ダメダメダメ!!
彼女は自分の腕で乱暴に涙をぬぐうと私に背を向けドアノブに手をかけた。
「おいとまします。」
ポツリとそう言った。私は反射的に
「ちょっと待って!」
と叫んでしまった。彼女は驚いて目をパチクリしながら振り返った。
「確かに彼にフられた時は辛かったわよ。雨は降るしさ。傘は無いし。」
彼女は少し困った表情を浮かべてはいるものの黙って私の話しを聞いていた。
「でも…でもね!ココまで戻って、アナタのその明るい笑顔見れば何とかなると思って…だからお願い!どこにも行かないで!!今夜1人だとどうかなっちゃいそうだよ!」
すると視界が突然ふさがれた。一瞬何が起きたか解らなかったが体の所々にアクセサリーの感触があるので彼女が抱きついた事に気付いた。
ツインテールの片方が目の前でゆらゆらしている。
「解りました。」
と彼女は私の耳元で囁きそっと私から離れると軽く咳払いをして
「とにかくお風呂に入りましょうご主人様!濡れたままだとマズイっしょっ☆」
「アハハ!あなたツケマが片方落ちかけてるのにナニ偉そうにしてるの?」
私達はお互いのボロボロの顔をみて笑い続けた。
そして時間が経つのも忘れしゃべり続けた。お互いの仕事での愚痴に始まり、生い立ち、とにかくなんでもしゃべりまくった。
印象深かったのが彼女にインストールされている心理学のソフトについての事だった。
ヒトは同調されると親近感がわくとの事。
ご主人様が笑っている時に笑い。泣いてる時に泣き。怒っている時に怒る。
そうやってご主人様の心をほぐしていくらしい。
「ねぇ。玄関先で泣いたのもそれ?」
と意地悪な質問を私は彼女にぶつけた。彼女は笑いながら手をアゴに当ててさすりながら
「ん~。どうでしょう?」
と、例の口調で言った。
「ナガシマかよ!?」
私はなんだ誤魔化されたような気がしたが別段気にはしなかった。
そしてしゃべり疲れて知らない間に寝てしまったようでベッドに寝かしつけられていた。
朝日の眩しさで目が覚めると辺りを見渡してみた。そこには派手で賑やかなメイドロボはもういなかった。
「夢?…。」
一瞬そうかと思ったが、テーブルの上に置いてある三つ折りにされた便箋がそうではない事を物語っていた。
手に取り広げてみる。そこには彼女が書いたとは思えない達筆で文章が綴られていた。
ーご主人様へー
この度は手違いとはいえ御利用ありがとうございました。
私は今回の件により解体処分になりましたので次回、御所望されましても残念な事にご期待に添える事ができません。
でも安心して下さい。私より素敵なメイドさんは沢山いますよ。
私と同じように可愛がってあげて下さい。すごく喜ぶと思います。
私も何だかお茶目な先輩ができたみたいで最後の夜はとても楽しかったです。
それではお世話になりました。さようなら
読み終わるとその手紙を私はまた三つ折りにしてテーブルの上においた。
何だろうこの感じ?フツフツとお腹の底から何か沸いてくる感じ。
怒り?違う。
憎しみ?違う。
哀れみ?違う。
悲しみ?違う。
憤り?違う。
とにかくあの娘を失う事が私にとって許せないんだ!そう思うといてもたっても居られなくなった。でもどうすれば救える?
視線を落とすと彼女の手紙の脇に一片の紙切れが。昨日受け取った会社の連絡先だった。よく見ると電話番号の他に住所も書いてあった。