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指先で触れた音色に想いを乗せて  作者: 鹿島夏紀
アルエストに残されたもの
1/8

プロローグ

ある誰もが眠りについたであろう静まり返った深夜。

私は廊下に響き渡る怒声に起こされた。

「早くでてこい!」

その声は昼間によく聞く声で、私も知っていた。

「娘が寝てます、行きますから静かにしてください……」

お母さん……?

「出てこい」というのは私にではなく、横で寝ていたお母さんにかけられたものだった。

お母さんは目を覚ました私の頭を優しく撫でると、

「ちょっと行ってくるから、静かに寝ていてね……」

そういって出て行った。

次の日もそうだった。静まり返った深夜に決まってその男が現れて、お母さんを外へ連れていく。最初は男一人だったけど、日を重ねるごとに一人、二人、三人、と数を増やして行った。私は何のために外に連れていかれているのかわからなかったけど、朝に帰ってくるお母さんの顔は、悲しみ、屈辱、絶望。とても負に満ちた表情で。涙で濡れていた。

きっと、とても辛い労働をさせられたに違いない。手足には鞭打ちでできたのであろうミミズ腫れができていた。

「その傷はどうしたの?」と聞けば、お母さんは私の瞳を見て「負けてはダメよ。我慢しないと」と言っていた。それは私に伝えたかったものなのか、それとも私の瞳に映った自分にたいして伝えたかったのか。ただ、その一言だけしか話さなかったからわからない。

少し前までは「この国では一番美しい。そして国で一番美しい音色を奏でる」と謳われた自慢のお母さんだった。その娘だと誇りに思った。

それも今では汚名だ。元貴族である私にとってこれほど屈辱的なものはない。最初はいつか見返してやろうかと思っていたけど、ここにきてから、もう手遅れだと実感した。

冷たい石床。寒い寝床。風。ここは牢屋。負けたものが行くなれ果ての場所。

そう。私はここで死ぬ。

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