ちーっす☆
スマホのけたたましいアラームが聞こえる。
私は画面をタップしてアラームをOFFにするとベッドの中で寝起きの余韻に浸っていた。急かすように朝日がカーテンの隙間から差し込んでくる、少し眩しい。
春先とはいえ温かい布団の魔力は魅力的。
ハッキリしない意識の中で思考を巡らせる。
「まず、シャワー…。何着ていくか決めて…。メイクして…そうだった!」
さっき放り投げたスマホを拾い上げてカレンダーのアプリを立ち上げる。○月○日の所に「3時に新宿東口」と記されている。
「今日だよね。会えるの」
私はスマホを持ったままベッドの上でその喜びを再確認して、そのせいで昨晩の寝付きが悪かった事も思い出した。
とりあえずテレビを付けてみる。お昼過ぎのワイドショーがスイーツの特集をしている。今私が欲しいのはスイーツの情報じゃなくて天気の事なのに!
もどかしい気持ちのままシャワーへと私は向かった。
手早くシャワーを済ますと髪の毛をとりあえずタオルドライしてドライヤーをかけて乾かした。セミロングでストレートの私の髪は手間はかからない。このままブラシで形を整えれば終了だ。
次にメイクだけど相変わらず自信が持てない…。
意を決して鏡の前に座って見るけど、どーも気乗りがしない。時間だけ無駄に過ぎていく。
とりあえずベースだけでもと思い深呼吸をして心を落ち着けてからファンデに手を伸ばす…
「ピンポーン!」
玄関のチャイムが落ち着けた心を再度かき乱す。
「チョット、だれよこんな時に!新聞の勧誘だったら怒鳴り付けてやる!」
怒りに任してドアを勢いよく開ける。しかしそこにいたのは新聞の勧誘でありがちな胡散臭い中年男性ではなくメイド姿の女性だった。
「!?」
何が起きたかわからなくキョトンとしている私をよそに彼女は
「こんにちは!本日はご利用ありがとうございます!私、メイドロボ派遣センターから参りました!」
元気一杯の声でひとしきりの挨拶をしたメイド姿の彼女は深々とお辞儀をした。
その勢いで付けているアクセサリーがガチャガチャと音をたてた。
その音で私は我に返り、彼女をマジマジと見つめた。
映画とかアニメとかで良くみる様なメイド姿だけど何か違う様な気がする。メイドさんって地味なイメージがあるけど…
逆毛でボリュームアップした金髪のツインテールに目の下までずり下げられた細めのサングラス。派手な付けまつ毛に真赤なルージュ。首からは巨大な十字架とイミテーションのパールのネックレスを重ねがけ。腰には白い小さなエプロンはしてあるけど太めのゴツいベルトとチェーンベルトをダブルで巻いている。
オヘソの辺りで組まれた手。その手と手首にはコレでもかというほどリングとアクセサリーが付いている。
「あっははは☆若い方には硬かったッスかね?今の挨拶。こんなカッコですけどガッツリ働きますよ!私」
いきなり飛び出したハイテンションなギャルなノリについていけず、私は動揺半分に
「いや、メイドロボなんて頼んでないんだけど…」
と、いうのが精一杯だった。
「えーーーーっ!!福田トメさんじゃないんスかぁ!?」
「違うわよ!!そんなおばあちゃんみたいな名前じゃないわよ!!」
「チョ、チョットまって下さい!今センターに問い合わせます!…」
メイドロボの彼女はセンターと通信しているのだろうか?首を傾げながら黙ってしまった。調度ヒトがボンヤリ考え事をしている様にみえる。
ポカンと空いた口が少し間抜けだけど…
「あの~」
バツ悪そうに私の顔を覗き込み彼女は話しかけてきた。
「私の内蔵している通信機能がどうやらオシャカになってるようでココに電話して頂けないでしょうか?」
「はぁ!?」
そして、名刺の様な物を私に渡してきた。