は後で。そ~でしたか失礼しました。どうぞこちらへご案内いたします~。」
この娘の上司の態度の急変ぶりにコッチが驚いた位だ。でもまだ解体業者がポカーンと突っ立っている。私は
「ねぇ。あの人達は?」
と、言うと。
「あぁ、解体の件はナシだから」
と言い放った。解体業者の二人はスゴスゴとエレベーターに乗って去って行った。
私は応接室に通されこの娘の上司と二人切りで商談に望んだが、疫病神が体よくさばけるのと盗撮の負い目からか格安料金で専属メイドの契約を結ぶ事ができた。
あれやこれやと一段落する頃ドアをノックする音が聞こえた。
私の代わりに「どうぞ」と上司の男が答えるとドアが勢いよく開きアクセサリーのガチャガチャと擦れる音と共にあの娘が入ってきた。
「うぇーい☆ご主人様ぁ!」
そう言いながら彼女は私に抱きついてきた。