めーく☆みらくる
名刺の様なものを受け取ると私は部屋の中にあるスマホを取りに行った。
とにかくあのトンチンカンなメイドロボを追い返さないと。約束の時間に間に合わなくなっちゃう。
呼び出しのコールがもどかしい。早く出てよ!
玄関の方に目を向けるとさっきのメイドロボが首だけ突っ込んで心配そうにこっちをみている。
コールが途切れて男性の声が聞こえると同時に私は
「間違えて壊れたメイドロボ来てるんですけど!」
出先も確かめずにわめいた。相手の男性は
「しょ、少々お待ち下さい。確認しますので」
と言って電話を保留にした。チープな電子音でベートーベンの「エリーゼのために」が流れている。落ち着くどころか神経を逆撫でされてるようで余計にイラつく。
しばらくすると先程とは違う男性の声で案内があった。私は幾つかの質問に答えると電話を切った。
終話した事に気が付いた彼女は
「あの~どうなりました?」
と、玄関先から不安気に私に聞いてきた。
「間違えて手配したお詫びに今日一日サービスするから自由に使って下さい。だってさ。」
そう伝えると彼女はパァっと明るい表情になり鼻息荒く
「任せて下さい!馬車馬のように働きますよ!フガフガフガ」
「そんな事言われてもワンルームのアパートでやる事なんて…」
私が少し困った表情をすると
「ムフ~☆そんなモノはどうにでもなるんスよ。フヒヒヒ」
と怪しい流し目をしながら彼女は引き笑いをした。
「チョット!余計な事…あーーーーーッ!!」
私は一連のドカチャカで出かける準備をしていた事を忘れていた。
その慌てっぷりに答えるかのように彼女は
「なにかしてた途中系っすか?」
と、私に問いかけてきた。完全にパニックに陥った私を見て部屋の
様子から何か察したようで。
「ダ~イジョウブっすよ☆メイク位私がチャッチャッとやっちまいますから落ち着いて。」
その一言で我に返り、
「え!?そんな事も出来るの?」
「あったり前田のクラッカーっす☆」
「いや、言ってる意味が解んないんだけど…」
「おっと。若い人には解らなかったスかね。とにかく任せて下さい!ご主人様の身の回りのお世話はメイド業のイロハのイですよ♩」
何だか解らないけど自分でするよりかはマシな気がしたので彼女に任せる事にした。
彼女は持参したキャリアーを玄関先で開くとプロのメイクが使う様なメイクボックスを取り出した。
あまりにも本格的なモノが出てきたのでそのチャラけたキャラクターとのギャップに呆気に取られてしまった。
ポカンとしている私に
「あの~さすがに玄関先でメイクするのは…」
と、言われたので私は慌て部屋の中に促した。
部屋の真ん中当たりに小さいテーブルを置いているので向かい合わせに私達は座った。
テーブルに両手をついて身を乗り出してきて彼女は私の顔をマジマジとみると。
「肌、綺麗っすね。これなら…」
自分の肌を誉めたれた事がないので気恥ずかしさでつい
「ギャルメイクなんかにしないでよ」
と皮肉を言ってしまった。
「ふぎゃ☆ギャル差別。ネェさん渋谷歩く時は気を付けなせぇ」
彼女は気にする様子も無く相変わらず昭和風味のトンチンカンな返しをしてきた。
でもそんなやり取りをしているうちにベースのファンデは終わっていた。
「そうだ、何着ていくかまだ聞いて無かったッスね。それに合わせなきゃ。」
「あぁ。あそこに掛けて あるニットのトップスとミニだけど。」
「ナルホド、ナルホド。アングの新作っすね。kankanとか見てる系?つーことは」
彼女の派手なアクセサリーとネイルで彩られた指先が私の顔の前を縦横無尽に動いていく。
「おっし!とりあえずメイクは終わりましたよ。どうでしょう?ダンナ」
彼女は自前のメイクボックスから三面鏡を取り出すと私の前に差し出した。
「ちょっと、なによその床屋みたいな言い…」
三面鏡を見た私は一瞬言葉を失った。確かに私なのだけど明らかにいつもと雰囲気が違う。なんだろう?パッと垢抜けた感じになっていた。
モデルさんとかのナチュラルメイクみたい。10分少々でこんなメイク自分じゃ絶対できない。
「ご主人様は肌が綺麗なのでメイクに頼る事なんてないスよ。このメイクと新作で彼氏さんはメロメロっすよ~☆」
「えっ?何で彼氏に会うこと解ったの?」
「わかりますよ~。新作まで買って会いに行こうなんて彼氏さん以外にだれがいるんスか~」
「とにかく助かったわ。ありがとう」
「ご主人様つぎはコレコレ☆」
彼女はカーテンレールにかけてある服をとってくれた。