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指先で触れた音色に想いを乗せて  作者: 鹿島夏紀
アルエストに残されたもの
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第4話

 ベルリオーズ家の客室に、アルエスト家のヒロナとカノンはお世話になっている。

 朝になるとメイドのノックが部屋に響き、次々に客室に朝食が運び込まれていった。

 久しぶりのきっちりとした朝食。ナイフとフォークなどの食事道具の使い方を忘れていないか心配だったが、使い方は身体が覚えていてくれたようで、ヒロナはホッとしていた。

 一通り食事を済ませると、食べ終えた食器が下げられるのと入れ替わるようにティーカップを載せたワゴンが入ってきた。

 「いい香り……」

 ヒロナがそう言うとワゴンを押してきたメイドが、

 「その紅茶は、ヒロナ様と奥様がきっと疲れているだろうからと、クリュール様が用意した疲労回復などの効果がある貴重な茶葉なんですよ」

 そうにっこりと微笑むメイドに、

 「奥様?」

 反対にヒロナは疑問に満ちた表情を浮かべる。

 「はい、カノン様のことです」

 そっか、クリュールはお母さんと結婚したんだった。と思い出したかのように手を打った。

 それからヒロナとカノンはお茶を楽しみながら会話をした。しかし、母娘(おやこ)の会話のネタなどすぐに底をついてしまう。そこでヒロナは、ワゴンの脇に立ってお茶のおかわりやクッキーを運んだりとしていたメイドも会話に入れようとしたが、メイドは対等の立場で話すなど恐れ多いから無理だと言った。

 そんなメイドにヒロナは「これは命令」というと、メイドはそれならといった様子でテーブルと椅子に近づき、オドオドしながらもちょこんと椅子に腰かけた。

 メイドの名前はエミリオ・ハーシュラーといい、歳はヒロナと同じだった。

 「エミリオって男っぽい名前ね……」

 「ふふ、よく言われます」

 「でも、ヒロナより発育はいいみたいね」

 「そんなことは───」

 ヒロナは自分の身体から、エミリオの身体に視線を移す。

 黒蜜のように(つや)やかで流れるような腰まで黒髪に、華奢ではないが適度に細い体躯。足はスラリと長く、ただ座っているだけなのにどこかなまめかしい。

 そして、何といっても、

 「胸が……」

 エミリオの胸を見た瞬間、ヒロナは唖然とした。カノンほどではないが、同じ歳なのに是程(これほど)にまで差がつくかと、どうしてこうなったと、疑問やら憤りやら悲しみやらいろいろな感情が頭の中を巡った。それも全然サイズがあってないだろうぐらいに胸がメイド服を押し上げ、よくそんなものを着ていられると感心もしていた。

 「楽しそうでなによりだ」

 不意に聞こえたのは、客室の入口に立つクリュールからだった。

 「男子禁制」

 「いつからここは男子禁制になったんだ。それに男子禁制だったらこれを届けれないだろ」

 「なにそれ」

 「まあ、見てみろ」

 クリュールは持っていた紙袋をヒロナたちが使っている紅茶の乗ったテーブルではなく、横にあったもう一つのテーブルに中身を並べた。 

 ヒロナは近々武奏学校に再編入することになっていた。

 「で、これが私の制服」

 「そう。たぶんきっちりサイズあってると思うぞ」

 ヒロナは部屋着の上からシャツに袖を通し、ブレザー型の制服に袖を通す。

 「どうだ?」

 「ウエストも申し分ない。前に着ていたトニカの制服と変わりない」

 そうか、よかった。と言うクリュールに、「でも」とヒロナは疑問と怒りの半分の表情をしていった。

 「……なんで胸囲までぴったりなの」

 「ああ。ウエストを含むなにからなにまでカノンさんに教えてもらった」

 「ということは、私のす、すりー……」

 「おう。それがないと制服なんて作れないしな」

 ヒロナの顔は見るみるうちに真っ赤に染まり、

 「……どうだった?」

 わけの分からない質問をクリュールに投げかけた。

 クリュールは「お前の未来に託せ」と受け流す。それからエミリオの方をチラッと見ると、

 「そしてまあ、珍しい面子だな」

 「あ、あの! すみませんでした! 仕事に戻ります!」

 急に頭を下げてクリュールに謝るエミリオにヒロナとカノンは驚く。

 そして、素早くティーセットを片付けワゴンを押して部屋から出ていこうとするエミリオに、

 「エミリオ? まだ話は終わってないぞ」

 「な、なんでしょうか……」

 「今日はカリンが体調が悪くて買出しに行けなくなった。代わりにお前が行ってくれないか」

 「でも掃除が……」

 「他のメイドに任せるから気にするな。それと、ヒロナたちの普段着る服や生活用品をヒロナたちと一緒に行って買ってきてくれ」

 「わかりました」

 準備をしてきますと部屋を出ようとしたエミリオにクリュールは、「ああ、あとこれを持っていけ」と小さな袋を手渡した。

 「これは……?」 

 「小遣いだ。たまには羽を伸ばしてこい。ヒロナとカノンさんの分は『ベルリオーズ家』名前を使えばい」

 「クリュール様……」

 「そのメイド服じゃない服で行けよ? せっかくの()()()だからな」

 「はいっ」

 元気のいい返事とともにエミリオは部屋を出て行った。

 「へえ~、クリュー君は女の子を口説くのも上手いのね」

 「そんなことじゃありませんよ。エミリオには毎晩お世話になってるんで、たまには羽を伸ばしてもらわないと参っちゃいますから」

 「それはそれは興味深い…… クリュー君はエミリオちゃんと毎晩ナニをしているの?」

 「ああ…… それは両者のプライドとプライバシーに関わるのでノーコメントでお願いします」

 「そんなこと言わずに~、お姉さんに全部話してごらん?」

 「ノーコメントで」

 「クリュー君つれないなあ……」

 「ほら、せっかくの買出しですよ? 二人とも着替えてください」

 「俺は玄関で待ってますから」といってクリュールは部屋から出て行った。

 (クリュールとエミリオってどんな関係なんだろう……)

「恋する乙女の目だわあ......」

「殴られたい?」

「ほらほら、そんな物騒なこと言っていたらクリュー君が嫌がるよ〜?」

「別にクリュールに嫌われようが私には関係ない。それにエミリオとの関係も気になってなんかいない」

カノンはクリュールとエミリオが結構な仲が良さそうな雰囲気だったことと、それをとても気にする我が娘のことを気づいていた。


 

 

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